明日 を 描こ うと もがき ながら ドラマ。 ℃

現実の使い方、ほかの品詞の結びつき|日本語コロケーション辞典

明日 を 描こ うと もがき ながら ドラマ

一 ジャン・ミシェルの死 三か年過ぎ去った。 クリストフは十一歳になりかけている。 彼はなおつづけて音楽の教育を受けている。 フロリアン・ホルツェルについて 和声 ( ハーモニー )を学んでいる。 これはサン・マルタンのオルガニストで、祖父の友人であったが、いたって学者で、クリストフが最も好んでいる和音、やさしく耳と心とをなでてくれて、それを聞けばかすかな 戦慄 ( せんりつ )が背筋に走るのを禁じえない種々の和声は、いけないもので禁じられてるものだと教えてくれる。 クリストフがその理由を尋ねると、規則で禁じられてるからという以外には、彼はなんとも答えない。 クリストフは生来わがままな子だから、そういうものがなおさら好きになる。 人に崇拝されてる大音楽家の作品中にその実例を見出すのを喜びとして、それを祖父か教師かのところへもってゆく。 すると祖父は、大音楽家の作品中ではかえってりっぱになるのであって、ベートーヴェンやバッハなら何をしても構わないと答える。 教師の方はそれほど妥協的でないから、 機嫌 ( きげん )を悪くして、それは彼らの作品のうちのいいものではないと 苦々 ( にがにが )しく言う。 クリストフは音楽会や劇場にはいることができる。 どの楽器でも鳴らすことを覚えている。 すでにヴァイオリンにかけてはりっぱな腕前をもっている。 父は管弦楽隊中の一席を彼に与えてもらおうと考えついた。 クリストフはりっぱにその役目を勤めたので、数か月の見習の後、宮廷音楽団の第二ヴァイオリニストに公然と任命された。 かくて彼は自活し始めてゆく。 それも早過ぎるわけではない。 なぜなら、家の事情はますます悪くなっているから。 メルキオルの放縦はいっそうはなはだしくなっていたし、祖父は年をとっていた。 クリストフは悲しい情況をよく承知している。 彼はもう大人じみた 真面目 ( まじめ )な心配そうな様子をしている。 彼は職務にほとんど興味を見出していないけれども、また晩には奏楽席で眠くなることもあるけれど、勇気を出してやってのけている。 芝居からはもはや、昔の小さい時のような感興を与えられない。 ところが今では、ひかせられる音楽の大部分は嫌いである。 まだそれらの音楽にたいする批評をまとめあげるほどではないが、しかし心の底では、馬鹿らしいものだと思っている。 そして偶然りっぱなものが演奏される時には、人々の愚直な演奏に不満を覚ゆる。 彼が最も好きな作品も、ついには管弦楽団の仲間の人たちに似寄ってくる。 彼らは、幕が降りて、吹き立てたり引っかき回したりすることを終えると、一時間体操でもしたかのように、微笑しながら汗を 拭 ( ふ )いて、つまらないことを平然と語り合うのである。 彼はまた、昔の恋人を、素足の金髪の 歌女 ( うたいめ )を、すぐ眼の前に見かける。 幕間に食堂でしばしば出会う。 彼女は以前彼から 想 ( おも )われたことを知っていて、喜んで抱擁してくれる。 けれど彼は少しも 嬉 ( うれ )しくない。 その 臙脂 ( えんじ )や、香りや、太い腕や、 貪食 ( どんしょく )やで、 厭 ( いや )になっている。 今ではたいへん嫌いになっている。 大公爵はその常任ピアニストを忘れてはいなかった。 たいてい晩のことで、クリストフが一人きりでいたいと思う時刻だった。 彼は万事を投げ出して大急ぎで行かなければならなかった。 時とすると、晩餐がまだ済んでいないので、控室に待たされることもあった。 従僕らは彼を見慣れていて、親しげに話しかけた。 それから彼は、鏡と燈火がいっぱいの客間に案内された。 そこで彼は、様子ぶった人々から、 癪 ( しゃく )にさわるほどじろじろ眺められた。 大公爵夫妻の手に接吻しに行くために、 蝋 ( ろう )引きしすぎたその室を横ぎらなければならなかった。 彼は大きくなればなるほどますます無作法になっていた。 なぜなら、自分が 滑稽 ( こっけい )なような気がして、自尊心が傷つけられるのだったから。 それから彼はピアノについた。 そして時々、周囲の人々の無関心さに不快を感じて、楽曲の真中でぴたりとやめたいほどだった。 まわりに空気が不足していた。 窒息するかと思われた。 演奏が済むと、うるさくお世辞を言われ、一人一人に紹介された。 大公爵の動物園の中の珍しい動物のように人々から 見做 ( みな )されてる、と彼は考え、賛辞は自分へよりもむしろ大公爵へ向けられてる、と考えていた。 自分がいかにも卑しめられたような気がし、病的なほど邪推深くなって、それを態度に示し得ないだけになおさら苦しんだ。 ちょっとした他人の挙動にも、侮辱を見てとった。 客間の隅で笑ってる者があれば、自分についてだと考えた。 そして 嘲 ( あざけ )られてるのは、自分の様子か、服装か、顔付か、足か、手か、いずれともわからなかった。 すべてが屈辱の種となった。 話しかけられなくても、話しかけられても、子供みたいにボンボンをもらっても、みな屈辱を感じた。 とくに、大公爵が 大様 ( おおよう )な 無頓着 ( むとんじゃく )さで、彼の手に金貨を握らして帰してやる時に、彼はひどく屈辱を受けた。 貧乏なのが、貧乏らしく取扱われるのが、悲しかった。 ある晩、家へ帰る途中、もらって来た金を非常に重苦しく感じて、通りがかりにある穴倉の風窓へそれを投げ込んでしまった。 けれどもすぐ後で、 賤 ( いや )しい 真似 ( まね )をしてそれをまた拾い取らなければならなかった。 なぜなら、家では肉屋に数か月分の借りがあったから。 家の人々は彼のそういう自尊心の苦しみにほとんど気づかなかった。 彼らは彼にたいする大公爵の愛顧に歎喜 [#「歎喜」はママ]していた。 人のいいルイザは、宮廷における貴顕社会の夜会に出ることが、息子にとってはこの上もなく晴れやかなことだと思っていた。 メルキオルは、それを友人ら相手にたえず自慢話の種としていた。 しかし最も嬉しがっているのは祖父だった。 独立独歩と、不平家気質と、偉大にたいする軽蔑とを、彼はよく装っていたけれども、しかも富や、権勢や、名誉や、社会的優越にたいして、 質朴 ( しつぼく )な賛嘆の情をもっていた。 彼が無類の誇りとなすところのものは、そういう優越を有してる人々に孫が近づくのを見ることだった。 あたかもその光栄が自分の上にも 光被 ( こうひ )してくるかのように楽しんでいた。 そしていくら平然と構えていようとしても、顔が輝いていた。 クリストフが宮邸へ行った晩には、いつもジャン・ミシェル老人は、なんらかの口実を設けてルイザのところに留っていた。 子供らしくやきもきしながら、孫の帰りを待っていた。 そしてクリストフがもどってくると、何気ないふうでまず彼に言葉をかけた。 つまらない問いのこともあった。 「どうだい、今夜はうまくいったかい。 」 あるいは、わざとらしい遠回しの言葉のこともあった。 「さあクリストフ坊やのお帰りだ、何か珍しいことを話してくれるだろう。 」 あるいは、おだてるためのうまいお世辞のこともあった。 「家の若様、おめでとう!」 しかしクリストフは、むっとして 苛立 ( いらだ )っていて、ごく冷やかに「今晩は!」と一言 挨拶 ( あいさつ )を返すばかりで、隅の方へ行って口をとがらすのであった。 老人はしつこく言い寄って、いっそう明らさまな問いをかけたが、子供はただはいとかいいえとか答えるばかりだった。 他の者もいっしょになって、種々こまかなことを尋ねだした。 クリストフはますます顔をしかめた。 むり 強 ( じ )いに返事をさせなければならなかった。 しまいには、ジャン・ミシェルはじれて腹をたてて、侮辱的な言葉を発した。 クリストフはあまり敬意のこもらない言葉で言い返した。 そしてついには露骨な反感となった。 老人は 扉 ( とびら )をばたりとしめて帰って行った。 かくてクリストフは、それらあわれな人々の喜びをそこなってしまうのだった。 彼らには彼の 不機嫌 ( ふきげん )なわけが少しもわからなかった。 彼らは従僕的な魂の者であるとはいえ、それは彼らの罪ではなかった。 自分らと異なった気質の者もいるということを彼らは思いもつかなかった。 クリストフは自分自身のうちに沈潜していった。 そして家の者らを批判しなくても、自分と彼らとを隔つる 溝渠 ( みぞ )を感じていた。 彼は確かにそれを誇張して見ていたであろう。 たとい思想は異なっていても、彼がもしうち明けて話すことができたら、おそらく彼らから理解せられたかもしれない。 しかしながら、親と子とが最もやさしい愛情をたがいにもってる時でさえも、両者の間の絶対の親和ほどむずかしいものはない。 一方では、敬意があるので、心の中をうち明けようという勇気がくじかれる。 他方では、年齢と経験とにおいて 優 ( まさ )ってるというしばしば誤った考えがあるので、大人の感情と時としては同じくらいに興味深くそしてたいていはより多く 真摯 ( しんし )である子供の感情を、十分の 真面目 ( まじめ )さで見ないようになる。 クリストフが家で見かける来客や、耳にする会話などは、なおいっそう彼と家の者との間を遠ざけた。 メルキオルの友人らがよくやって来た。 多くは管弦楽の楽員らで、酒飲みで独身者だった。 悪い人々ではなかったが、野卑な人々だった。 その笑声や足音で室が揺れるかと思われた。 音楽を愛していたが、たまらないほどの 愚昧 ( ぐまい )さで音楽のことを語っていた。 その感激の露骨な卑しさは、子供の感情の純潔さをひどく傷つけた。 彼らがそうして彼の好きな作品をほめると、彼は自分が 凌辱 ( りょうじょく )されたような気がした。 彼は堅くなり、 蒼 ( あお )くなり、冷酷な様子をし、音楽に興味をもたないふうを装った。 できるならば音楽を嫌いたいほどだった。 メルキオルは彼のことをいつもこういうふうに言っていた。 「 此奴 ( こいつ )には心がない。 何にも感じない。 だれの気質を受けたのかな。 」 時とすると彼らは、ドイツ歌謡をいっしょに歌い出した。 そういう時クリストフは、いちばん遠い室に逃げ込んで、壁に向かってののしっていた。 祖父もまた友人をもっていた。 ルイザの方は、ただ数人の近所の女たちに会うきりだった。 彼女らは 界隈 ( かいわい )の 噂 ( うわさ )話をしていった。 またまれには、ある「親切な奥様」に会うこともあった。 その婦人は、彼女に同情してるという口実のもとに、次の晩餐会の手伝を約束しに来たり、子供らの宗教教育に勝手な干渉をしたりした。 すべての訪問客のうちで、テオドル 伯父 ( おじ )ほどクリストフに厭なものはなかった。 それは祖父の義理の子で、ジャン・ミシェルの最初の妻であるクララという祖母が、初めの結婚に設けた子であった。 彼はアフリカや極東と取引をしてる商館にはいっていた。 新しいドイツ人の一つの 型 ( タイプ )を具えていた。 そういう型のドイツ人らは、民族性たる古い理想主義を 嘲 ( あざけ )って、それを脱却するようなふうを装い、また戦勝に酔って、力と成功とにたいし、自分らがそれをもちつけないことを示す一種の崇拝心をいだいている。 けれども、一国民の古来の性質を一挙に変化せしむることは困難であるから、押えつけられた理想主義は、言葉や、態度や、精神上の習慣や、家庭生活の 些細 ( ささい )な行為に引用せられるゲーテの言葉などのうちに、たえず現われ出していた。 良心と功利との独得な混合であり、古いドイツ中流社会の主義の正直さと、新しい雇用店員階級の卑しさとを、たがいに一致させんための不思議な努力であった。 クリストフの公正な心はそれに深く傷つけられた。 伯父 ( おじ )が正当であるかどうかを彼は判断することができなかったけれども、伯父を忌み嫌い、伯父のうちに敵があるのを感じていた。 祖父もやはり伯父の意見を好まないで、それらの理論にたいして反感をいだいていた。 しかし彼は議論になると、テオドルの快弁にすぐ言い伏せられた。 老人の寛大な純朴さを 嘲弄 ( ちょうろう )するのは、テオドルにとっては容易なことだった。 ジャン・ミシェルもついには、自分の人の 善 ( よ )さが恥ずかしくなった。 そして人が考えてるほど時代おくれでないことを示すために、テオドルと同じようなしゃべり方をしようと努めた。 けれども口の中でうまく調子がとれなくて、自分でも当惑していた。 そのうえどういう考え方をしていても、いつもテオドルに威圧されていた。 老人はたくみな処世術にたいして尊敬を感じていて、自分にまったくできないことだと知ってるだけに、いっそうそれを 羨 ( うらや )んでいた。 孫のうち一人くらいはそういう地位に立たしてやりたいと夢想していた。 メルキオルもまた、ロドルフをその伯父と同じ道に進ませるつもりだった。 それで家じゅうの者は皆、種々な世話を期待して、その金持ちの 親戚 ( しんせき )につとめて 媚 ( こび )を呈していた。 向うでは、自分がなくてならない者であることを見て取り、それに乗じて優者らしく振舞っていた。 彼は万事に干渉し、万事におのれの意見をもち出して、芸術や芸術家にたいする頭ごなしの軽蔑を隠さなかった。 否むしろそれを看板にして、この音楽家ばかりの親戚の一家を侮辱して喜んでいた。 各人について悪い冗談ばかり言っていた。 それをまた人々は卑屈にも笑い興じていた。 とくにクリストフは、 伯父 ( おじ )の嘲弄の 的 ( まと )となっていた。 そして彼は我慢強くなかった。 厭な様子をして、黙って歯をくいしばった。 伯父はそのむっと口をつぐんでるのを面白がった。 ところがある日、食事の時テオドルから法外にいじめられると、クリストフは我を忘れて、彼の顔に 唾 ( つば )を吐きかけた。 それはたいへんなことだった。 異常な侮辱だった。 伯父は初めはっとして黙った。 次に口を開いて 悪罵 ( あくば )を浴せかけた。 クリストフは自分の仕業にぞっとして、 椅子 ( いす )の上に堅くなり、雨と降ってくる 拳固 ( げんこ )を受けても感じなかった。 しかし伯父の前に引据えて 跪 ( ひざまず )かせようとされた時、彼は 暴 ( あば )れだし、母をはねのけ、家の外に逃げ出した。 息がつけなくなってからようやく野の中に立止った。 遠くに自分を呼ぶ声が聞えていた。 相手を河に投込むことができないとすれば、自分でそこに飛び込んだがましかもしれない、と彼は考えてみた。 野の中で彼は夜を明した。 黎明 ( れいめい )のころ、祖父の家へ行って戸をたたいた。 彼はクリストフを家に連れて行った。 家の者もわざとなんとも言わなかった。 彼がまだやはり 激昂 ( げきこう )状態にあるのがわかったのである。 そして彼を大目に見てやらなければならなかった。 なぜなら彼は宮廷の晩の演奏に出ていてくれたから。 そして伯父のテオドルは、往来でクリストフに出会うと顔をそむけ鼻をつまんで、深い嫌悪の情をありったけ見せつけた。 彼は家の者から同感されることが少なかったので、できるだけ家にじっとしていなかった。 皆が自分に押しつけようとするたえざる拘束に苦しんでいた。 その理由を議論することも許されないで、ただ尊敬しなければならないような、人間や事物があまりたくさんあった。 しかもクリストフは尊敬心をもっていなかった。 人々が彼を訓練してドイツの善良な市民に育てあげようとすればするほど、ますます彼は束縛を脱したがった。 彼の楽しみとするところは、退屈な 容態 ( ようだい )ぶった我慢できない音楽会を、劇場の奏楽席やまたは宮廷で過ごした後、子馬のように草の中に転がったり、新しいズボンのまま芝生の斜面を滑り降りたり、近所の 悪戯児 ( いたずらっこ )らと石合戦をしたりすることだった。 けれどそうしばしばやるわけではなかった。 それも 叱 ( しか )られたり 殴 ( なぐ )られたりするのが 恐 ( こわ )いから控えていたのではなくて、仲間がないからであった。 彼は他の子供らと調子よく交わることができなかった。 街頭の浮浪少年らさえ彼といっしょに遊ぶことを好まなかった。 なぜなら彼は、遊びにも本気になりすぎて、あまりひどく打ち回ったからである。 そして彼は同じ年ごろの子供たちから離れて、一人黙然としがちになっていた。 彼は遊戯の 下手 ( へた )なのが恥ずかしくて、皆の仲間にはいるだけの元気もなかった。 そして面白くないようなふうを装いながらも、人から誘ってもらいたくてたまらなかった。 しかしだれもなんとも言ってくれなかった。 彼は 憂鬱 ( ゆううつ )な気持になって、冷淡な様子で遠ざかっていた。 彼の慰安は、 叔父 ( おじ )のゴットフリートが土地にいる時、いっしょに歩き回ることだった。 彼はますます叔父に接近していって、その何物にもとらわれない気質に同感していた。 どこにもつなぎ止められないで勝手に放浪することのうちに、ゴットフリートが見出していた喜びを、今では彼もよく理解していた。 しばしば彼らはいっしょに、夕方、野の中を、あてもなく、ただまっすぐに歩いて行った。 そしてゴットフリートはいつも時間を忘れていたから、よく遅くもどって来ては 叱 ( しか )られた。 皆が眠ってる間に、夜分にそっとぬけ出すのも、また楽しみだった。 ゴットフリートはそれを悪いと知っていたが、クリストフはむりに 強請 ( せが )んだ。 ゴットフリートもその楽しみを制することができなかった。 夜半のころ、彼は家の前にやって来て、約束どおりの口笛を吹いた。 クリストフは着物を着たまま寝ていた。 寝床から滑りぬけ、靴を手に取った。 息を凝らしながら、野蛮人のような 狡猾 ( こうかつ )さで四つ 這 ( ば )いになって、往来に向かってる台所の窓のところまでやって行った。 そこにあるテーブルの上に上った。 向うからゴットフリートが、彼を肩に受け取った。 そして二人は、小学校の子供のように喜びながら、出かけてゆくのだった。 時とすると彼らは、ゼレミーを捜しに行くこともあった。 ゼレミーは漁夫で、ゴットフリートと仲良しだった。 三人は月の光を頼りに、その小舟に乗って走った。 櫂 ( かい )からしたたる水は、ささやかな 琶音 ( アルペジオ )や半音階を奏した。 乳色の 靄 ( もや )が河の 面 ( おも )に揺れていた。 星がふるえていた。 鶏が両岸で鳴きかわしていた。 時とすると、月の光に欺かれて地から舞い上がった 雲雀 ( ひばり )の 顫律 ( トリロ )が、空の深みに聞えることもあった。 皆黙っていた。 やがてゴットフリートはある歌の 節 ( ふし )をごく低く歌った。 ゼレミーは動物の生活の不思議な話をきかした。 簡単な 謎 ( なぞ )のような調子で言われるので、なおその話が不思議に思われた。 月は森の後ろに隠れてしまった。 一同は丘陵の 仄 ( ほの )暗い段々に沿って進んだ。 空と水との 闇 ( やみ )が溶け合っていた。 河には波の 襞 ( ひだ )もなかった。 あらゆる物音が消え去っていた。 舟は夜の中を滑っていった。 いや、滑っているのか、浮かんでいるのか、じっと動かないでいるのか?…… 葦 ( あし )は絹ずれのそよぎで開いていった。 音もなく岸についた。 地に降りて、歩いて帰った。 夜明けにしかもどらないこともあった。 いつも河の縁をたどった。 麦穂のような緑色や宝石のような青色をした白銀魚の群が、黎明の光にうごめいていた。 パンを投げてやると、むさぼるように飛びついてきて、メデューサの頭の 蛇 ( へび )みたいに動き回った。 パンが沈むに従って、そのまわりに降りていって、 螺旋 ( らせん )状に回り、次には、光線のようにすっと消えてしまった。 河は 薔薇 ( ばら )色と 葵 ( あおい )色との反映に染められていた。 小鳥は次から次へと眼をさましてきた。 彼は急いで帰っていった。 出かける時と同じように用心をして、空気の重苦しい室にもどり、寝床にはいった。 クリストフは眠気がさして、野の匂いの 沁 ( し )みたさわやかな身体のまま、すぐに眠るのだった。 かくて万事うまくいった。 だれにも少しも気づかれなかった。 ところがある日、弟のエルンストが、クリストフの抜け出すことを言いつけてしまった。 それ以来、抜け出すことを禁ぜられ、監視された。 それでも彼はやはり抜け出していた。 他のどんな連中よりも、小行商人とその友人らとの方が好きであった。 家の者らは外聞にかかわると思った。 メルキオルは彼に 下賤 ( げせん )な趣味があるのだと言っていた。 ジャン・ミシェル老人は彼がゴットフリートを慕ってるのを 妬 ( ねた )んでいた。 そして、優良な社会に接し高貴な方々に仕えるの名誉をもってるのに、そういう卑しい人々と交わって喜ぶほど身を落すのはよくないと、いろいろ説いてきかした。 クリストフには気品がないのだと人々は思っていた。 メルキオルの放縦と遊惰とにつれて家計の困難はつのってきたけれど、ジャン・ミシェルがいる間は、どうかこうか生活してゆけた。 ただ彼一人が、メルキオルに多少の威力をもっていて、ある程度までその堕落を引止めていた。 また彼が受けてる世間の尊敬は、 酔漢 ( よいどれ )の不品行を他人に忘れさせるのに役だたないではなかった。 また彼は一家の貧しい暮しを助けてくれた。 彼は前音楽長として受けていたわずかな年金のほかに、なお音楽を教えたりピアノの調律をしたりして、いくらかの金額を手に入れていた。 そしてその大部分を嫁のルイザに与えた。 彼女は自分の困窮を、いくら彼の眼に入れまいとしても隠しきれなかった。 老人が自分たちのために不自由をしてるかと思うと、彼女はやるせなかった。 老人はいつも豊かな生活になれていて、欲望が強かっただけに、そう思われるのも無理はなかった。 が時とすると、その犠牲の金でも十分でないことがあった。 ジャン・ミシェルはさし迫った負債を払ってやるために、大事な道具や書物や記念品などを、秘密に売り払わなければならなかった。 メルキオルは父がひそかにルイザへ補助を与えてるのに気づいていた。 そしてしばしば、なんと 拒 ( こば )まれてもそれに手をつけることが多かった。 そして二人の間には、ぞっとするような光景が演ぜられた。 二人ともなみはずれて気荒かった。 すぐにひどい言葉を言い合いおどし合った。 今にも殴り合いが始まるかと思われた。 しかし憤怒の最中にも、押うべからざる尊敬の念が常にメルキオルを制していた。 そして酔っ払ってはいたが、父から浴せられる侮辱的なののしりや 叱責 ( しっせき )のもとに、ついに頭を垂れてしまった。 それでもやはり、またせしめてやろうと次の機会をねらうのであった。 ジャン・ミシェルは将来のことを考えながら、きたるべき悲しいことどもをはっきりと感じた。 「かわいそうな子供たち、」と彼はルイザに言っていた、「もしわしがいなくなったら、皆どうなるだろう。 ……でも幸いとわしは、」とつけ加えながらクリストフの頭をなでた、「この子がどうにかやってくれるようになるまでは、まだ達者でおられるだろう。 」 しかし彼は見当違いしていた。 彼はもう生涯の終りに達していた。 そしてまただれもそれに気づかなかった。 彼は八十歳を過ぎてるのに、髪の毛もそろっており、まだ灰色の毛の交った白い頭髪はふさふさとして、濃い 頤髯 ( あごひげ )には真黒な毛筋も見えていた。 歯は十枚ばかりしか残っていなかったが、それで強く 噛 ( か )みしめることができた。 食卓についた様子を見ると心強かった。 頑健 ( がんけん )な食欲をもっていた。 メルキオルには飲酒を非難していたが、自分は盛んに飲んでいた。 モーゼルの白 葡萄 ( ぶどう )酒をとくに好んでいた。 そのうえ、葡萄酒も、ビールも、 林檎 ( りんご )酒も、すべて神の 創 ( つく )り出した逸品ならなんでも、それを賞美する 術 ( すべ )を心得ていた。 そして杯の中に理性を置き忘れるほど思慮に乏しくなかった。 適度にとどめていた。 とはいえその適度というのがまた多量で、もっと弱い理性ならその杯の中に 溺 ( おぼ )れるだろうということも、真実だった。 彼は足が丈夫で、眼がよく、疲労を知らない活動力を具えていた。 六時にはもう起き上がって、細心に身仕舞をしていた。 礼儀に注意し体面を重んじていたからである。 家の中に一人で暮していて、みずから万事をやってのけ、嫁に手出しされることをも許さなかった。 室をかたづけ、コーヒーの支度をし、ボタンをつけ直し、 釘 ( くぎ )を打ち、 糊 ( のり )張りをし、修繕をした。 シャツ一枚になって、家の中を上下に 往 ( ゆ )き来し、アリアに 歌劇 ( オペラ )の身振りを伴わせて、響きわたる好きな 低音 ( バス )で、しきりなしに歌っていた。 自分の用件を一つも忘れず果しに行った。 しかし時間を守ることはいたって少なかった。 知人と議論をしたり、顔を見覚えてる近所の女に冗談を言つたりしてるのが、街路の方々で見られる。 愛くるしい若い女と古い友人とを、彼は好きだったのである。 そういうふうにして道で手間取って、決して時間を頭においていなかった。 けれども食事の時間を通り過すことはなかった。 人の家に押しかけて行って、どこででも食事をした。 自宅にもどるのは、長く孫たちの顔を眺めた後、晩に、夜になってからだった。 寝床にはいると、眼を閉じる前に、古い聖書の一ページを寝ながら読んだ。 そして手当たりしだいに、面白かろうと、退屈しようと、よくわからなかろうと構わずに、一語もぬかさず、いくページかを読むのであった……また眠気がさしてくるまでは。 日曜日には、教会の礼拝式に行き、子供らと散歩をし、 球 ( まり )遊びをした。 ただ足指に少し神経痛の気味があって、聖書を読んでる最中に、夜を 呪 ( のろ )うことがあるばかりだった。 その調子でゆくと、百年くらいは生き 存 ( ながら )えられそうに思われた。 また彼自身も、百歳を越せないという理由を少しも認めていなかった。 百歳で死ぬだろうと人に予言されると、天意による恩恵には制限を付すべきものではないと、世に名高いあの高齢者と同様なことを考えていた。 彼が老いてゆくのを認められるのはただ、ますます涙もろくなることと、日に日に怒りっぽくなることばかりだった。 ちょっとした我慢がしきれずに、狂気じみた憤怒の発作を起こした。 その 赭 ( あか )ら顔と短い 頸 ( くび )とが真赤になった。 恐ろしく口ごもって、息がつけないで言いやめなければならなかった。 旧友でありまたかかりつけである医者が、自分で用心をするように彼に注意し、憤怒と食欲とをともに節するように注意を与えていた。 しかし彼は老人の癖として 頑固 ( がんこ )で、ますます不節制をして虚勢を張っていた。 医学と医師とを 嘲 ( あざけ )っていた。 死をひどく軽蔑してるふうを装って、少しも死を恐れていないと言い切るためには、長々と弁じたててやめなかった。 ごく暑い夏のある日、たくさん酒を飲んでおまけに議論をした後、彼は家に帰って、庭で働きだした。 彼は地を耕すのが好きだった。 帽子もかぶらず、日の照る中で、まだ議論のために 激昂 ( げきこう )したまま、 疳癪 ( かんしゃく )まぎれに 耘 ( うな )っていた。 クリストフは書物を手にして、青葉 棚 ( だな )の下にすわっていた。 しかし彼はほとんど読んでいなかった。 蟋蟀 ( こおろぎ )の眠くなるような鳴声に耳を貸しながら、夢想に 耽 ( ふけ )っていた。 そしてなんの気もなく、祖父の動作を見守っていた。 老人はクリストフの方に背中を向けていた。 背をかがめて、雑草を取っていた。 すると突然、すっくと立上り、両腕を 空 ( くう )に打振り、それから一塊の物質のように、地面へ 俯向 ( うつむ )けにばたりと倒れたのが、クリストフの眼についた。 クリストフはちょっと笑いたくなった。 ところがなお見ると、老人は身動きもしなかった。 彼は呼びかけ、そばに駆けつけ、力の限りゆすぶった。 恐ろしくなった。 そこにかがんで、地面にぴったりついてるその大きな頭を、両手でもち上げようとした。 頭は非常に重かったし、彼はぶるぶる震えていたので、やっとのことで少し動かせるばかりだった。 けれども、血のにじんだ真白な引きつけてる眼を見た時、彼は恐ろしさのあまりぞっと寒くなった。 鋭い叫び声をたてて頭を取落した。 駭然 ( がいぜん )と立上がって、その場を逃げ、表に駆けだした。 叫びまた泣いていた。 往来を通りかかった一人の男が、彼を引止めた。 彼は口もきけなかった。 家の方を指し示した。 男は家にはいっていった。 彼もその後についていった。 近所の人々も、彼の叫び声を聞いてやって来た。 間もなく庭は人でいっぱいになった。 彼らは花をふみにじり、老人のまわりに頭をつき出して、皆一度に口をきいていた。 二、三の人々が老人を地面からもち上げた。 クリストフは入口に立止り、壁の方を向き、両手で顔を隠していた。 見るのが 恐 ( こわ )かった。 しかし見ないでもおれなかった。 人々の列がそばを通りかかった時、彼は指の間から、力なくぐったりしてる老人の大きな身体を見た。 片方の腕が地面に引きずっていた。 頭は運んでる人の膝にくっついて、一足ごとに揺れていた。 顔はふくれあがり、 泥 ( どろ )まみれになり、血がにじんで、口を開き、恐ろしい眼をしていた。 彼はふたたび 喚 ( わめ )きたて、逃げ出した。 何かに追っかけられてるかのように、母の家まで一散に駆けていった。 恐ろしい叫び声をあげて、台所に飛び込んだ。 ルイザは野菜を清めていた。 彼は彼女に飛びつき、 自棄 ( やけ )に抱きしめて、助けに来てくれるようにたのんだ。 すすり泣きのために顔がひきつって、口もろくにきけなかった。 しかし最初の一言で彼女は了解した。 顔色を失い、手の物を取り落し、なんとも言わないで、家の外へ駆け出していった。 クリストフは一人残って、戸棚にとりすがっていた。 彼はまだ泣きつづけていた。 弟どもは遊びに耽っていた。 彼にはどういうことが起こったのかはっきりわからなかった。 祖父のことを考えてはいなかった。 先刻見た恐ろしいありさまのことを考えていた。 そしてまた無理やりに、それらのさまをふたたび見せられはすまいか、あの処へ連れもどされはすまいかと、びくびくしていた。 そして、夕方になって、他の子供たちが、家の中であらゆる 悪戯 ( いたずら )をして 倦 ( あ )いてしまい、退屈で腹がすいたと 駄々 ( だだ )をこねだしたころ、果して、ルイザはあわただしくもどって来、子供らの手を取り、祖父の家へ連れて行った。 彼女はごく早く歩いた。 エルンストとロドルフとは、いつもの癖でぐずぐず言おうとした。 しかしルイザは黙ってるようにと言いつけた。 その言葉の調子に、彼らは黙ってしまった。 本能的に恐怖を感じた。 家にはいりかけた時、彼らは泣き出した。 まだすっかり夜にはなっていなかった。 夕日の 名残 ( なご )りの光が、扉の押ボタンや、鏡や、ほの暗い広間の壁にかかってるヴァイオリンなどに、異様な反映を見せて、家の中を照らしていた。 しかし祖父の室には、 蝋燭 ( ろうそく )が一本ともしてあった。 その揺めく炎は、消えかかった 蒼白 ( あおじろ )い明るみとぶつかって、室の重々しい 薄闇 ( うすやみ )をいっそう 沈鬱 ( ちんうつ )になしていた。 メルキオルが窓のそばにすわって、声をたてて泣いていた。 医者が寝台の上に身をかがめていたから、そこに寝てる者の姿は見えなかった。 クリストフの胸は張り裂けるばかりに 動悸 ( どうき )していた。 ルイザは子供たちを、寝台の足下に 跪 ( ひざまず )かした。 クリストフは思い切って 覗 ( のぞ )いてみた。 その午後の光景を見た後のこととて、いかにも恐ろしい何かを期待していたので、一目見ると、むしろ心が休まったほどだった。 祖父はじっとしていて、眠ってるように思われた。 クリストフはちょっと、祖父が回復したのだという気がした。 しかしその押しつけられたような息遣いを聞いた時、なおよく眺めて、倒れた傷跡が大きな紫色の 痣 ( あざ )になってる 脹 ( は )れた顔を見た時、そこにいる人は死にかかってるのだとわかった時、彼はふるえだした。 そして、祖父の回復を念ずるルイザの 祈祷 ( きとう )をいっしょにくり返しながら、彼は心の底で、もし祖父がなおらないものなら、もう死んでしまっていてくれるようにと祈った。 これから起こるべき事柄を 怖 ( お )じ恐れていた。 老人は倒れた瞬間からすでにもはや意識を失っていた。 牧師が来ていて、彼のために最後の祈祷を 誦 ( しょう )していた。 老人は枕の上に助け起こされた。 重々しく眼を開いた。 その眼ももはや意のままにならないらしかった。 騒がしい呼吸をし、訳がわからずに人々の顔や燈火を眺めた。 そして突然、口を開いた。 名状しがたい恐怖の色が顔付に現われていた。 「それじゃ……」と彼は口ごもった、「それじゃ、わしは死ぬのか!」 その声の恐ろしい調子が、クリストフの心を貫いた。 その声はもう永久に彼の記憶から消えないものとなったのである。 老人はそれ以上口をきかなかった。 幼児のように 呻 ( うめ )いていた。 それからふたたび 麻痺 ( まひ )の状態に陥った。 しかし呼吸はなおいっそう困難になっていた。 彼はぶつぶつ言い、両手を動かし、死の眠りと争ってるようだった。 半ば意識を失いながら、一度彼は呼んだ。 終焉 ( しゅうえん )の恐怖の中における窮極のしかも無益なる避難所!……彼は一瞬間落着いたように見えた。 なお意識の 閃 ( ひらめ )きを示した。 瞳 ( ひとみ )があてもなく揺いでるように思われるその重い眼が、 恐 ( こわ )さにぞっとしてる子供に出会った。 眼は輝いた。 老人は 微笑 ( ほほえ )もうと努め、口をきこうと努めた。 ルイザはクリストフを抱いて、寝台に近づけた。 ジャン・ミシェルは唇を動かした。 そしてクリストフの頭をなでようとした。 しかしすぐにまた昏迷に陥った。 それが最後であった。 人々は子供たちを次の室へ追いやった。 しかしあまり用が多くて彼らに構っておれなかった。 クリストフは恐さにひかれて、半開きの扉の入口から、老人の悲壮な顔を 偸見 ( ぬすみみ )ていた。 枕の上に 仰向 ( あおむけ )に投げ出されて、首のまわりをしめつけてくる 獰猛 ( どうもう )な圧縮に息をつまらしてる顔……刻々に落ちくぼんでゆく 顔貌 ( がんぼう )……ポンプにでも吸われるように、全存在が空虚のうちに沈み込んでゆく様……そして忌わしい臨終のあえぎ、水面で 破 ( さ )ける 泡 ( あわ )にも似たその機械的な呼吸、魂がもはやなくなっても、なお頑固に生きんとつとめる肉体の最後の 息吹 ( いぶ )き。 そしてすべてがひっそりとなった。 数分の後、 嗚咽 ( おえつ )と祈祷と死の混雑との中に、子供が 真蒼 ( まっさお )な顔をし、口を引きつらし、眼を見張り、扉のハンドルを 痙攣 ( けいれん )的に握りしめてるのを、ルイザは見つけた。 彼女は走り寄った。 彼はその腕の中で、神経の発作に襲われた。 家に連れて行かれた。 意識を失った。 寝床の中で気がついた。 ちょっとの間一人置きざりにされていたので、恐怖のあまり声をたてた。 新たに発作が起こった。 また気を失った。 その夜と翌日いっぱいとは、熱に浮かされたまま過ごした。 それから心が落着いて、二日目の夜は、深い眠りに落ち、次の日の昼ごろまで眠りつづけた。 室の中をだれか歩いてるような気がし、母が寝床の上に身をかがめて自分を抱いてくれてるような気がした。 遠い静かな鐘の音が聞えるように思った。 しかし身を動かしたくなかった。 夢の中にいるようだった。 彼が眼を開いた時、叔父のゴットフリートが寝台の足下に腰掛けていた。 クリストフはぐったりしていて、何にも覚えていなかった。 次に記憶が 蘇 ( よみがえ )ってきて、泣き始めた。 ゴットフリートは立上がり、彼を抱擁した。 「どうした、坊や、どうした?」と彼はやさしく言っていた。 「ああ、 叔父 ( おじ )さん、叔父さん!」と子供は彼にすがりついて泣声でうなった。 「お泣きよ、」とゴットフリートは言った、「お泣きよ!」 彼も泣いていた。 クリストフは少し心が静まると、眼を 拭 ( ふ )いて、ゴットフリートを眺めた。 ゴットフリートは彼が何か尋ねたがってるのを 覚 ( さと )った。 「いや、」と彼は子供の口に指をあてながら言った、「口をきくもんじゃない。 泣くのはいい、口をきくのはいけない。 」 子供は承知しなかった。 「 無駄 ( むだ )だよ。 」 「ただ 一事 ( ひとこと )、たった一つ……。 」 「なんだい?」 クリストフは 躊躇 ( ちゅうちょ )した。 「ああ、叔父さん、」と彼は尋ねた、「あの人は今どこにいるの?」 ゴットフリートは答えた。 「神様といっしょにおられるよ。 」 しかしそれはクリストフが尋ねてることではなかった。 「いいえ、それじゃないよ。 どこにいるのさ、 あの人は?」 (肉体の意味であった。 ) 彼は震え声でつづけて言った。 「 あの人はまだ家の中にいるの?」 「けさあの人を葬ったよ。 」とゴットフリートは言った。 「鐘の音を聞かなかったかい?」 クリストフは 安堵 ( あんど )した。 が次に、あの大事な祖父にもう二度と会えないかと考えると、また切なげに涙を流した。 「かわいそうに!」とゴットフリートはくり返して言いながら、憐れ深く子供を眺めた。 クリストフはゴットフリートが慰めてくれるのを待っていた。 しかしゴットフリートは無駄だと知って慰めようともしなかった。 「 叔父 ( おじ )さん、」と子供は尋ねた、「叔父さんは、あれが 恐 ( こわ )くはないのかい?」 (彼はどんなにか、ゴットフリートが恐がらないことを望んでいたろう、そしてその秘訣を教えてもらいたかったことだろう!) しかしゴットフリートは気がかりな様子になった。 「しッ!」……と彼は声を変えて言った。 「どうして恐くないことがあるものか。 」と彼はちょっとたって言った。 「だが仕方はない。 そうしたものだ。 逆らってはいけない。 」 クリストフは反抗的に頭を振った。 「逆らってはいけないのだ。 」とゴットフリートはくり返した。 「天できめられたことだ。 その 思召 ( おぼしめし )を大事にしなければいけない。 」 「僕は大 嫌 ( きら )いだ!」とクリストフは憎々しげに叫んで、天に 拳 ( こぶし )をさし向けた。 ゴットフリートは 狼狽 ( ろうばい )して、彼を黙らした。 クリストフ自身も、今自分の言ったことが恐ろしくなって、ゴットフリートといっしょに祈り始めた。 しかし彼の心は沸きたっていた。 そして卑下と忍従との言葉をくり返しながらも、一方心の底にあるものは、 呪 ( のろ )うべき事柄とそれを 創 ( つく )り出した恐るべき「者」とにたいする、嫌悪と激しい反抗との感情のみであった。 新しく掘り返されて、底にはあわれなジャン・ミシェル老人が放置されてる土の上を、昼は過ぎ去り、雨夜は過ぎてゆく。 その当座メルキオルは、いたく嘆き叫びすすり泣いた。 しかし一週間も過ぎないうちに、彼の心からの大笑いをクリストフは耳にした。 故人の名前を面前で言われると、彼の顔は伸びて悲しい様子になる。 しかしすぐその後で、彼はまた活発に話しだし身振りをやりだす。 彼はほんとうに心を痛めている、しかし悲しい感銘の中にとどまっていることができないのである。 消極的で忍従的なルイザは、何事をも受けいれると同様に、その不幸をも受けいれた。 彼女は日ごとの祈祷に添えて、も一つ祈祷をしている。 几帳面 ( きちょうめん )に墓地へ行き、あたかも家事の一部ででもあるかのように、墓の世話をしている。 ゴットフリートは、老人が眠ってる小さな四角な地面にたいして、非常にやさしい注意を向けている。 その地へもどって来る時には、何か記念になる物や、自分の手でこしらえた十字架や、ジャン・ミシェルが好んでいた花などをもって来る。 決してそれを欠かすことがなく、しかも人知れずするのである。 ルイザは時々、クリストフを墓参に連れてゆく。 花や木の無気味な飾りに 覆 ( おお )われてるその肥えた土地、さらさらした糸杉の香気に交って 日向 ( ひなた )に漂ってる重々しい匂いが、クリストフはひどく嫌いである。 しかしその嫌悪の情を口には出さない。 卑怯 ( ひきょう )のようでもあり不信のようでもあって、気がとがめるからである。 彼はたいへん不幸である。 祖父の死がたえずつきまとっている。 彼はずっと以前から、死とはどんなものであるか知っていたし、それを考えては 恐 ( こわ )がっていた。 しかしまだかつて実際に見たことはなかったのである。 だれでも初めて死を見る者は、まだ死をも生をも、少しも知っていなかったことに気づく。 すべては一挙に揺り動かされる。 理性もなんの役にもたたない。 生きてると信じていたのに、多少人生の経験があると信じていたのに、実は何にも知っていなかったことがわかり、何にも見ていなかったことがわかる。 今まで幻のヴェールに、精神が織り出して眼を覆い、現実の恐ろしい相貌を見えなくする幻のヴェールに、すっかり包まれて生きていたのである。 頭にもってた苦悩の観念と、実際血まみれになって苦しむ者との間には、なんらの連結もありはしない。 死の考えと、もがき死んでゆく肉と霊との 痙攣 ( けいれん )との間には、なんらの連結もありはしない。 人間のあらゆる言葉、人間のあらゆる知恵は、ぎごちない自動人形の芝居にすぎない、現実の痛ましい感銘に比べては。 クリストフはそのことを、夜昼となく考えていた。 臨終の苦悶の記憶に追っかけられ通しだった。 恐ろしい呼吸の音が耳には聞えていた。 自然がすべて変わってしまった。 氷のような 靄 ( もや )が自然を 覆 ( おお )ってるかと思われた。 周囲いたるところに、どちらを向いても、盲目な「獣」の致命的な息を、顔の上に感じた。 その破壊の「力」の 拳 ( こぶし )の下にあって、どうにも仕方がないことが、わかっていた。 しかしそういう考えは、彼を圧倒するどころか、かえって憤激と憎悪とに燃えたたした。 彼は少しも 諦 ( あきら )め顔をしなかった。 不可能に向かってまっしぐらに突進していった。 額を傷つけようと、自分の方が弱いとわかろうと、さらに意に介しないで、苦悩にたいし反抗することを少しもやめなかった。 それ以来彼の 生涯 ( しょうがい )は、許すべからざる「運命」の 獰猛 ( どうもう )さにたいするたえざる争闘となった。 彼の心に 纏綿 ( てんめん )してくる考えは、ちょうど生活の困苦のためにそらされた。 ジャン・ミシェル一人で引止めていた一家の零落は、彼がいなくなるとすぐにさし迫ってきた。 クラフト一家の者は、彼の死とともに、生活のたよりを大半失ってしまった。 貧苦が家にはいってきた。 メルキオルがそれをなおひどくした。 彼は縛られてた唯一の監督から解放されると、いっそうよく働くどころか、まったく不品行に身を任してしまった。 ほとんど毎夜のように、酔っ払ってもどって来、 稼 ( かせ )いだものを少しももち帰らなかった。 それに 稽古 ( けいこ )口もおおかた失っていた。 ある時、まったく 泥酔 ( でいすい )の姿をある女弟子の家に現わした。 その破廉恥な行ないの結果、どの家からも追い払われた。 管弦楽団の間では、父親の追懐にたいする敬意からようやく許されていた。 しかしルイザは、今にもふしだらをして免職になりはすまいかと、びくびくしていた。 すでにもう彼は、芝居の終るころようやく奏楽席にやって来た晩なんかは、解職すると言っておどかされていた。 二、三度は、やって来ることをまったく忘れたことさえあった。 それからまた、無茶なことを言ったりしたりしたくてたまらなくなる馬鹿げた興奮の場合には、どんなことでもやりかねなかった。 ある晩なんかは、 ワルキューレのある幕の最中に、自分のヴァイオリン大 協奏曲 ( コンセルト )をひきたいと考えついた。 それを止めさせるのに皆で大骨折をしたほどだった。 また、開演中に、舞台の上や自分の頭の中に展開する面白い光景に魅せられて、突然大笑いをすることもあった。 そして彼は一同の慰み物になっていた。 そしてその滑稽のゆえに、多くのことを大目に見過ごしてもらっていた。 しかしそう寛大に見られるのは、厳酷な取扱いを受けるのよりもなおいけないことだった。 クリストフにはそれが恥しくてたまらなかった。 子供は今や管弦楽団の第一ヴァイオリニストとなっていた。 メルキオルが浮々した気分でいる時には、それを監視したり、時によっては補助してやったり、あるいは無理に黙らしたりすることに、気を配っていた。 それは楽なことではなかった。 そしていちばんいいのは、まったく父に注意を向けないことだった。 そうでないと、酔っ払いは自分が見られてるなと感ずるとすぐに、しかめ顔をしたり、あるいは話をやりだした。 クリストフは、父が何かひどいことをやるのが見えやすまいかとびくびくしながら、眼をそらした。 彼は自分の職務に我を忘れようとつとめた。 しかしメルキオルの無駄口やその隣りの人々の笑い声やを、聞かないわけにはゆかなかった。 眼には涙が出て来た。 善良な楽手たちは、それに気づいて、彼を気の毒に思った。 彼らは笑い声を押えた。 クリストフに隠れて父親の 噂 ( うわさ )をするようにした。 しかしクリストフは彼らの憐れみを感知していた。 自分が出て行くとすぐに 嘲弄 ( ちょうろう )が始まるのを、メルキオルが町じゅうの笑草になってるのを、彼は知っていた。 どうにもしようがなかった。 それが苦しみの種であった。 芝居がはねると、彼は父を家に連れて帰った。 父に腕を貸し、その駄弁を聞いてやり、その危い足取りを人に知らせまいと努めた。 しかし他人はだれが彼に 欺 ( あざむ )かれる者があったろう? そしてまた、いかほど努力しても、首尾よくメルキオルを家まで連れてゆけることは滅多になかった。 街路の曲り角まで来ると、メルキオルは友だちと急な面会の約束があると言いだした。 なんと説いても、その約束をまげさせることはできなかった。 それにまたクリストフは、ひどい親子争いをして、近所の人に窓から見られるようなことになりたくなかったので、用心してあまり言い張りもしなかった。 生活の金はすべてそちらに取られていた。 メルキオルは自分で 儲 ( もう )けただけを飲んでしまうのでは満足しなかった。 妻や子が非常に骨折って得たものまで飲んでしまった。 ルイザは泣いてばかりいた。 家の中に彼女の物とては何にもないし、彼女は一文なしで結婚して来たのだと、昔のことを夫からきびしく言われてから、もう抵抗するだけの元気もなかった。 クリストフは逆らってやった。 するとメルキオルは彼を殴りつけ、 悪戯 ( いたずら )っ 児 ( こ )扱いにし、その手から金を奪い取った。 子供はもう十二、三歳で、身体は頑丈で、 折檻 ( せっかん )されると怒鳴り出した。 けれどもまだ反抗するのが恐かった。 取られるままになっていた。 ルイザと彼と、二人の唯一の手段は、金を隠すことだった。 しかしメルキオルは、二人が不在な時に、その隠し場所を見つけるのに不思議なほど巧みだった。 間もなく、彼はもうそれでもあきたらなくなった。 彼は父から受け継いだ品物を売った。 書物や、寝台や、家具や、音楽家の肖像などが、家から出てゆくのを、クリストフは悲しげに眺めた。 彼はなんとも言うことができなかった。 しかし、ある日メルキオルが、祖父の贈物の古ピアノにひどくつき当たり、 膝 ( ひざ )をなでながら怒りに任してののしり、家の中が動けないほどいっぱいになってると言い、こんな古道具はすっかり 厄介払 ( やっかいばらい )をしてやると言った時、クリストフは高い叫び声をあげた。 祖父の家を、クリストフが幼年時代の最も美しい時間を過ごしたその大事な家を、売り払ってしまうために、祖父の道具をすっかりもち込んで来てからは、どの室もいっぱいふさがってるというのは、ほんとうだった。 またその古ピアノは、もうたいした価値もなくなっており、音は震えるようになっていて、久しい以前からクリストフはそれを捨て、大公爵から賜わった新しいりっぱなピアノをばかりひいているというのも、ほんとうだった。 しかしその古ピアノは、いかに古くいかに不具であろうとも、クリストフにとっては最良の友であった。 それは音楽の 無辺際 ( むへんざい )な世界を子供に開き示してくれた。 その 艶 ( つや )やかな黄色い 鍵盤 ( キイ )の上で、子供は音響の王国を発見した。 それは祖父の手になったもので、祖父は孫のために数か月かかってそれを修理したのだった。 それは 聖 ( きよ )い品であった。 それゆえクリストフは、だれにもそれを売るの権利はないと抗弁した。 メルキオルは黙れという命令を様子で知らした。 クリストフは、そのピアノは自分のもので人に手を触れさせるものかと、ますます強く 喚 ( わめ )きたてた。 彼はひどい折檻を受けることと期待していた。 しかしメルキオルは、厭な笑顔で彼を眺め、そして口をつぐんだ。 翌日になると、クリストフはそのことを忘れていた。 疲れてはいたがかなり上 機嫌 ( きげん )で家に帰って来た。 ところが弟たちの 狡猾 ( こうかつ )な眼付に気をひかれた。 二人とも書物を読み 耽 ( ふけ )ってるふうを装っていた。 彼の様子を見守り彼の一挙一動を 窺 ( うかが )いながらも、彼に見られるとまた書物に眼を伏せた。 きっと何か 悪戯 ( いたずら )をされたに違いないと彼は思った。 しかしそんなことに慣れていた。 悪戯を見つけたらいつものとおり殴りつけてやろうときめていたので、別に心を動かさなかった。 それであえて 穿鑿 ( せんさく )しようともしなかった。 そして父と話しだした。 父は暖炉の隅にすわっていて、柄にもなく興味あるふうを見せながら、その日のことを尋ねだした。 彼は話してるうち、メルキオルが二人の子供とひそかに 目配 ( めくば )せしてるのを認めた。 彼は心にはっとした。 自分の室に駆け込んだ。 ……ピアノの場所が 空 ( から )になっていた。 彼は悲しみの叫び声をあげた。 向うの室に弟たちの忍び笑いが聞えた。 顔にかっと血が上った。 彼は彼らの方へ飛んでいった。 そして叫んだ。 「僕のピアノを!」 メルキオルはのんきなしかもまごついた様子で顔を上げた。 それで子供たちはどっと笑った。 メルキオル自身も、クリストフのあわれな顔付を見ると、我慢ができないで、横を向いてふきだした。 クリストフは自分が何をしてるかみずから知らなかった。 狂人のように父に飛びかかった。 メルキオルは 肱掛椅子 ( ひじかけいす )に 反 ( そ )り返っていたので、身をかわす 隙 ( すき )がなかった。 子供はその 喉元 ( のどもと )をつかんで叫んだ。 「 泥坊 ( どろぼう )!」 それはただ一瞬の間だった。 メルキオルは身を揺って、猛然としがみついてたクリストフを、 床 ( ゆか )の上に投げ飛ばした。 子供の頭は暖炉の 薪台 ( まきだい )にぶつかった。 クリストフはまた 膝頭 ( ひざがしら )で起き上がり、頭を振り立て、息づまった声でくり返し叫びつづけた。 「泥坊! お母さんやぼくのものを盗む泥坊め!……お 祖父 ( じい )さんのものを売る泥坊め!」 メルキオルはつっ立って、クリストフの頭の上に拳をふり上げた。 クリストフは憎悪の眼でいどみかかり、 忿怒 ( ふんぬ )のあまり身を震わしていた。 メルキオルもまた震えだした。 それから腰を降ろして、両手に顔を隠した。 二人の子供は、鋭い叫び声をたてて逃げてしまっていた。 騒動につづいて沈黙が落ちてきた。 メルキオルは訳のわからぬことをぶつぶつ言っていた。 クリストフは壁にぴったり身を寄せ、歯をくいしばりながら、じっと父をにらみつけてやめなかった。 メルキオルはみずから自分をとがめ始めた。 「俺は泥坊だ! 家の者から 剥 ( は )ぎ取る。 子供たちからは軽蔑される。 いっそ死んだ方がましだ。 」 彼が愚痴を言い終えた時、クリストフは身動きもしないで、きびしい声で尋ねた。 「ピアノはどこにあるんだい?」 「ウォルムゼルのところだ。 」とメルキオルは彼の方を見ることもできずに言った。 クリストフは一歩進んで言った。 「金は?」 メルキオルはすっかり 気圧 ( けお )されて、ポケットから金を取出し、それを息子に渡した。 クリストフは扉の方へ進んでいった。 メルキオルは彼を呼んだ。 「クリストフ!」 クリストフは立止まった。 メルキオルは震え声で言った。 「クリストフ……おれを 蔑 ( さげす )むなよ!」 クリストフは彼の首に飛びついて、すすり泣いた。 「お父さん、お父さん、蔑みはしません。 ぼくは悲しいや!」 二人とも声高く泣いた。 メルキオルは嘆いた。 「おれの罪じゃないんだ。 これでもおれは悪人じゃない。 そうだろう、クリストフ。 ねえ、これでもおれは悪人じゃないんだ。 」 彼はもう酒を飲まないと誓った。 クリストフは疑わしい様子で頭を振った。 するとメルキオルは、金が手にあると我慢ができないのだと自認した。 クリストフは考えた、そして言った。 「そんなら、お父さん、こうしたら……。 」 彼は言いよどんだ。 「どうするんだい?」 「気の毒で……。 」 「だれに?」とメルキオルは 質樸 ( しつぼく )に尋ねた。 「お父さんに。 」 メルキオルは顔をしかめた。 そして言った。 「かまやしないよ。 」 クリストフは説明してやった、家の金はことごとく、メルキオルの給料もみな、他人に委託しておいて、毎日かもしくは毎週かに、必要なだけをメルキオルに渡してもらうようにしたらいいだろうと。 クリストフは父の屈辱が恥ずかしくてそれを 拒 ( こば )んだ。 しかしメルキオルは、犠牲になりたくてたまらないで、頑として手紙を書いてしまった。 彼は自分の 寛仁大度 ( かんじんたいど )な行ないにみずから感動していた。 クリストフは手紙を手に取ることを拒んだ。 ルイザもちょうどもどって来て、事の様子を知り、夫にそんな侮辱を与えなければならないなら、むしろ 乞食 ( こじき )にでもなった方がいいと言い出した。 彼に信頼してると言い添え、彼は皆を愛してるので、行ないを改めるに違いないと言い添えた。 しまいには皆感動して抱き合った。 そしてメルキオルの手紙は、テーブルの上に忘れられ、戸棚の下に落ち込んでいって、そのままだれの眼にもつかなかった。 しかし数日の後、ルイザは室を片づけながらその手紙を見つけた。 ところがその時彼女は、メルキオルがまた不身持になってたので、非常に不仕合せだった。 それで手紙を引裂かないで、取っておいた。 それから数か月の間、苦しみを忍びながら、その手紙を使うという考えをいつも押えつけて、そのまま保存しておいた。 けれどもある日、メルキオルがクリストフを殴ってその金を奪い取るところを、また見かけた時、もう我慢ができなかった。 そして泣いてる子供といっしょに、手紙を取りに行き、それを子供に渡して言った。 「行っておいで!」 クリストフはまだ 躊躇 ( ちゅうちょ )した。 けれども、家に残ってるわずかなものまですっかり消費しつくされまいとすれば、もはや他に方法はないと 覚 ( さと )った。 彼は宮邸へ出かけた。 二十分ほどの道を行くのに一時間近くかかった。 自分のしてることが恥ずかしくてたまらなかった。 この数年間の孤立のうちにつのっていた彼の高慢心は、父の不品行を公然と認定するという考えに、血をしぼるほど切なかった。 妙なしかも自然な矛盾ではあったが、彼はその不品行がすべての人にわかってるということを知ってながら、しかも 執拗 ( しつよう )にそうでないと信じたがり、何にも気づかないふうを装っていた。 それを認めるよりもむしろ自分を 粉微塵 ( こなみじん )にされたかった。 そして今や、自分から進んで!……彼は幾度となく引返そうとした。 宮邸に着こうとするとまた足を返しながら、二三度町を歩き回った。 しかし自分一人の問題ではなかった。 母にも弟どもにも関係のあることだった。 父が皆を見捨てた以上は、皆を助けてゆくのは長男たる彼の役目であった。 もはや躊躇したり高ぶったりすべきではなかった。 恥辱を飲み下さなければならなかった。 彼は宮邸へはいった。 階段の途中でまた逃げ出したくなった。 踏段の上にかがんだ。 それから上の板の間で、扉のボタンに手をかけて、しばらくじっとしていたが、だれかやって来たのではいらざるをえなかった。 事務所では皆彼を知っていた。 彼は劇場監理官ハンメル・ランクバッハ男爵閣下に申上げたいことがあると言った。 白チョッキをつけ赤い 襟飾 ( えりかざり )をした、若い、 脂 ( あぶら )ぎった、頭の 禿 ( は )げた、つやつやした顔色の役人が、彼の手を親しく握りしめて、前日の 歌劇 ( オペラ )のことを話しだした。 クリストフは用件をくり返した。 役人は答えて、閣下はただいま多忙であるが、クリストフが何か請願書を差出すのなら、ちょうど署名を願いにもってゆく他の書類といっしょに、それを渡してあげようと言った。 クリストフは手紙を差出した。 役人はそれを一覧して、驚きの声をたてた。 「ああ、なるほど!」と彼は快活に言った。 「いい考えだ。 もうとっくにこの考えを起こしてなけりゃいけなかったんだ。 こんないいやり方は 彼奴 ( あいつ )には初めてだ。 ああ、あの年 甲斐 ( がい )もない酔いどれに、どうしてこんな決心ができたのかな。 」 彼はぴたりと言い止めた。 クリストフが彼の手からその書面を引ったくったのである。 クリストフは憤りに顔色を変えて叫んだ。 「許せない……僕を侮辱するのは許せない!」 役人は 呆気 ( あっけ )にとられた。 「なあにクリストフさん、」と彼はつとめて言った、「だれがお前を侮辱しようと思うものかね。 私は皆が考えてることを言ったばかりだ。 お前さんだってそう考えてるだろう。 」 「いいや!」とクリストフは腹だたしげに叫んだ。 「なに、お前さんはそう考えないって? 酒飲みだとは考えないって?」 「そんなことはない。 」とクリストフは言った。 彼は足をふみ鳴らしていた。 役人は肩を 聳 ( そびや )かした。 「そんなら、どうしてこんな手紙を書いたんだい。 二人ともやって来るのは無駄だ……お父さんはたいへん忙しいんだ。 」 彼はその説明の馬鹿らしさにみずから顔を赤らめた。 役人は皮肉と 憐憫 ( れんびん )との交った様子で彼を眺めていた。 クリストフは書面を手の中にもみくちゃにして、出て行こうとするふうをした。 役人は立上がって、その腕をとらえた。 「ちょっとお待ち、」と彼は言った、「私が 取計 ( とりはから )ってやるから。 」 彼は長官の室へ通った。 クリストフは他の役人らにじろじろ見られながら待っていた。 どうしたらよいか、自分でもわからなかった。 返辞を伝えられないうちに逃げ出そうかと考えた。 そしていよいよそう心をきめかけたが、その時扉が開いた。 「閣下が御面会くださるよ。 」とその世話好きな役人は彼に言った。 クリストフははいって行かなければならなかった。 ハンメル・ランクバック男爵閣下は、 頬髯 ( ほおひげ )と 口髭 ( くちひげ )とをはやし、 頤鬚 ( あごひげ )を 剃 ( そ )ってる、さっぱりとした小さな老人であった。 クリストフがもじもじして礼をするのにうなずきの礼も返さず、書きつづけてる手をも休めないで、金縁の眼鏡越しに眺めた。 「では、」とちょっと間をおいて彼は言った、「君は願うんだね、クラフト君……。 」 「閣下、」とクリストフはあわてて言った、「どうかご免ください。 私はよく考えてみました。 もう何にもお願いしません。 」 老人はそのにわかの撤回について説明を求めようとはしなかった。 彼はクリストフをさらに注意深く眺め、 咳 ( せき )払いをし、そして言った。 「クラフト君、君が手にもってる手紙を、わしに渡してごらん。 」 クリストフは、知らず知らず 拳 ( こぶし )の中に握りつづけていた書面を、監理官がじっと見つめてるのに、気がついた。 「もうよろしいんです、閣下。 」と彼はつぶやいた。 「もうそれには及びません。 」 「さあ渡してごらん。 」と老人はその言葉を聞かなかったかのように平然と言った。 クリストフはなんの気もなく 皺 ( しわ )くちゃの手紙を渡した。 しかしこんがらかった言葉をやたらに言いたてながら、手紙を返してもらおうとしてなお手を差出していた。 閣下は丁寧に紙を広げ、それを読み、クリストフを眺め、やたらに弁解するままにさしておいたが、それから彼の言葉をさえぎり、意地悪そうな色をちらと眼に浮べて言った。 「よろしい、クラフト君。 願いは 聴 ( き )き届けてやる。 」 彼は片手で 隙 ( いとま )を命じて、また書き物にとりかかった。 クリストフは 狼狽 ( ろうばい )して出て行った。 「クリストフさん、気を悪くしてはいけないよ。 」とふたたび彼が事務所を通りぬける時に役人が親しげに言った。 クリストフは眼をあげる元気もなく、引止められて握手をされるままになっていた。 彼は宮邸の外に出た。 恥ずかしさに縮み上がっていた。 言われたことが残らず頭に浮かんできた。 そして、自分を立ててくれ自分を気の毒に思ってくれる人々の 憐憫 ( れんびん )の中に、侮辱的な皮肉が感ぜられるような気がした。 彼は家に帰った。 ルイザから問いかけられても、今なして来た事柄について彼女を恨んでるかのように、ただむっとした二三言でようやく答えるきりだった。 父のことを考えると、後悔の念に胸が張りさけそうだった。 すっかり父にうち明けて、その許しを 乞 ( こ )いたかった。 メルキオルはそこにいなかった。 クリストフは眠りもしないで、真夜中まで彼を待っていた。 父のことを考えれば考えるほど、ますます後悔の念は高まってきた。 彼は父を理想化していた。 家の者らに裏切られた、弱い、善良な、不幸な人間だと、頭に描いていた。 父の足音が階段に聞こえると、出迎えてその両腕の中に身を投げ出すために、寝床から飛び起きて走っていった。 しかしメルキオルはいかにも厭な泥酔の様子でもどって来たので、クリストフは近寄るだけの勇気もなかった。 そして自分の 空 ( くう )な考えを 苦々 ( にがにが )しく 嘲 ( あざけ )りながら、また寝に行った。 数日の後、その出来事を知ると、メルキオルは恐ろしい 忿怒 ( ふんぬ )にとらわれた。 そしていかにクリストフが願っても聞き入れないで、宮邸に怒鳴り込んでいった。 しかしすっかりしょげきってもどって来、どういうことがあったか一言もいわなかった。 彼はひどい取扱いを受けたのだった。 で彼はその日からただちに自分の地位を是認し、みずから進んで 犠牲となってることを自慢にさえした。 そういう父の様子を見て、クリストフはたいへん 安堵 ( あんど )した。 それにもかかわらずメルキオルは、妻や子供らのために 剥 ( は )ぎ取られてしまい、生涯彼らのために 痩 ( や )せ衰え、今や万事に不自由しても顧みられないなどと、よそへ行って嘆かずにはおかなかった。 あるいはまたクリストフから金を引出そうとつとめて、あらゆる 阿諛 ( あゆ )や策略を用いた。 それを見るとクリストフは、心にもなく笑いだしたくなるほどだった。 そしてクリストフがしっかりしてるので、メルキオルは言い張りはしなかった。 自分を判断してるその十四歳の少年の厳格な眼の前に出ると、不思議に 気圧 ( けお )されるのを感じた。 悪い手段をめぐらしてひそかに意趣晴しをした。 酒場へ行って飲んだり食ったりした。 金は少しも払わないで、息子が借りをみな払ってくれるのだと言った。 クリストフは世間の悪評をつのらしはすまいかと気遣って、別に抗議をもち出さなかった。 そしてルイザとともに、財布の底をはたいてメルキオルの借りを払っていた。 そして欠勤があまり激しくなったので、クリストフの懇願にもかかわらず、しまいには追い払われてしまった。 それで子供は、父と弟どもなど全家を、一人で支持してゆかなければならなくなった。 かくてクリストフは、十四歳にして家長となった。 彼は決然としてその重い役目を引受けた。 彼は自尊心から、他人の恵みに 与 ( あずか )ることを拒んだ。 独力できりぬけてゆこうと決心した。 母が恥ずかしい 施与 ( せよ )を受けたり求めたりしてるのを見て、彼は幼いころから非常に心を痛めていた。 人のいい母が、保護者のもとから何かの恵みを受けて、得意然と家にもどって来ると、いつもそれが争論の種となった。 彼女はそれを少しも悪いことだとは思わなかったし、またその金で、少しでもクリストフの骨折りを 省 ( はぶ )くことができ、粗末な夕食に一 皿 ( さら )多く加えることができるのを、喜びとしていた。 しかしクリストフは顔を曇らした。 その晩じゅう口をきかなかった。 そういうふうにして得られた食物へは、理由も言わないで手をつけることを拒んだ。 ルイザは気をもんだ。 下手 ( したで )に息子を説きすすめて食べさせようとした。 彼は強情を張った。 彼女はついにいらだってきて、不愉快なことを口にのぼせた。 彼もそれに言い返してやった。 それから彼はナプキンを食卓の上に投げすてて出て行った。 父は肩をそびやかして、彼を生意気な奴だと言った。 弟らは彼を 嘲 ( あざけ )って、彼の分をも食べてしまった。 それでもやはり生活の道を見つけなければならなかった。 彼の管弦楽団員としての手当ではもう足りなくなった。 彼は弟子を取った。 彼の技倆、彼の好評、とくに大公爵の保護は、上流市民のうちに多くの得意を彼に得さした。 毎朝九時から、彼は令嬢らにピアノを教えた。 多くは彼よりも年上であって、その 嬌態 ( きょうたい )で彼を 怯 ( おび )えさせ、その拙劣なひき方で彼を失望さした。 彼女らは音楽においてはまったくの馬鹿であったが、その代わりに、 滑稽 ( こっけい )なことにたいする敏感を皆多少なりと具えていた。 その 嘲笑 ( ちょうしょう )的な眼は、クリストフの無作法を一つも見逃さなかった。 彼にとってはそれが非常につらかった。 彼女らのそばに、自分の 椅子 ( いす )の縁に腰を掛け、赤い顔をして容態ぶり、憤りながら身動きもできず、馬鹿なことを言うまいと努力し、自分の声音を気遣い、厳格な様子をしようと努め、じろじろ横目で見られてるのを感じて、ついにすっかり平静さを取り失い、意見を述べてる最中にまごつき、おかしな様子をしはすまいかと心配し、おかしな様子を見せてしまい、すっかり腹をたてて激しく 叱 ( しか )りつけた。 しかし弟子たちにとっては、その仕返しをするのは訳もないことだった。 そしてかならず仕返しをしないではおかなかった。 一種妙な眼付で眺めて彼を困らした。 ごく簡単な問いをかけて彼を眼の中まで真赤にならした。 それは彼にとって最もつらいことだった。 無器用な挙動を、へまな足付を、 硬 ( こわ )ばった腕を、当惑してしゃちこばった身体を、容赦もなく 窺 ( うかが )ってる意地悪い眼からじっと見られながら、室の中を歩いてゆかなければならなかった。 そういう稽古からつづいて、劇場の試演へかけつけなければならなかった。 昼食をする 隙 ( すき )がないこともしばしばだった。 ポケットにパンと豚肉とを入れておいて、それを 幕間 ( まくあい )に食べた。 時には、音楽長トビアス・プァイフェルの代わりをした。 音楽長は彼に目をつけていて、自分の代わりに時々管弦楽の下稽古の指揮をやらして練習さした。 また彼は自分の腕をもみがきつづけてゆかなければならなかった。 午後にはまた他にピアノを教えに行くところがあって、開演の時間までいっぱいだった。 晩には幾度も、芝居が終ってから、宮邸で彼の音楽を聞きたいという 仰 ( おお )せがあった。 そこで彼は一、二時間演奏しなければならなかった。 大公爵夫人は音楽通だと自称していた。 彼女はいいのも悪いのもごっちゃにして、ただやたらに音楽が好きだった。 即興的な愚作とりっぱな傑作とを並べ合したおかしな番組を、クリストフにひかせた。 しかし彼女のいちばんの楽しみは、クリストフに即座に作曲させることだった。 いつも 厭味 ( いやみ )たらしい感傷的な 主題 ( テーマ )を与えた。 クリストフは十二時ごろ宮邸を出た。 疲れ果て、手はほてり、頭はのぼせ、腹は 空 ( す )いていた。 汗まみれになっていた。 外には雪が降っていたり、冷たい霧がかけていた。 家へ着くまでには、町の半分以上も通らねばならなかった。 歯をがたがた震わせながら、眠くてたまらなくなりながら、歩いて行った。 それにまた、一着きりの夜会服を 泥濘 ( ぬかるみ )でよごさないように注意しなければならなかった。 彼は自分の寝室にもどっても、その室はいつも弟どもといっしょだった。 そして、息づまるような匂いのするその屋根裏の室で、ようやく苦難の 首枷 ( くびかせ )をはずすことが許される瞬間ほど、彼はおのれの生活の 嫌悪 ( けんお )と絶望とに、孤独の感情に、ひどく圧倒されることはかつてなかった。 服をぬぐだけの元気もあるかないくらいだった。 ただ幸いにも、枕に頭をつけるが早いか、重い眠りに圧倒されて、自分の苦労を忘れるのだった。 けれども、夏は 黎明 ( れいめい )のころから、冬はもっと前から、起き上がらなければならなかった。 彼は自分のために勉強したかった。 五時から八時までの間が、唯一の自由な時間だった。 それでもなお、御用の仕事にその一部を費さねばならなかった。 宮廷音楽員の肩書と大公爵の愛顧とは、宮廷の祝祭のための音楽を彼に作らせるのだった。 かくて、彼は生活の源泉まで毒されてしまった。 夢想することさえも自由ではなかった。 しかし普通の例にもれず、束縛はその夢想をいっそう強烈にした。 何物も行動を妨げるものがない時には、魂はそれだけ活動の理由を失うものである。 クリストフは、厄介事と平凡な職務との 牢獄 ( ろうごく )のうちに、しだいに狭く圧縮さるればさるるほど、ますます彼の反抗的な心はおのれの独立を感ずるのであった。 なんら拘束のない生活をしていたら、彼はおそらくその時おりの成行きに身を任したであろう。 日に一、二時間しか自由を得なかったので、彼の力はあたかも岩の間の 急湍 ( きゅうたん )のように、それへ飛びかかっていった。 厳密な範囲内に努力を集中することは、芸術にとってはいい規律である。 この意味において、悲惨はただに思想の主人たるばかりではなく、形式の主人であるともいうことができる。 悲惨は肉体へと同じく精神へも、節制を教える。 時間が制限され言葉が限定されてる時には、人は余分のことを少しも言わず、物の精髄をしか考えない習慣になる。 かくて、生きるための時間が少ないだけに、倍加した生き方をする。 そういうことがクリストフの上に起こった。 彼は束縛のもとにあって、自由の価値を十分に知った。 そして無益な行ないや言葉によって少しも貴重な時間を浪費しなかった。 真面目 ( まじめ )ではあるがしかし無選択な思想のおもむくがままに、ごたごたと 饒多 ( じょうた )に書きちらす癖のある、彼の生来の傾向は、なるべくわずかな時間になるべく多く仕上げるのを余儀なくされることに、その 矯正物 ( きょうせいぶつ )を見出した。 彼はようやく性格の形造られる年ごろに、音楽は各音が一つの意味を有する精確な言語であると、考えるの習慣を得た。 そして、ただ語るだけで何の意味をも言わない音楽家を忌み嫌った。 けれども、彼が書く音楽はまだ、彼自身を完全に表現するにはなかなかいたらなかった。 なぜなら、彼はまだとうてい自己を完全に見出してはいなかったから。 教育が第二の天性として子供に押しつける、覚ええた 堆 ( うずたか )い感情を通して、彼は自己を捜し求めていた。 あたかも雷電の一撃が 覆 ( おお )いかぶさってる雲霧を払って空を清めるがように、個性をその借物の衣から脱却せしむるあの青春の熱情を、彼はまだ感じたことがなかったので、真の自己というものについては、ただいくらかの直覚を有するにすぎなかった。 ほの暗いしかも力強い予感が、自己と関係のない旧物に、彼のうちで入り交じっていた。 彼はそれらの旧物から脱しえなかった。 そしてそれらの虚偽にいらだった。 自分の書いてるものが、考えてることよりいかに劣ってるかを見て、憂苦に沈んだ。 彼は 苦々 ( にがにが )しくおのれを疑ってみた。 しかしその愚かしい失敗で 諦 ( あきら )めることはできなかった。 もっとよくやり、偉大なものを書こうと、奮激した。 そしてやはり失敗した。 ちょっと感興が起こった後に、書いてる間に、書いたものがまったく無価値なのに気づいた。 彼はそれを引裂き、焼き捨てた。 そしてさらに恥ずかしいことには、式典用の自分の 公 ( おおやけ )の曲が廃滅できずにそのまま残ってるのを、見なければならなかった。 彼は後世を信じていたのである。 彼はその恥辱に泣きたいほどだった。 熱烈なる年月! なんらの猶予もなく、なんらの怠慢もない。 何物もその熱狂的な勉励をさえぎらない。 遊戯もなく、友もない。 どうして友と遊んでなどいられよう。 午後、他の子供らが遊んでる時にも、少年クリストフは額に 皺 ( しわ )を寄せて注意を凝らしながら、 埃 ( ほこり )深い薄暗い劇場の広間に、奏楽席の譜面台に向かってすわっている。 晩、他の子供らが寝ている時にも、彼は 椅子 ( いす )にがっくりとすわり、疲労に感覚を失いながら、なおそこに起きている。 彼は弟どもともなんらの親しみももたなかった。 エルンストは十二歳になっていた。 性 ( たち )の悪い厚かましい無頼な少年で、同じような不良の徒と終日遊び暮していた。 そしてその仲間の、嘆かわしい様子にばかりでなく、恥ずべき習癖にも染んでいた。 正直なクリストフは、ある日、思いも及ばない恥ずかしいことを彼がやってるのを見かけて、嫌悪の 眉 ( まゆ )をひそめた。 も一人の弟ロドルフは、テオドル 伯父 ( おじ )の気に入りで、商業をやることになっていた。 彼は行ないもよく、静かだったが、陰険であった。 クリストフよりずっとすぐれてると信じていた。 クリストフが 稼 ( かせ )いだパンを食べるのは当然だと考えていながら、家におけるクリストフの権力を認めなかった。 彼にたいするテオドルとメルキオルとの反感に味方して、二人が言うおかしな悪口をくり返し言っていた。 二人の弟はどちらも音楽を好まなかった。 ロドルフは模倣心から、伯父のように音楽を軽蔑するふうをしていた。 家長の役目を真面目にやってるクリストフから、いつも監視され訓戒されるのに困って、二人の弟は反抗を試みることがあった。 しかしクリストフはたくましい 拳固 ( げんこ )を持っていたし、自分の権利を自覚していた。 弟どもを服従さしてしまった。 それでも彼らはやはり、彼に勝手なことをしてやめなかった。 彼の信じやすい性質につけ込んで、 罠 ( わな )を張ると、彼はきっとそれにかかった。 彼らは金を欺き取り、厚かましい 嘘 ( うそ )をつき、そして陰では彼を 嘲 ( あざけ )った。 人のいいクリストフは、いつも 陥 ( おとしい )れられてばかりいた。 彼は人から愛されたい強い要求をもっていたので、一言やさしいことを言われると、もうすっかり恨みを忘れてしまった。 わずかな愛情を得るためには、なんでも許してやったに違いない。 しかしある時、彼らは虚偽の愛情で彼を抱擁し、涙を流すほど彼を感動さしておいて、それに乗じて、かねてほしがっていた大公爵からの贈物の金時計を奪い取ってしまい、その後で彼の馬鹿さ加減を笑ったが、彼はその笑声を聞いてから、信頼の念はひどく動揺した。 彼は弟どもを軽蔑していたが、それでもやはり、人を信じ人を愛する不可抗な性癖から、つづいて欺かれてばかりいた。 彼はみずからその性癖を知り、自分自身にたいして腹をたてていて、弟どもがまたも自分を 玩具 ( おもちゃ )にしてるのを発見すると、ひどく殴り飛ばしてやった。 けれどもその後で、彼らから面白がって 釣 ( つり )針を投げられると、ふたたびそれにすぐ引っかかるのだった。 なおそれにもまさった苦しみが彼にはあった。 父が自分のことを悪く言ってるのを、おせっかいな近所の人々から聞かされた。 メルキオルは初め息子の成功に得意然としていたが、後には恥ずべき弱点を暴露して、それを 嫉妬 ( しっと )するようになった。 彼は息子の成功をくじこうとした。 それは嘆くも愚かなことだった。 ただ軽侮の念から肩をそびやかすのほかはなかった。 腹もたてられなかった。 なぜならメルキオルは、自分のやってることに自覚がなかったし、失意のためにひねくれていたから。 クリストフは黙っていた。 もし口をきいたらあまりひどいことを言うようになるだろうと恐れていた。 しかし心では恨めしくてたまらなかった。 悲しい寄合い、夕、ランプを取り囲み、汚点のついた布卓の上で、つまらない世間話や 貪 ( むさぼ )り食う 頤 ( あご )の音の間でする、一家そろうての夕食! しかも彼はそれらの人々を、軽侮し憐れみながらも、やはり愛せずにはいられないのである。 そして彼はただ、善良な母親とだけ、たがいの愛情の 覊 ( きずな )を感じていた。 しかしルイザは、彼と同様にいつも疲れはてていた。 晩には、もう気力もつきはてて、ほとんど口もきかず、食事を済すと、 靴下 ( くつした )を 繕 ( つくろ )いながら、 椅子 ( いす )にかけたまま居眠りをした。 そのうえ彼女は、いかにも人がよくて、夫と三人の子供との間に、少しも愛情の差をおいていないらしかった。 皆を一様に愛していた。 クリストフは彼女を、自分が非常に求めてる腹心の人とするわけにゆかなかった。 彼はただ自分の心のうちに閉じこもった。 いく日間も口をきかないで、黙々たる一種の憤激をもって、単調な骨の折れる務めを尽した。 敏感な身体の組織が、あらゆる破壊的誘因に巻き込まれて、将来全生涯の間変形されやすい、危急な年齢にある少年にとっては、そういう生活法はいたって危険なものだった。 クリストフの健康は、それにはなはだしく害された。 彼は父祖から、堅固な骨格と、弱点のない 健 ( すこや )かな肉体とを、受け継いではいた。 けれども、過度の疲労と早熟な憂慮とのために、苦痛のはいり込みうる割目をこしらえられると、その強健な身体も、苦痛に多くの 糧 ( かて )を与えるのみであった。 ごく早くから、神経の不調がきざしていた。 まだ幼いころから、何かの障害を感ずると、気絶や 痙攣 ( けいれん )や 嘔吐 ( おうと )を起こした。 七、八歳のころ、ちょうど音楽会に出始めた時分には、睡眠が落着いて得られなかった。 眠りながら、話したり叫んだり笑ったり泣いたりした。 そういう病的な傾向は、強い 懸念 ( けねん )事があるごとにくり返された。 やがては、激しい頭痛が起こって、あるいは 頸窩 ( ぼんのくぼ )や頭の両側がぴんぴん痛み、あるいは鉛の 兜 ( かぶと )をかぶったような気持になった。 よく眼をなやんだ。 時には、針先を眼孔にさし込まれたような感じがした。 また眼がちらついて書物を読めなくなり、幾分間も読みやめなければならなかった。 不足なあるいは不健康な食物と、食事の不規則とは、頑健な胃をいためてしまった。 内臓の痛みに悩まされ、身体を衰弱させる下痢に悩まされた。 しかし彼を最も苦しめたのは、心臓であった。 彼の心臓は狂ったように不整であった。 あるいは、今にも張り裂けるかと思われるばかりに、胸の中で激しく 躍 ( おど )った。 あるいは、かろうじて鼓動してるだけで、今にも止まってしまうかと思われた。 夜は、体温が恐ろしく上下した。 高熱の状態と貧血の状態とが、急激に移り変わった。 身体が焼けるようになり、寒さに震え、 悶 ( もだ )え苦しみ、 喉 ( のど )がひきつり、首に 塊 ( かたま )りができて呼吸を妨げた。 彼は自分の感ずることをことごとく家の者に語りえなかった。 しかし一人でたえずそれを分析し、それに注意して、苦悩をますます大きくなし、また新しく作りだしていた。 自分の知ってるあらゆる病気を、次から次へとわが身にあてはめた。 盲目になりかけてるのだとも思った。 歩きながら時々 眩暈 ( めまい )に襲われたので、突然倒れて死ぬのではないかと恐れた。 ああ、どうせ死ななければならないものであるとしても、少なくとも、今はいやだ、勝利者とならないうちはいやだ!…… 勝利……。 そういう少年の域をはるかに脱しているのだ。 それは表皮にすぎない、一時の 顔貌 ( がんぼう )にすぎない。 それは彼の本体ではない。 彼の深い本体と、彼の顔や思想の現形との間には、なんらの関係も存しない。 彼自身よくそれを知っている。 鏡で見る姿を、おのれだとは認めていない。 大きな赤ら顔、つき出た 眉 ( まゆ )、くぼんだ小さな眼、小鼻がふくれ先が太い短い鼻、重々しい 頤 ( あご )、むっつりした口、そういう醜く 賤 ( いや )しい面貌は、彼自身にとっては他人である。 彼はまた自分の作品中にはなおさらおのれを認めていない。 彼は自分を判断し、現在自分が作ってるものの無価値と、現在の自分の無価値とを、よく知っている。 けれども彼は、将来いかなるものになるか、将来いかなるものを作るか、それに確信をもっている。 彼は時おりその確信を、高慢から出る 虚妄 ( きょもう )として、みずからとがめる。 そしてみずから罰せんがために、 苦々 ( にがにが )しくおのれを卑下しおのれを 苛責 ( かしゃく )して、喜びとする。 しかし確信は存続し、何物からも動かされない。 いかなることをなし、いかなることを考えようとも、そのいずれの思想も行為も作品も、完全におのれを含有しおのれを表現してはいない。 彼はそれを知っている。 彼は不思議な感情をいだいている。 自分の最も多くは、現在あるがままの自分ではなくて、 明日あるだろうところの自分であると。 …… きっとなってみせる!……彼はそういう信念に燃えたち、そういう光明に酔っている。 ああ、 今日によって中途に引止められさえしなければ! 今日によって足下にたえず張られてる陰険な 罠 ( わな )へ 陥 ( おちい )って 蹉跌 ( さてつ )することさえないならば! かくて彼は、 日々 ( にちにち )の波を分けておのれの小舟を進めながら、 側目 ( わきめ )もふらず、じっと 舵 ( かじ )を握りしめ、目的の方へ眼を見据えている。 彼は屋根裏の室で、ただ一人、自分の古いピアノに向かっている。 夜になろうとしている。 消えかかった昼の光が、楽譜帳の上に流れている。 光の最後の一滴があるまでは、彼は眼を痛めながら読んでいる。 消え去った偉大な心の愛が、黙々たるそれらのページから発散して、やさしく彼のうちに 沁 ( し )み通ってくる。 彼の眼には涙があふれる。 なつかしいだれかが後ろに立っていて、その息で 頬 ( ほお )をなでられ、今にも両腕で首を抱かれる、かと思われる。 彼は身を震わしてふり返る。 自分一人きりでないことを、感じまた知っている。 愛し愛されてる一つの魂が、すぐそばにそこにいる。 それをとらええないで、彼は嘆息する。 それでも、その憂苦の影は、彼の 恍惚 ( こうこつ )たる情に交じって、ある秘めやかな快さをなおもっている。 悲しみさえも今は晴れやかである。 愛する楽匠らのことを、消え去った天才らのことを、彼は考える。 彼らの魂は、それらの音楽の中にふたたび 蘇 ( よみがえ )ってくる。 愛で心がいっぱいになりながら、彼は超人間的な幸福を夢みる。 それはこの光栄に満ちた 畏友 ( いゆう )らのもっていたものに違いない、彼らの幸福の一反映ですらなおかくも燃えたっているのを見れば。

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明日 を 描こ うと もがき ながら ドラマ

宮西計三 Essay レイプだろうが殺人だろうが、戦争だろうが、ほとんどの人は芸術というレンズを通せば安全だと思っている。 それが私には不思議なんだ。 夜の闇をつたって自分の身体に、あるいは意識に入り込む不安を、私はいつも感じている。 宮西計三の文章は悪い夢の共有だ。 過去の、済んだ出来事ではなく、いまだに喰うか喰われるか。 襖をあけたら、夢は牙を剥いてくる。 よく書けたね、こんな怖い話。 墓を暴くのと同じだわ……。 (薔薇絵)• 一 根を持たない人間と言う者がいるものである。 属も種目も判らず、従って変種とならざる得ないような者である。 孤独と疎外感を胸に証されざる場所を世界に探し求める。 振り仰げば太陽はその額に烙印を押す。 「眩しい!」 生まれたばかりの極私的生命にとって自然界は恐怖であった。 川行けば流れは足をすくう……山行けば道迷う……。 全ての生き物と同じように自然界は幼い極私的生命をも例外無く取り込もうとする。 幼い命に自然の摂理など分かる由もなく、むしろ無関係にさえ思われた。 幼き者は乏しい感覚をもって摂理を恐れ一個の生命として自然に沈み込むことを拒絶する。 結果その恐怖を具現化する……幽霊や魔物がそれである。 彼をここでは『ボク』と呼ぶことにする。 まずは、彼『ボク』についてふれておかなければならない。 ボクは1956年(昭和31)1月23日大阪河内長野に父タダオ、その妻フミコのあいだに長男として生まれた。 4歳上に長女ユウコがいる。 生後間もなく病のため、当時東大阪のベッドタウン化しつつあった奈良県は生駒郡(現・生駒市)に転居した。 それがそもそもの不幸の始まりとは思いもせずに……元より間違いはこの転居に始まった訳ではない。 そもそものタダオとフミコにしてからが間違いだらけの出会いと人生を重ねてきたのであるから、そんな二人にしてみればこの転居もあながち間違いでもない当然の行動とも言えるのであるが……。 後にこの二人についても触れるが、今少し『ボク』の像を浮き彫りにする事にしよう。 『ボク』の体調故の転居……これも今となれば疑わしい限りである。 後にフミコが話す思い出の断片をつなぎ推測してみるに、大阪では水道も便所も無い三畳程の仕切られただけの空間に、家族三人が暮らしていたようだ。 そこに乳飲み子が一人増えた訳であるから居ずらくなるのも当然と言う訳だ。 『ボク』は1000gramに満たない未熟児であったのを湯たんぽ三つで育てたとフミコは言う……授乳期にその湯たんぽでフミコは大火傷を負う。 乳はピタリと出なくなった。 それからというもの重湯を乳がわりに育てたと……。 虚弱な『ボク』は夜泣きがひどく、度々タダオの癇癪をひきおこしたことは容易に想像できる。 タダオは二度ほど泣き止まぬ我が子を壁に叩き付けた。 タダオは長女ユウコをもうけた直後、妻子を四国は高松の実家に置き去りにし、職探しの名目で単身大阪へ出奔。 まぁ青年の頃より伊達者で女好きのタダオはこれ幸いと気楽な独身生活を楽しんでいたのである。 そこにフミコが娘の手をひきひき現れたのである。 それもまだまだ戦後の名残ある時代、ラジオ番組の「尋ね人」で探し出したのであるからタダオの驚きはいかばかりか。 「チッ、見付かった!」やっかい払いしたつもりでいたタダオは思わず口走った。 「なにしに来た!? フフ……ぼんぼん育ちで遊ぶだけしか能が無いタダオにとって戦後のどさくさはもってこいであったのだろう事はわからなくもない。 後年一度ならずタダオは言ったものである……。 「俺はカスを掴んだ。 腐るほど女はいたのに……よりによって!」 全くタダオはドジを踏んだ訳である。 二 これをお読みの貴君は思われるだろう……「マンガ論」と銘打ちながら関係ないことを彼れや此れや持って廻った言い方で、『ボク』なる者の浮き彫りにもなってないじゃないか……と。 『ボク』彼は後にマンガと出会うのであるが、それはそんなに先のことではない。 言うならば彼にとってマンガは世間の認識するところのものとはいささか違ったものであった。 彼が何故(なぜ)にそのようにマンガをとらえねばならなかったか……何故(なにゆえ)彼の中でマンガがそのように変容したのか……正に変容なのである! それを探る為に彼が如何に彼として生まれたか……それを知っておくことは無駄ではないと思うからである。 因みに、ここには具体的な作家名も作品タイトルも出てこない。 彼が好んだ作品やマンガ家を上げたところで意味がない。 現代の貴君は見たことも聞いたこともない物ばかりで、当時の彼が受けた感銘は到底理解出来ないものである。 貴君等が知っておられるマンガとは全く違う物であると言うことをご理解頂きたい。 友達と共有し楽しんだり懐かしがったりする娯楽などでは決してなかったのである。 神は点在すと言えるならば、正に彼はマンガに神を見てしまう運命にあった……と言えよう……。 大阪上本町から近鉄奈良線で生駒駅。 そこで王子線に乗り継ぎ六つ目が南生駒駅。 この辺りは生駒山の麓にあたり勾配はあるものの駅も近く、これより上の山間部に比べればまだまだ便利な盆地にあたった。 車が通れるただ一本の道が真っ直ぐ山頂に向かって延びている。 しかしほどなく右手に小学校、直ぐ上に並立した中学校を過ぎると道は途端に狭くなり蛇行し始めるのである。 この先はめったに車が行くことはない。 丁度その辺り、中学校の裏の段々田畑を幾枚か登った所に一家は間借りした。 この尾瀬に住んだのは僅かの間であったという。 この時期タダオはどうしていたのか……生涯勤め上げる事になる鉄工所に既に入社していたのかどうか不明であるが、大阪からの時間経過から考えて、梲(うだつ)の上がらない仕立て屋の注文取りを辞め、新たに鉄工所勤めをしだした端境期(はざかいき)辺りであったことは確かである。 新生活がどうであったか……? タダオはこれを機に真面目に勤めだした。 フミコは二人の子育てに追われていたであろう。 落ち着いたら自分も働こうと思いながら将来を夢見たことだろう。 しかし想わぬ事になるのが世の常か……。 というのも田舎のことか大阪から来た夫婦者が珍しかったのだろうか……こともあろうに間借りした大家の隠居爺さん(と言っても今の感覚からするとまだまだ現役の年齢であったかもしれない)が、フミコに言い寄る事態となってしまったのである。 世間の男以上に遊んで来た身のタダオであったにしても一旦立場が逆転したとなれば話は別である。 その怒りも世間並み以上であった。 事の顛末はフミコの口からもタダオ本人からも証されないままであるが、この直後に再び引越しているところをみれば一悶着あったことは確かである。 『ボク』にはこの時期の記憶は全く無い。 まるで昏睡状態であったかのようである……。 赤子の見る夢があるとすれば、それは一体なんだろうか……? 健やかな五体を伸ばし満足の欠伸を漏らすその唇に与える微笑みはなんという夢からくるのだろう……? 人は飲み、食らい、肥え太るために生くるか? 柿の実に潰された蟹しかり、踏みつぶされる蟻しかり、人間の生活の上に吊されたる大石を、ただ災難とばかり逃げ惑うのか? 人の災い受けるは面白く、我が頭上は見ざりきなり。 こうして根無しの家族は更に生駒の御山奥深く落ち延びるのであった……。 三 病気や事故、事件、人知を超えた災害に果ては虐待までも、死は至る所に潜んでいる……。 死は世界にとってなんであるか? 死が世界を支配しているのか? ただの執行官に過ぎないのか? 昔から様々取り沙汰された話題である。 一つ言える確かなことは……死は存在するという事実だ。 それは成長期のある時期にとても重要にして、身近に寄り添うものである。 それは生命力と成長を喜び、その息吹きに恍惚と目眩(めまい)しながらも隙あらば取ってやろう、喰ってやろうと、舌なめずりをしている……。 幼い子たちというのはこのように死に愛でられ黒く垢のたまった爪の先でふっくりとした頬をつつかれているものなのだ……。 まるで果実や花かなんぞのように……。 子どもとはこのように危険な状態を指すのである! その意味でゲーテの「魔王」は幼い魂のおかれた状況の真実を端的に物語る一例であろう……。 生駒山とはその昔、大阪から或いは奈良から大阪へと馬を連れ来た道であったという。 山を越え来たった時に無事馬が生きていて安堵するという地名であろうか……? さしずめ馬市でも立ったのだろう。 そんな折、馬をねらってかその売買金をねらってか、山の奥には鬼が出没したという。 『ボク』はその頃になってようやく物心がつきだす。 やっと彼は眠りから目覚めたようである。 山の風景が強烈な印象となって彼に襲いかかってくる。 一挙に目覚めた感覚は忽ち溢れだし、なすすべなく立ち尽くすのみである。 彼が体内に何かが居るのを初めて感じた瞬間でもある! 生涯付きまとう何か……。 霊の目覚めとも言える瞬間である、がそれは幼い彼にわかるはずのないこと……。 錯乱した記憶と共に一種の熱が精神に取り憑いたかのようだ。 瞳に映る風景と、もう一つの神経が捉えた風景が混在し、そして精神が捉える像は現実と対象であり、又対比でもあり……鏡の裏表か? いやいや細部は同じだが全体が違う。 まるで手足がバラバラだ! それでいて現実以上に現実的なのだ! これは一種の交感である。 魂の感応状態なのである! 或いは昏睡状態の赤子夢か? 赤子は分かっていたのだ……知覚し、体感し、その神経層に刻み込んでいたのだ! それが物心がついた今、形を持ち意味を求めて世界との交信を始めたのだ。 なんと官能的なのだろう! なんと神秘的なのだろう! しかし『極私的魂』の彼は耐えられるだろうか……!!? このような状態は言いかえれば生命の危機的状態であるから早すぎた目覚めがこの子の根を焼き尽くしはしまいか……!? 彼はこの理解出来ない状態にただ怯えるだけであった。 ただ生命力だけが頼りであるが、犬や猫なら鳴いて吠えれば事もすもうが……人の子には道はひとつ。 それはただ病みつくのみ! 『ボク』は昼にあっては夜を忘れるように野山で遊び、夜は泣いた……。 昭和30年代の田舎。 それも山の暮らしがどのようなものか、想像がおつきだろうか? さかんに「もはや戦後では無い」といわれ米ソの冷戦が始まり鉄の壁に五カ年計画。 朝鮮戦争による特需景気に日本は沸き立ち、都会はネオンの海と化した時代である。 そうして高度成長へと突き進むのである。 巷では金の卵と囃された少年少女たちや公害問題が後々浮かび上がる問題を孕んで都会へと河川へと流されて行ったのであった。 しかしまだまだ田舎は貧しく、貧しいがゆえに都会へと人は流れる。 人はいくらでも使い捨てにされた時代であった……。 四 山の生活。 それは『ボク』にも彼の家族にも良い印象をあたえなかった。 麓(ふもと)を含めて殆どが稲作地帯であり二毛作で米と麦を収穫していた。 麓の盆地辺りでは、さすがに大きな田もあるのだが、おしなべてみな小さな田である。 田は山をのぼるに連れて益々狭く小さくなってゆく。 山の斜面を平らにならし五、六段の石垣を積み又、平らにならし田をつくり又石垣を積み田にしてゆく。 こんな具合に山肌に沿って段々畑が広がってゆく。 点在する大小の溜池や森や林に取り巻かれて生駒山は横たわる。 木材も豊富だが特に生駒石の産出をもって知られていた。 生駒石を切り出す発破の音が絶えず鳴り響き、山頂にはテレビ塔も鈍く光って見えている……これはあくまでも昼の日差しの下での話しであって、夜や悪天候ではその様相は一変する。 観光パンフ的景観などは生活者には無縁であった。 山麓に囲まれた六月の空をセスナ機が飛ぶ……低空飛行で一度、二度、白色の霧を吹きかけて消えて行く……農薬散布だ! その時刻は外では遊べない。 我等が『ボク』もその日は部屋の中だ。 彼もそろそろ就学の年齢に達しようとしていた。 この頃には既に小学三年生の学習を終えていた。 これはフミコの熱心によるもので、姉のユウコもクラストップの成績であった。 フミコは自分が受けることのできなかった教育だけは二人に受けさせたいという思いが強かった。 夫には何も望まなかった……あの出来事以来。 まだ姉が一人の頃には、こんな男は見限って自立しようという考えもあったという。 しかし『ボク』が壁に叩き付けられてからその考えは変わった。 「この償いはさせてやる!」 フミコは女の意地にかけて誓ったのだという。 どんなに惨めで辛くとも我慢して最後の最後にひっくり返してみせると……。 フミコは死んだふりの鬼となっていたのである。 『ボク』は見ていた……。 上がり框に肘をつき外を眺めていた。 田を、畦道にそって竹藪を、その藪を通り右手に伸びる小道を、小道沿いに石垣も続く……ここからは見えないが石垣と小道の間には小川が流れている。 農繁期にはこの道沿いにずらりと稲穂が干される……『ボク』の好きな風景で、考えただけでいい匂いがして干された麦藁の少し埃っぽい空気と心地良い陽の香りがしてくるのだった。 反対に藪の右手を見るとそこは山の下手にあたり前述の小川が急カーブして流れ落ちて行く。 幅はそれほどでもないがかなりの深さの谷川となり竹藪に沿いに下の小さな溜池へと流れ込んでいる。 『ボク』はよく知っていた。 この池で母親が洗濯していること、オキアミが沢山いること、上の藪まで急斜面になっていて藪の道はとても危険なことを。 そして、母親がそこを転がり落ちたこと……。 「あぁ誰かいるみたい」 溜池を下って麓に向かって行く道も、何処で田の畦(あぜ)を通ると近道なのかもよく知っていた。 「去年の秋祭りに行った道だ」 『ボク』はぷいと視線を落とした。 手元のはげちょろけた畳が目に入る。 ぐっと瞼をとじてみると風景はまだ目の中にあった……思い描いてみる。 「ここはいつもオンブしてもらった坂道」背中感じ体温の温さが気恥ずかしい……「鍼(はり)なんて効くもんか」月夜の影法師…… 「………!」 『ボク』はぴくりとして頭を上げた。 すると藪の茂みの間から帰ってきたフミコの姿をみとめるのであった。 柱につかまり身を乗り出して手をふる。 するとフミコも手にした本の袋を示して笑った。 『ボク』も大きく両腕を振ってさらに笑った。 「わー『少年』だ!」 昭和35、6年。 当時は月刊マンガ誌が多数出ていた。 各出版社の個性をいかしたマンガ家の選陣、企画特集など特に夏・冬の特大号や合併号は付録が盛り沢山で子供たちの楽しみの一つであった。 どれもこれも幼稚な物であったが軽視できない手作り感、職人の遊び心が息づいていたのはたしかである。 当時の少年たちはそんなところから工夫を学んでいたのだ。 けっして図画工作の授業で教わったのではないことだけは言っておきたい。 絵にしてからが汚くても稚拙でもしっかりとペンで引かれたマンガは素晴らしい息づきと手触りをもって見る者に迫ってきた。 はたしてこの昭和20年代、30年代に絵を志した少年少女たちのなかにマンガに憧れなかった者がいるだろうか? マンガで線を学ばなかった者が絵など描けるとは到底考えられないのである………。 1946年(昭和21年)11月に創刊。 昭和30年代は手塚治虫『鉄腕アトム』、横山光輝『鉄人28号』、堀江卓『矢車剣之助』、白土三平『サスケ』、関谷ひさし『ストップ! にいちゃん』、藤子不二雄『忍者ハットリくん』などの連載で最も人気のあった少年誌。 1968年(昭和43年)3月号にて休刊。 五 この地域は水田の間を細い農道がうねうねと山肌に沿って伸び、所々に枝別れするように更に細い道が右に左につづいてゆく。 そんなところに大小の民家がぽつりぽつりと、ときには数軒かたまって点在し村落を形成していた。 そんな血管のような山道を登って行くといつしか道無き道の獣道となるが、そんな所にも一つ二つ田畑があったりぽつんと小屋があったりして驚かされもし又安心もする。 この辺りまで山中に来ると時折とんでもない風景に出会う。 えぐり取られた山肌が幾重にも地層を見せていたり、炭焼の穴があったり、竹垣だけが広い敷地を囲んでいたり、陰鬱な寺におどろおどろした墓石や大きな碑。 不意に誰住むとも無い屋敷などに行き当たる事もある……。 これらは全て自然に呑まれてしまっている形で存在し、不思議なバランスをたもっているのだった。 『おまえは』粘土質の道に足を取られながら山をくり抜いたような自然のドームをくぐる。 更に足場を注意しながら登って行くと突然の水音に驚きの目をあげる。 すると其処は岩盤が幾枚か荒積みされた二畳足らずの空間となっていて、正面は垂直な岩肌がむき出しとなり左右から木叢が縁飾りとなって覆っている。 その中央の背となる岸壁は円く刳(く)り貫いたように凹んだ自然の壁龕(へきがん)となっていた。 正にその祭壇をか細い一本の滝が落ちるのを見るだろう……。 身体は瞬時のうちに疲れも汗も引いてしまう。 厳(おごそ)かな滝壺からひろがりみちたる霊気は見る者の五体をかなしばる。 滝壺からたちのぼるかのごとく清浄なる白糸は繊細に身をふるわせながら『おまえ』の前に立っていた……! ひたと見据える眼はまさに白蛇。 『おまえ』の頭上で梢の衣擦れの音がするぞえ……。 ねばっこい若葉が夏の日陰をちろちろ手慰(てなぐさ)んでおるぞえ……。 釘付けにされた『おまえ』のスカンポは潰れてしもうて……ほれ汁が垂れとうぞ……。 真っ白な仙女は長い髪をゆらしゆらしくくくと笑んだ。 滝壺からおこる微かな風が衣の裾に戯れて……はだけてみせる……。 仙女くくくと又も笑む声をのみこんだとおもうと、くっとばかりに流し目をくれて睨みつけて云った。 『おまえ……』 じりとにじり依った仙女の顔が『おまえ』の鼻先に揺れる。 細めた目。 息が頬にかかる。 森羅万象悉くその動きを止めた……。 その刹那、仙女がなんと云ったのか? ……それは言えない……。 『ボク』が気付いたときには峠道にいた。 灌木の間から真っ赤に染まった空が覗いている。 キラキラと光は橙色に染まってあちらこちらもう夏の匂いがしていた……。 『ボク』は握り持ったものを見た。 「あぁっぐちゃぐちゃ……。 」 それは折れて潰れてしまったスカンポであった。 『ボク』はふっと何気なく……後ろを振り返った。 六月も終わりの頃である……。 六 峠を下りて我が家に帰り着いた時刻にはとっぷりと日も暮れていた……。 薮を抜けると手前左の山側に大きな農家がまず目につく。 そして石垣沿いの小川と細道を隔てて前方右側にこれまた大きな家があった。 先の民家が典型的な農家であるのに比べて此方は門構えといい剪定された庭木といいそれはそれは立派なお屋敷の佇(たたずまい)だ。 物言わぬ建造物であるがこのような環境のなかでは不思議と語りかけてくるものである……物霊とでも言おうか……。 「どーじゃ。 ワシは村一番じゃ!」と誇示するのを『ボク』は厭わしく思った。 小屋と言ったのは卑下でも誇張でもなくそのいばりんぼうなる母家の下、外便所の脇に建てられた本当の小屋なのである。 かつては牛馬や農機具を納めていたところで小作人や手伝い人足の煮炊用に竃(かまど)と六畳ばかりの休息所も設けてあった。 その六畳間で『ボク』等家族四人は生活していたのである。 生活と言っても井戸は涸れていて貰い水、飲み水以外は下の池から汲んで溜め置く、便所は外便所で母家と共同である。 台所は暫くしてプロパンガスを入れたが、それまでは竃(かまど)や七厘(しちりん)で煮炊きしていた。 当然風呂も無く夏は行水、冬場は湯で体を拭く程度だ、しかし貰い湯は余りしなかったようで、とは言えタダオは会社で毎日風呂を使って帰るので良しとしても、二人の子を垢だらけにしておく訳にはいかない。 とくに上は女の子であるのを考えてみれば……。 仕方なく親しいお家で風呂を借りたこともあったのだが、ほんのたまにのことである。 フミコにはそういった妙な気ぐらいの高さがあった。 フミコのそもそもの生まれは富山県は神通川の近くらしい……。 これより詳しくは語ったことがない……。 藤塚と言う家の長女として生まれた。 上に兄二人、下に弟が一人の四人兄弟で紅一点の娘として愛された……と言いたいところであるが、いっかな! そうではなかったのである。 それどころか働き手にもならない女など欲しくもなかったと言うのが事実であった。 フミコは生まれて暫く放っておかれたらしく、人に咎められて一年程した大正15年12月に父親が役所に出生届を出している。 正確な出生日はわからない。 元号が大正から昭和へと変わることもあったので切りが良いとでも考えたのだろうが、無責任な話である。 経緯は知らないが藤塚家というのは家族が父方と母方に別れ一つ屋根の下で互いにいがみ合っていたらしい。 フミコと弟は父方として、上の男の子二人は母親が取った。 父親に可愛がられたようにも聞くが、そのぶん母親にはこっぴどく虐められたという。 家事を握っているのは母親であるから食事も満足に与えられず、端女(はしため)のようにこきつかわれた。 冬であっても神通川で野菜を洗い皹(あかぎれ)の手から茶碗を井戸に落として飯を食わして貰えないこともあった。 この人は親族の中で唯一フミコが好意をもって語った人物である。 正確なところは聞き出せなかったが年の差はかなりあったようだ。 次男である彼は母方に属していたといえ、それはただ母親の好みでいっていることで自分はどちらがどうだなどとは思っていないのであった。 おとなしい人で仏様の絵を上手に描いたという……。 フミコは強い女性であったがその横顔は寂しい……。 子供をあやす時に見せるおどけた姿も哀れにうつった……。 『ボク』にはそれが痛いほどわかるのであった……。 六畳間は畑側の上がり框(がまち)にガラス戸が嵌められ、そこから直接部屋に出入りしていた。 玄関などは無い。 上がり口の反対側に窓が一つあってその窓際に座り机が一つ、これが姉と兼用の勉強机である。 それに箪笥が二竿(さお)これで家財の全てである……。 窓の外は直ぐ石垣で大雨の時など上の水田から水が溢れて滝のようになる。 この地方では苗の虫取りのため錦鯉を田に放つ習慣があるのか? そこのところは調べた訳ではないから定かでないが、一度など30センチは有にある白地に朱の鯉が流れ落ちてきて『ボク』を驚かせたこともある。 週末を除いては夜に父親を見た記憶は彼にはない。 彼が寝てから帰宅し、彼が起きる前に出勤するからだ。 なんといっても二時間の山道なのだ。 それにタダオは右足が悪かった……。 『極私的生命』が未だ他と生命を共有していた頃……つまり『ボク』がフミコの腹の中に居た頃に。 七 岸和田は河内のなかでも気性の荒い土地であった。 しかし他人に気を遣うことは無用で気楽でもある。 その一方あけすけでくちさがない側面があることも確かだ。 まだ若かったフミコも痛くも無い腹を探られた事は一度や二度ではない。 貧しい生活、惨めな過去、そのなかで懸命に努力をして来たし、今もしている。 それを面白おかしく覗かれるのを涙の出る思いで耐えていたであろうことは想像に難く無い。 ひしめく人たちはみな影のように暗い……。 汚いバラックや露天が並ぶひしゃげたような商店街である。 フミコもいつものように娘の手をひき雑踏のなかにいた。 顔見知りの店も増え、町に馴染んだ実感は心地よく嬉しいものだった。 気軽に呼びかけ飛び交うあう声また声、その中に一寸周りの調子とは異なる声がフミコを呼んでいた。 嫌な調子の声だった……が直ぐとピンときた。 「八百屋のおばちゃんの声……」 見ると行き交う人の頭越しにおばちゃんが血相を変えて手招きしているではないか! 「なーんや、おばちゃんかー。 誰かと思うたわ。 どうしたん? 何かあったん?」 八百屋の女将(おかみ)は確かめるようにフミコを頭から足までじっと見ている。 「丁度ええわ。 これもろとくわ……」 差し出した手をひしと摑むと女将は恐ろしい顔で掌を見出した。 無言のまま右手を見たり左手を見たり又右手を見たり……。 フミコはなすがままにしていた。 女将はかねてより親切でフミコにことのほか優しかった。 フミコが一言云ったただけで事を了解してくれるのだ。 言葉に出さなくても表情やその声の調子で悟るのである。 まるでフミコのことは全てお見通しのようであった。 そんなおばちゃんが血相変えて私の手を見てる。 おばちゃんは手相見としても評判が高い……フミコは怖くなって手を振り放そうとしたが反対にぐいぐい引っ張られて店の裏まで連れて来られた。 「一寸ここにおいなはれ。 ユウコちゃんこれあげるさかい、店の奥で待っててな」女将はエプロンから飴玉を一掴みユウコに与え追いやった。 「おばちゃん何や? 何ですねん? どうしたん?」 女将はフミコを縁側に座らせ自分はフミコの前にしゃがみ込んだ。 もうフミコの顔は見もしないでしきりにフミコ手を撫でさすりするのであった。 「あんた、知らんのやな? あんたまだ知らんのやな……? 」 「何を……? 」 女将は一度唾をのみ大きく息をついて云いだした。 「フミコはん。 怒ったらあかんで? あんた、やや子おるで。 あかんねん。 その子産んだらあかんねん! 今のあんたには分からんやろうけど、おばちゃんの云うこと聞いて。 フミコはん? その子もあんたも不幸にしかならへんで!」 「なんゆうてんのん? おばちゃん! いい加減にして下さい。 やや子なんて出来てません! そんなん知りません!」 フミコには心当たりが無いわけではなかった……。 もう子供はつくるまいと卵管を括ることも考えていた。 それだけにこんな形での告知は衝撃であった。 心配を突かれたが故に腹立たしくもあり、疲れ果て眠りこんだところを……と思うとその顔は般若の形相に変わっていた。 「フミコはん? よう聞きや? その子はあんたを喰い殺すで。 」 フミコは女将の手を振り解きすっくと立ち上がった 「ユウコ帰ろ。 」 娘の手をひく後ろ姿になおも女将は云った。 「フミコはん? 後生や! やめとき!」 フミコは踵を返し娘をひいた手をぶるぶる震わせていた。 「おかーちゃん手痛い。 」 フミコは静かに女将の前まで戻ると真っ直ぐに相手を見据えた。 「産んでやるわ。 産んで立派に育ててみせます。 おばさん? 今まで有難う。 」 女将さんは泣いていた。 ユウコは泣いているおばちゃんにさっき貰った飴玉をひとつ差し出した。 「おおきに。 ユウコちゃんええ子やな……。 」 フミコがこの店を訪れることは二度となかった。 八 夜。 漆黒の闇、月もない。 繁みに潜む者共よ、田に棲む者共よ、貴様等小さき輩の天下だ。 しかし今はそれらも眠りにつく時刻……。 フミコは眠る我が子をじっと見ていた。 部屋は簡単に布で仕切られてその向こうで夫が寝ている。 豆電球の下で眠れぬまま時をすごすのが彼女の常となっていた……。 時計が三時を打つ、そろそろ起きる時間だ……。 彼女の思うことはいつも同じ……。 何とかしなければ、何とかしてこの子らを育て上げなければ……そればかりである。 天涯孤独の身を憐れんだとて何になろう、それより働くのだ。 今は幸い二人の子も落ち着きさしたる問題も無い。 が、忽ちこれから物いりになるのは目に見えているではないか……。 「金が欲しい」 今もフミコは共働きしていたが『ボク』のこともあり働く時間が限られていた。 「仕事を増やそう! 今までの朝刊だけじゃなく夕刊もやろう。 それに空いた時間に内職もしよう。 それだと内職しながら『ボク』もみることが出来る」 『ボク』は来年に就学を控えていた。 丁度、上の母家にも同じ歳の男の子がいた。 籔端の家にも同年の男の子がいる。 どちらの子も『ボク』の遊び仲間だった。 母家の嫁は麓で幼稚園の先生をしていたこともあって先頃『ボク』を就学まで園に通わせてはどうかと、近所の子たちもいるので入学の準備に良いのでは? 何よりフミコさんが楽になるのではと話があったばかりである……。 「そうしよう」 時計が三時半を打った。 フミコは朝の支度にへと台所に立つのであった。 涙が頬をつたうのもそのままに……。 フミコは泣けない女になっていた。 頬をつたうのは、それはもはや汗ほどの意味をも持ってはいなかった……。 山の子供たちの朝の風景はなかなか楽しいものだ。 山頂から順々に声をかけ誘い合いながら一人二人と増えてゆく。 年長の子が先頭になり麓に向かってワイワイと賑やかに行進はつづく。 日によってその都度隊長は一番の年長者に代わる。 時には大人も付き添うが、これらには決め事がある訳ではなくしぜんと自発的に行われる。 責任だの義務だのと言い立てする者なぞはいなかった。 子供部隊は総勢で、その時々で違うがおおよそ二十名といったところで幼稚園児から中学生までの男女混成部隊だ。 女の子も中学生になるといっぱしの看護兵である。 転ぶ者、泣く者、喧嘩する者、といろいろ面倒をみて回わる。 そんな娘ばかりではないが皆一様に仲良く登校していた。 そんな中に一人の女子中学生がいた。 彼女は年少の男子を異常に好いた。 手をつないだり頭を撫でたり、時には抱きまでもするのだ。 お気に入りの子には頬ずりし体を触ることもしばしばでさすがに朝の登校時には自重しているがその眼差しは熱く男児を見詰めていた……。 「ボク」がこうした登校にも問題なくとけ込めたのも母親の新聞配達に時折付いて廻って既に殆どの子供たちを知っていたからである。 しかし問題は思わぬところからやって来た……。 幼稚園生活も幾日か経ち馴れもした。 頃は七月も半ばであったろうか……。 世間に季節の早い台風の話題が走った。 例年に比べ大型だという台風が近畿地方を直撃するのが確実だというのである。 数日前から雨が続いていたがそれも前線の影響であるらしくそれ故当初は雨台風と見られていた。 その大型台風が明後日、伊勢湾に上陸、近畿地方を巻き込み日本海に抜け北上するというのだ。 しかしまだ一日の猶予があると高を括って人々は普段と変わらぬ一日をおくっていた。 数日来の雨は今朝も降りつづき正午を過ぎて激しさを増して来ていた……。 この雨のせいでもないだろうが園児に休む者が多く、その日の教室内はひっそりとして雨音だけが大きく響いていた。 幼稚園でも母家の男の子と一緒だった。 この友人は我儘であった。 裕福な家の子に有りがちな甘えん暴君である。 『ボク』はお昼の給食も食べ終え窓に走る雨足を見ていた……。 時折風が雨を叩き付けてくる。 まだお昼なのに変な暗さだ、お空が動くのも不思議だ、怖いのに何故かわくわくする……。 「かえろ!」 訳を聞いてみると、なんでも母親に給食の後におやつをくれと云ったらおやつの時間まで待ちなさいと云われ、更にねだり叱られたということだ。 それではらいせにエスケープするというのだ。 「いっしょにかえろ!」 「ボク」は深く考える事もなく気軽に道連れを引き受けた。 丁度外は雨雲が強風に吹き飛ばされてほとんど雨は降り止んでいた……。 空は物凄い勢いで走りまるで生き物のようにぬたくっている。 射干玉色(やかんぎょくしょく)ぬばたまの怪物が山の向こうに現われる 異様を誇れるその巨体は奇怪にして麗し 野火稲妻従えし煌びなるかな穹窿(きゅうりゅう)翔る獣なり 二人の少年はすっくと立った。 冒険に心弾み、この冒険の成し遂げた時の賞賛を夢見たアルプス登頂を目指すアタック隊もかくのごとくか……? いやいやこの冒険は、キングコングが棲む太古のジャンル、はたまたシンドバッドの世界の果てにも等しい大冒険だ! それも子供二人っきりで武器も何も無い。 アルプスなんか目じゃない。 二人は知っているぞ。 沢山の荷物を奴隷に運ばせているのを。 二人は賞賛なんていらない。 賞金もいらない。 欲しいのは只おやつだけなのだ! おやつを賭けた命がけの冒険だ! 二人は傘を振りかざし元気に出発した……。 九 二少年冒険記は事も無くごく簡単に終わる。 それは、あっさりと成し遂げられたからである。 現実とはそんなものだ。 ドラマや映画ではないのであるから……。 そりゃその後雨も降り出し山道は川のようになり風も吹きだしたが……。 傘が飛ばされたぐらいなんであろう? ずぶ濡れになったぐらいなんであろうか? 二人は抜かりなくやったのだ! ドジは踏まなかった。 煮えくりかえった怒涛の川を見ても二人は怯まなかった。 根こそぎにされた倒木や崩れた土砂に阻まれても冷静さを失わなかった。 園児帽子を突風に持って行かれた時に少々狼狽(うろた)えたぐらいだったのである……。 時には致命的な大怪我をだ。 簡単に行ったと言えど偉業には変わりない。 問題なのは現実の出来事ではなく頭の中の出来事なのだ。 事象が幼児と言っていい二人の少年の精神と心にどんな現象を起こしたかと言うことこそが重大なのだ。 頭と心にこそスペクタクルが存在しドラマツルギーなるものを生みだすのである。 間違いなく今回の出来事は二人にとって大冒険だったのである……。 現実というのは何時もごくあっさりと過ぎて行く。 この大台風も過ぎてしまえばことも無げに思われた……。 しかし大人達は決してあっさりとはしていなかった。 二人を見つけ保護したおばちゃんの驚きようは尋常でなかったし、狭い村の話題ともなってしまった。 暴君の母親は譴責を受け、当の暴君もこっぴどく灸をすえられた。 フミコは激怒して即刻『ボク』を退園させてしまったほどだ。 本当に恐ろしい台風だった……。 なにしろ『ボク』の幼稚園生活までも吹っ飛ばしてしまったのだもの! 台風一過の空はどこまでも晴れ渡り高く紗のような雲がきれぎれに走っている。 見上げる『ボク』の頭はグラグラしてくる。 子供心に美しいと感じる。 同時に考えてしまう……どうしてだろう? 世界はこんなに綺麗なのに、どうしてボクの住む所と違うんだろう? この世界はなんで夜になるとあんなにも恐ろしいのだろう……? どうしてこんなにも違うんだろう……? ずっと見てると宙に浮き空に吸い込まれそうだ。 眩しくて眼を閉じる……新たな視界が開ける……そこは蒼穹……紺碧の宇宙……飛び交う天使が見える。 このまま眠ってしまいたい。 改めて現実を感じざる得ない夜の中に……。 子供は家庭の抱えている問題を感じ取るものだ。 いくら隠しても、彼らは鼻の利く動物なのだ。 とくに『ボク』のような貧しい家庭においては尚更である。 しかし本来からいえばこうして誤魔化す親の方がおかしく、物質で麻痺させようとする方法にこそより大きな過ちがあるのだ。 それは親の心理を見抜くからであって、どのような素直な子でも裏と表を使い分ける小さな大人となってしまう。 こういった遣り方は犬や猫を馴らすときのやり方であって、けっして『極私的生命』つまり魂を持つ人の子にはしてはならない暴力ともいえる振るまいである。 本来、人と生まれたからには生来の無垢を保ちつつ、叡智と体験とを旨に己が心と汝が心の良きところを求める人生であってほしい。 フミコは厳しかったが又、甘くもあったのだ。 子供の欲しいと言う物は何であれ自分が食べなくとも買い与えていた。 がるそこで世間と同じ過ちを犯す。 彼女は貧しさうえの意地に自己満足も手伝って本当の必要物を見失っていたかもしれない……確かに、『ボク』が欲しがるのは漫画本やプラモデルという表面上の形のモノだけれど、実はそれら形式が内包している本質を欲していたのである。 何故そんな玩具が欲しいのか? それにより『彼』の何が充足(みた)されるのか? 与えることが最善の方法か? モノはこれで正しいか? そこまではお互い考えるはずもなかった……。 こういった事が互いに習慣になっていてそれが続く事で安定をみいだしていたに過ぎない。 相手も自分も誤魔化してである。 対象がマンガでもオモチャでも、じっくり納得するまで見続けた。 実際に使って遊ぶより眺めて悦に入るのだ。 マンガや絵本などはろくに読みもしないで、とにかく、絵だけを見続ける。 飽きることなく何度でも何時間までも……。 こうして彼は好みの絵を絞ってゆく……。 彼はこうして情報をえてゆく……。 不思議に思うのはその選別の基準が何であるかだ。 彼の好みには共通の何かが確かにある。 それは誰かに影響された訳ではなく彼の内側から来ているものらしい。 彼の無意識の識別法。 アニミズムを探ってみることにしよう。 六歳やそこらの本人に尋ねても無駄である。 そこであの今も矯(た)めつ眇(すが)めつ見入っている眸の中へ入り込み、その奥を覗いてみることにしようではないか……。 十 網膜の海は静かに物象を映していた。 まばたき毎に浄められる浜辺は光に溢れ全てはオーロラの瞳孔へと吸い込まれてゆく。 真っ暗な角膜は放電を繰り返し光を分解しながら物凄いスピードで眼球の奥へと送り込む。 虹彩をくぐりぬけ……水晶体で溢れ……硝子体で破裂する。 一挙に海馬までやって来た……。 其処は、あの日の台風一過の空が天蓋いっぱいに広がっていた。 黒いほどに碧い空の上を色とりどりに明滅する光の帯が右に左に前になり後ろになりして揺れている。 海馬は五感全ての情報が集まって来る中枢部である。 脳と脊椎を統括して全ての各器官及び末梢神経までも支配する中心部……。 『ボク』は吊られた蚊帳にごろんとなって飽きもせず漫画本を見ている。 足元に置いた蚊取線香のけむりがたなびいてくる……。 数冊の雑誌を代わる代わるに好きなページをめくっては大事そうに閉じる。 彼の感覚は文章より絵柄により一層刺激を受けるようだ。 その際、好みの決め手となるのが線と形であった。 情緒感覚であったり皮膚感覚であったり実際見ている絵柄と関係無く感じているようだ。 時に明るく時に憂愁をおびてメランコリックに暗く。 絵によっては末梢神経、聴覚、臭覚、味覚、までも刺激され海馬の空を複雑に彩ったのである……。 彼は概して子供らしいデフォルメやキャラクターを好まず、そういった子供をあてこんだ物を嫌った。 名作であろうがなかろうが絵に描き手の意識が感じられないと喜ばないのである。 例えその絵が不出来であったとしても真意を捉えることができるのであった。 彼は作り事の夢物語のマンガから実感(リアル)を感じ取って自らのリアリティーを養っているといえる。 SFと自らのリアル、忍者とリアル、戦闘機とリアル、というふうに自分自身を感じ取ろうとしているのだ。 此処まできて彼の内面の働きはだいたい解ったとしても、これはあくまでも現象面に過ぎない。 知りたいのは、このチョイスをする大元なのだ……。 海馬の空が目まぐるしく変化し始めた。 渦巻く洪水のように、夏の雨の匂いのような、湧き出す泉のような、濡れた岩の温もりのような、樹木の肌と樹液のような、稲や麦のクロンボのような、川底の石のような、粘土層と砂鉄のような、それらが全部一緒くたになったような……。 それから……、それから……、それから……。 海馬の空は混乱をきたしていた………。 彼の身体内に違和感がしょうじた! 身内を虫が這うかと思われる気持ち悪さに、たまらず体をガクンと揺すり奇態なシャックリをする。 その時何かが飛び出た! 『ボク』のtic症の始まりである。 死の感覚 軽蔑と嫌悪が体内に侵入した場合、不気味な違和感を持って個体本来の性を侵蝕するのである。 そこで未だ純潔な性は対抗策を発動する。 夜の八時も過ぎると恐怖の時間が始まる……。 世界がその本性を現すのか……。 『ボク』の枕許には「少年」や「漫画王」などが堡塁とばかりに並べてあり彼の眠りを護しているかたち。 さしずめ連載マンガは警護の兵士か……。 一間きりの部屋に侘びしい調子で小さくラジオがなっている……。 彼はテレビやラジオからながれる歌謡の類が苦手で嫌いだった。 それらは過剰に彼の情緒に触れて来る……。 聴いていると死にたくなるのだ。 厚かましく寄って来ていい気になって歌っている。 不作法なこういった歌手たちは土足で人の心を掻き乱して大衆の心などと嘘吹く。 男と女の惚れたはれたや涙や酒だの怨みだの……。 彼『ボク』はこんなものが平気で聴けるなんて? しかも好かれている世間なんて、そんな世の中には生きることが出来ない。 いや、むしろ生きたく無い! と強く思っていた。 それはまだ美しい物として憧れをもって見ていたといえよう。 毎夜、床に付くと静かに目を閉じて憧れているマンガを思い描く……。 「こんな絵が描けますように。 好きな絵を描けますように。 そのためなら何もいりません。 お金なんて要りません。 どうか絵を世界で一番上手くしてください。 」納得するまで繰り返えしてある得心を得るとそうなった自分を思い描き眠りにつくのが習慣になっていた。 フミコは団扇(うちわ)で眠る子を扇いでいる。 彼女はまだ『ボク』の症状を気にとめてはいなかった。 この春に就学し環境の変化もあって、疲れが出たのだろう……位に考えていた。 一寸した癖だろう、子供によくあること……。 」 上がり框に張った虫よけの網に蛾がバタバタ音たてて集(たか)っている。 蛙もうるさく鳴いている。 ラジオの声が幽かに朗読をしている……。 「ホーイチ……! ホーイチ……! 芳一は何処じゃ!」 琵琶の音だけが大きく響いてきた。 フミコはぎくりとして月明かりの外をふり返った。 それからゆっくりと柱時計に目をやった……。 時計の針は8時を指して止まっていた。 彼『極私的魂』なる『ボク』は傍目(はため)には他の子供と変わりなく見えた。 フミコは世辞に「お宅のお子さんはお二人共良く御出来になって……うちなんかやんちゃばかりで云うこと利かなくって。 羨ましい……」と聞くと世辞と分かってはいても嬉しかった。 そして実際優秀でもあった。 その頃になると『ボク』を取り巻く環境も変わりつつあった。 台所にプロパンが入り子供部屋を建て増して玄関も付けられた。 何よりも大きな変化はテレビであろう。 家族夢中で観ていた。 しかし、前にも述べたように頭の中は違うのだ。 こういう月日にこそ時間に追われる生活があり心は千々に乱れて変動を来しているのである。 目から入ったものは鼻へと抜けねばならない。 でなければ脳髄に止まり悪さもすることになる……まぁこれは洒落としても、心に溜まった澱(おり)とは行く々くヒ素とも化して魂をも滅ぼすことになるやもしれぬ物なのである。 『ボク』は、おとなしくシャイな少年になっていた。 無口で独りを好んだがそのくせ人好きで一旦胸襟を開いてしまうと、とことん友誼を示そうとした。 ずっと一緒にいたくて別れを惜しんで泣いたこともしばしばあった。 可愛いと評判の子でもあった……。 しかし奇妙な感覚を押し殺すべくtic症は未だ続いている。 誰よりもその深刻さを理解しているのは本人で、立ち向かおうともするのだが何時も甘えが勝って流されてしまっていた。 マンガに求めるものも変わってきた。 以前のように自分の感覚を其処に見たり自分を投影したりするのではなく、自分の知らない、外なる感覚を求め出していた。 例えて言えば今までは前方から来るものを受け止めていただけだとすると、今度は後方にあるものと自分の関係を求めだしていたのだ。 好みも変わって以前より人間臭い生活感を感じる絵が好きになっていた。 しかも上手くなくてはいけなかった。 目は技術を見極めるまでになっていたのだ……。 マンガ誌は月刊誌から週刊誌の時代に移行していた。 世はマンガブームと言われテレビドラマなどもマンガ原作物が多く、TVアニメの放送も始まっていた。 貸本漫画は劇画と呼ばれ人気作家を盛んに大手出版社は引き抜いていた。 凄まじい数の描き手と本があり当時の親たちの眉を顰めさせる物も少なくなかったのである。 題材は事件、戦争、暴力、怪奇、忍者、青春、メロドラマと多岐に渡り、果ては大家描くところのSFロボットマンガから少女マンガまで、無い物は無いと言っていい。 そんななかにあっても彼『ボク』は的確に絵を見定めていた。 殆どの多くの描き手は作品の決め手はストーリーにあると思っているが、それは大間違いであって全ては絵にあるのだ。 線描からどれだけ人間性を感じさせ得るか、どれだけ多くの感触を描き出せ得るか、それだけなのだ。 ストーリーなど絵の下地に過ぎない。 彼はその意味で目利きであって彼の目に止まった描き手は皆売れっ子になった。 だが出版側は理解していなかった。 以後マンガ界は原作付きへと突き進む事になる……。 彼は未だマンガを描くことはなかった。 そりゃ、落書き程度のことはしていたが本格的にという意味である。 眼識ばかり肥えどんなに描こうとも見れた物じゃなかった。 絶望して彼は見ることに徹した。 そして見極める。 更には線を見切る。 その線の見切りが出来た時自然と絵が描けるようになると確信しているようであった。 が、終わりの一節は変わらない…… 「世界で一番絵が上手くなりますように……!」• 十二 此処は南海の孤島。 密林深く生い茂る原始の森。 オドロに伸びる奇怪な草木。 珍妙な花と騒々しい鳥獣の声。 『ボク』は頻繁に頭痛や発熱を起こした。 今日も学校を休んでいる……。 巌山(いわやま)に太古の洞窟がある。 そこは雨風を凌ぐにちょうど良い具合で奥は恰(あたか)もチベット僧の閨房(けいぼう)を思わせた。 中央には火まで焚かれてある……。 『ボク』は腹這いになって寝ている。 大きく息をして熱っぽい空想の息吹きを吸い込んでいる。 彼の閨房はドームになった布団のなかにあった……突っ伏した頬に熱い息がはね返り更に空想力は強まってゆく……。 焚き火に照らされて大きな影が洞内を揺れ動いている。 その袂には一人の少年が倒れていた。 突っ伏したその表情は陰になって定かではないが瀕死の状態であるのは明らかだ。 傷はあるようにない……さては熱病か? 少年は島の入江に不時着したパイロットだ……。 更に想像力の息吹きを吸う……。 飛行機はゼロ戦か紫電改か? それともグラマン、ファントム、スピットファイヤー、はたまたメッサーシュミットか? 複葉機も素敵だ……。 ともかく少年は浜に漂着して一命をとりとめたのだ。 噛み殺すように呻きながら起きあがろうとするが、力無く仰向けに倒れてしまう……。 少年はうなされながら闘っていた。 そんな姿をじっと見つめる者がある……。 それは道化猿を指して言うが実は人の子であり、生まれついたる異形の児であった。 それを見せ物師は猿と偽り芸をさせるのである……。 尚、どうしてそんな者がこの島に居るのか? などとは聞かないでほしい。 そんなことは空想者の興味外のことなのだから……引き続き彼の空想を追ってみよう……。 ケッカイは少年を浜辺で見つけ己の住みかに運んで看病していた。 熱に効く草を煎じ、水を飲ませ、不思議な果実を食べさせた……。 しかし少年は日に日に衰弱の度を深めて行く。 熱で膜のかかった眼をうっすらと開け、少年はケッカイを見やって云う……。 「ありがとう。 ボクはおまえに何にも出来ゃしないけれど、このマフラーをあげよう。 受け取っておくれ……」 ケッカイは少年のマフラーが好きだった。 真っ白で、つるつるで、風に舞うときなんか全く美しいとしか言いようが無い。 ケッカイは大きな眼をいっそう大きく見張り悦んだ。 「かわいそうに……おまえのような者が生き残り、ボクだけが天国に行くなんて……許しておくれね。 」 そう云うと真っ直ぐ上を向いて瞼を閉じた。 何か呟いているようだが聞き取れない。 「みずヲちょうだい……」 ケッカイは口うつしで少年に水を与えた……。 その唇は焼けた炭のようだった。 少年の胸が大きくひとつ息をついた。 もう苦しくは無い様子だ。 ケッカイはそれを見て歓んだ。 少年は火照もとれたおだやかな顔で死んだ……。 ケッカイは泣いた。 泣いて泣いて泣きわめいた。 そして呪った。 呪って呪って呪い続けた……それは……今も尚。 このように『極私的魂』たる『ボク』は独り空想に耽るのである。 死への嗜好は季節の好みにもよく現れているようだった。 彼は秋から冬を好んだ。 秋の憂愁と寂寥(せきりょう)と冬の白い世界が大好きだった。 一面の雪、そのなかでひっそりと眠りに就く……冬眠する熊をさえ羨んだものだ。 英国は御栖加嗚(オスカア) 隈瑠奴(ワイルド)が筆なる「王子とツバメ」が端的に物語る少年の心理でもある。 先の空想譚を読み違えられてはいけない。 いってみれば磔台上(たくだいじょう)のキリストと考えることも出来るのである。 では『ボク』なる彼は死に憧れていたのではないのか? と言われよう。 それは彼が自分自身の生き方を見いだし始めていたからに他ならない。 死の少年は究極のストイシズムであり、それは彼には無い。 彼にあるのはケッカイの怒りと呪いであったのだ……。 魂が現実との軋轢に引き裂かれれば裂かれるほど生命の殉教度は増す。 これは慰めかもしれない……。 いや、まだ未熟な精神の新陳代謝と考えた方がよいだろう。 生を受けることは本人にはいかんともし難いこと。 ままならぬ人の世で、しかもその人生が不和を感じるものであったとしたなら……それは悲劇といえる。 精神は何らかの対処をとらざる得ない。 大人に性生活があるように幼き者たちにも性生活はあるのだ。 その欲求は行動と嗜好に端的に現れそれぞれの人格、性質、を決定している。 『ボク』なる彼の場合もその少年らしい嗜好品の形象を借りて表出されているのは紛れもなく彼のフェティシズムとヒロイズムそのものではないのか……!? 肉体は炎に灼かれ死のエロティシズムへと浄化される。 こうみてみると彼の好む非業の死も、囚らわれの王子の苦しみも納得のゆくことに思われる。 (ただしストイシズムのおいての差はあるが……囚われや戒めは禁欲を現すのであり彼は禁欲的即ちストイックではないからだ。 ) 彼が既に性に目覚めていたことは明らかはである。 肉体は未だ眠ってはいるのだが、その精神に於いては性は芽吹き未成熟な肉体の中で身悶えているのが解る。 tic症がまさにそのことを実証しているではないか。 言いかえればticとは未開の自慰行為である。 彼はそれ程力強い生命力を授かっているのだ……。 早熟である。 『ボク』はこの半年というもの殆ど学校に行っていない。 三年生の五月に右足を複雑骨折したのだ。 遊びの上での事故であったが理由はともかく思わぬ大怪我となってしまった。 延べ三ヶ月の入院と二度の手術である。 三月という長さもさることながら経済的な負担は大きかった。 母におぶられて家に戻ったときには家の周りは丈高く雑草が生い繁って原生林を想わせた……。 フミコは仕事と看病で疲れ果てている。 少しあった貯えもこの入院で使い果たしてしまった。 タダオは我関せずで相変わらずである、フミコはそういう夫の冷淡さには目をつむって来たのだか今回はさすがにこたえた様子である。 我が子の入院中一度も見舞いにも来なかった。 フミコが病室に泊まることが多かったせいかタダオは家に余り帰って無い様子である。 それは家内を見れば判る、彼女は嘆息する……嫌な予感が立ち込めて周りの景色までもが白々しく思えてくるのだった。 つくづく孤独だと感じる……。 ああ……女だな、と感付いた。 タダオは冷淡といっても無関心なだけである。 「そんなこと俺は知らん。 おまえがやればいい。 」 お大名か殿様気取りなのである。 しかし何事にも口は出すことはなかった。 「嫌なら出て行け。 去る者は追わずだ。 」 これが決め台詞だった。 若い頃の伊達が未だに抜けず毎月背広を新調する習わしで休みともなれば趣味の釣りだのカメラだのと家に居ついた例がない。 釣りは釣りでも陸釣りも度々ではなかろうに……、さしずめ釣果は酒の肴の一匹二匹……。 驚くことにタダオはもてた。 若いころから苦労しらずのぼんぼん育ちが何処となく世離れを醸し出すのか……? そこが女にはよかったのだろう。 愚かにも物書きを気取ったり役者を真似たりした時期もあったらしい。 確かに映画は好きだったらしく『ボク』がある時テレビで観た映画のことを尋ねたことがあるが、その時は詳しく説明したりもしている。 外ではもっぱら独身を通していたのだから呆れたものだ……。 妻に先立たれ残された二人の子を男手ひとつで育てているという設定らしい、大根役者はつづける……。 「いや、時間はいいんだ。 女中が居るからね……いいんだよ。 さあ、もうひとつ……」 家では箸以外は何も動かさない男がマメに女の世話をしている。 何ともはやである……。 時は高度成長期に入っていた。 仕事は稼ぐ気になればいくらでもあり終身雇用のサラリーマンが謳歌する都会ではタダオのような男でも遊ぶ所に事欠かない時代だった。 ある時などは女の母親が事の真実を確かめに山奥の家までやって来たこともあるのだから、フミコとしては呆れてばかりもいられない訳だ……。 フミコはほとほと疲れ果てて何もかも放り出してしまいたい気分になる……。 彼女は年に一二度、鬱々としてどうにもならない時がある。 それはもっぱら春の木ノ芽時にやって来るのであった……。 今がその季節。 そう言う折彼女は『ボク』に何や彼や話して聞かせるのである……。 十四 ぎくしゃくした足どりで月日は過ぎて行く。 まるでタダオの歩く後ろ姿を見ているようだ……。 彼は右の足が悪くてぴんと伸びたっきりで曲げることが出来きない。 戦争での負傷と言うがこれも彼のシナリオ上のことだろう……。 今、家庭が直面している危機など考えもせず伊達を気取ってはいるが悦に入るのは己だけであった。 まさか問題の一端が自分にあるなどとは夢にも思わずに、極楽トンボよろしく後ろを振り返らずに飛んで行く……。 滑稽至極のドンファンよ。 暖かい春の宵。 『ボク』は病院を退院して以来登校嫌いとなっていた。 少年にとって三ヶ月の休校は余りにも長すぎた……彼の意識は完全に学業から切り離されてしまったのである。 我儘にもなって堪え性も無くなり治まりかけたticも又ぶり返して以前より激しく体をくねらせる……。 狐憑きだの祟りだのと護摩を焚く輩さえ現れる始末。 知人の薦めで癒やしをする神子様(みこさま)とやらにも遠路はるばる出掛けても行った……。 『ボク』は端(はな)っから疑っていたので盲目の眼が見えようと、萎えた足が立とうと、馬鹿馬鹿しいと侮辱しか感じなかった。 そしてとどのつまりは精神科であったが異常無しで無罪放免とあいなった次第である。 こうして『ボク』彼は図らずも母の苦悩に拍車をかけていた……。 治りかけた傷を掻くやうな悦びをもって。 山頂の風が心地よく遊び火照った頬に吹く……。 生駒山の山頂は遊園地となっていて麓(ふもと)の生駒駅からロープウェイでやって来る遊覧客で賑わっていた。 山腹の我が家からは歩いて二時間で来れた。 今日は『ボク』のためにとフミコ自身の気晴らしも兼ねて遊びに来ていた。 姉はいない、娘ユウコは父を好いていてタダオもまたユウコを好いていた。 ユウコは長女であるため何彼につけ理不尽さを感じて母に当たる。 「何時も弟ばかり……」不満を託ってはよく云いもしたのだった。 「父が可哀想……」 フミコは思い返して富山の幼い日と同じように家族が二つに割れしまったように思えた……。 母と子はなだらかな土手の芝生に座り擂り鉢状になった下にある野外ステージを観ている。 奥には遠く大阪のネオンが広がって光りだした。 百万ドルの夜景だ……当時こうゆう言い方が流行(はや)った。 既に陽は落ちて肌寒いフミコは『ボク』に自分のカーディガンを掛けてやり話すとも無く話し出した……。 「あんなぁ……ボク、ボクは知ってるやろ? オカアちゃんが薮から落ちたん。 覚えてるやろ?」 彼は覚えてはいたが知らなかった。 それは後で薮から転落したと聞かされたので彼はその話を信じただけであった。 その現場を見た訳では無いし母親の異変にも気付きもしなかった……。 変なこと云うなぁ……と思いながらも頷(うなず)いたがフミコはそれには関係なく話していた。 「酷いことなったんやで……ほんまはなぁボク、ボクに弟がいたんや……。 あん時オカアちゃんのお腹にやや子がいたんやで……」 フミコは誰にでもなく、自らに話すように続けた。 「落ちて流産してしもうたんや…… 」 なおも話し続けていたがた 『ボク』は聞いていなかった。 母にもたれ寝ていたのだ。 フミコは罪を悔いていた。 死んだ子の代わりに『ボク』に話したかったのだ。 聞いていようがいまいが、話すだけでいい……。 フミコ自身がそれで納得するために話し、自己弁護のためについた嘘を。 『ボク』に話すことで事実だと自分も信じれると思い、現実を嘘で飲み込み易くしようとしたのである。 そして殺した子も騙せるのではと思い……! しかしいくら信じようが嘘は嘘以外の何ものでも無い。 慰めにもなりはしない。 癒やす術は一つしかない……それは真実を言うことだ。 フミコの真実はこうである………。 彼女が腹の子に気付ずいた時には既に三月を過ぎていた。 今の所に越して来たばかりだし二人の子もまだまだ手が掛かる、何より働かねばならない。 夫など頼りになりはしないこれ以上の足手まといは御免だ……、彼女は堕胎を決意した。 正規の産婦人科ではよっぽどの理由がない限り当時は堕胎をしてくれなかった。 そこでもぐりの街医者か質(たち)の悪い産婆を頼るしか無いのである……そして彼女もそうした。 春の木ノ芽時であった……。 じとじとした梅雨の雨が降り止まない……事が終わってフミコは聞いた。 男の子だったと医者云う。 ろくに休みもせずに雨の中を歩いて二時間の道を帰る……。 当然体は疲労しきって足元も定かではない……やっとの思いで薮まで来たがその刹那……フミコは何かに気を取られたか? 誰かに呼ばれた気がしたか? 妙な格好で振り返った。 と、その途端もんどり打って転がり落ちたのである。 確かに落ちたのは事実だが……もし転落して流産したのだとすればその場合子供の性別を斟酌できるものだろうか? フミコには味方といえる者が居なかった。 彼女は自らを不幸の海に突き落とすようなことをしている。 その中心にタダオを置き不幸の渦を描いているに過ぎなかった。 二人の間には最早性交渉は無かったはずだ……これなる不幸の原因は他にあるのか……? 性生活の欠如。 フミコの異常性はそこにある……。 この堂々巡りから抜け出すにはタダオの圏内から飛び出すことしか方法が無いのは彼女も承知しているはずだがそれが出来ない。 彼女の執念深さが自虐的な悦びにまで偏執してしまっているためである。 抜け出す方法とは……? 他に男を見付ける方法がまず一つ。 そして今一つは……。 母と子は山道とはべつの参道を降りていた。 夜も更けてひっそりとしている……。 信貴山の参道口から山道へと曲がる頃に『ボク』は只ならぬ気配を母に感じたらしく何度も母の顔を覗き込んでいた。 「ねーっ、早く帰ろう!」 何度云ってもフミコは上の空だ……。 山道は暗く懐中電灯が無いと皆目歩けない。 不意にフミコは握っている『ボク』の手を勢いよく引き寄せて云った。 「ボク。 オカアちゃんと一緒に死んでくれるか!? 」 これが今一つの方法であった。 十五 暈(かさ)を被って月物凄く纏わりつく雲の奥に鎮座まします。 山の稜線は真っ黒に何処やら知れぬ彼の地から来たれる鬼火ちらほらりと見えにけり………。 藪から石垣沿いの細道を行ったり来たりする者がある。 姿は見えず気配のみ……ザクザクと聞こえる足音から察すると三人(みたり)、四人(よったり)、それ等はてんでに失せ物でも捜すようにて呼ばりぬ。 藪から小道へ藪下から池へと呼ばわりぬ。 田を越え庭先までも……呼ばわりぬ。 「何処だ!」 家の前をうろつき呼ばわりぬ。 「何処だ!」 もう家の中まで来た……、それ等は納戸の前で仁王立って大音声で……。 「ボクは! 何処だ!」 『彼』は納戸の中で息を潜めて隠れていた。 戸の下の隙間から立ち塞がる影が見える……。 「もうダメだ。 みつかる。 」 その時割れるような声が呼ばわった。 「ボ-ク! !」 突然彼は山道(やまみち)を歩いている事に気付く……。 よく知っている馴染みの道だ。 先ずは藪の入り口にある別れ道、真っ直ぐ道なりに行けば藪を抜けて家は直ぐそこ……。 この右手に伸びる別れ道は藪の道より更に狭く山の中へと続いている。 通り過ぎる度に嫌な気持ちのする場所だ……そう、彼は知っていた。 この道に入ってはいけないことを……。 知ってはいたが今彼はその別れ道を歩いているのだ。 草深いなかに道はいつしか消えて木々の間を抜けて又山道に出る。 そんなことを何度か繰り返して広々とした場所にやって来た……。 少し手間取ったが無事に厭な道を抜け出たことにホッとして辺りを見ると、どうやら見知りの場所のようにも思える。 山を削った道といい落ち込んだ谷といい確かによく知っている場所だ。 このまま行くと左手に大きな池があるはず……。 この山を割ったような所を下れば麓の村は直ぐだ。 でも……変だなぁ? まるで方角が違ってる……。 小さいが長い溜池が見えて来た。 この先の山沿いに巨木があり夏にはよく甲虫(かぶとむし)やクワガタを捕りに来る場所だ。 池には葦が茂り藻や水草でいっぱいでみっしりと繁殖した蓮葉などは歩いて渡れそうに思える。 そうだ、ここからそう遠くない所に大きな石がゴロゴロある川が黒塀の屋敷脇を流れてたっけ……真夏には気持ちのいい場所だ。 蝉の声が今にも聞こえてきそうだ……彼はうっとりと耳を傾ける……ツクツク法師に蜩(ひぐらし)に……彼は特に蜩が好きであった。 カナカナカナカ……その鳴き声を聴くと別の世界が開けるのを感じるのだ。 哀しくて幸福な別の世界が彼を呼んでいる気がする……。 カナカナカナナ……シクシクシ……ツクツク……。 こうして池の縁にたたずんでいると今にも飛び込みたくなる……そして或る記憶が浮かんで来たのだ……。 狭い石段を降りると丁度こんな池があり水面ぎりぎりに家が建っていたっけ……。 目の前の扉を開けると又階段がありそこを降りると狭く通路となっていて左手にドアがあった。 その部屋は池に面していて窓がひとつ大きく切ってある四畳半ぐらいの日本間だ……。 窓は硝子が形良い桟に嵌めてあり子供が立って頭が出るほどの高さに設(しつらえ)えてあった。 窓から顔を出すと池が目の前に迫り手を伸ばすと水面に届きそうなぐらいだ……いや、池ではなく河だったかも知れないと彼には思えて来た。 そう……それは河の記憶であった。 彼がまだ物心がつく前の話……。 家族が麓の尾瀬地区に住まっていた頃の話だ。 小学校に入ったばかりのユウコとよちよち歩きの彼をかかえていたがフミコは働きに出ることにした。 内職も考えたが大家の隠居がしつこく言い寄って来る事もあって出来るだけ家に居たくなかったのである。 最寄り駅を降りると目の前が幹線道路になっていて駅の付近の道路沿いには貧弱な商店が建ち並んでいた。 その裏に道路と並行して流れる河があった。 それが生駒川である……。 フミコは人付き合いも良く男勝りなところも好まれた。 馴染みの店もあった。 そんな中に老夫婦が営む一件の草履屋がありその老婦人によく『ボク』を預けていたのである。 店舗の奥にある狭い階段……記憶では下に降りる石段となる……が二階に続いている。 商品の足袋(たび)や草履(ぞうり)に寝具類が箱で或いはビニールにくるまれて所狭しと置かれてある。 二階の一室は日本間で窓が一つ、窓をあけるとそこには生駒川が流れていた……。 老婦人に抱かれ彼はよく川を見たものだった……。 ゆったりと流れたり、走ったり、時には溢れんばかりに暴れたり、流されてくるゴミも面白い……『ボク』は飽かずにいつまでも河を見ていたのだ。 意識の底に葬られた記憶は奪い盗られた現実を取り戻すかのように実存たる当事者に襲いかかるのである……。 彼『ボク』はまたもや鬱蒼たる山林の小径を歩いて行く……。 山には難所というものがある……。 全て厭な怖ろしい所だ……。 今日は上手く通り過ぎることが出来た……この次は行ってしまうだろう……と彼は思いながら前を見て愕然とした! 今いる所は、辿り着いてしまったのは、彼がもっとも避けたかった所に他ならなかった……! 彼の目の前には大きな黒々とした門が立ち塞がっている。 城門は厳めしく辺りを一掃し陽の輝きも風のそよぎも此の中には届かないだろう。 城内に膨れ上がった妖気がただならず漂って来ては彼の目と鼻から入り込む……。 辺りは音を失っしてしまった……。 開いた扉の内側だけを残して外の世界は死んでしまいでもしたかのよう……。 もう後戻りは赦されない……。 しかし何が赦さない……? 宿命や運命などとは言い難いが、選択の余地の許さない何かが彼の背を押す。 決して強引では無いのだが繰り返し寄せる波が何時しか岸部を削りとってしまうのと同じく、厚かましく確実にその者を窮地に追いやって行くのと同じ……何かだ。 「行くしか無い。 」 彼はのみこまれるように入って行った………。 玉石といい敷石といい寺か神社の境内を思わせる庭の突き当たりにその本殿はあった。 華美な装飾は色褪せ朽ちて入り口は歯の無い口そのもので苔や埃や蜘蛛の巣を障気の息で揺らしている……。 彼は目を瞑り息をのむ……目と鼻から入ったモノが頭の中で疼きだす。 耳鳴りはしだいに意味を持ちだして彼をせき立てる言葉となる……。 行け! おまえは此処を通り抜けねばならん! 中は何処から射すのか意外なほどの明るさで空気の粒子が砂塵のように霞をかけていた。 彼が一歩足を踏み入れると無数の蠅が舞い上がった……。 音無き羽音が顔を打ちブチブチと足の下で何かが潰れた。 はたと彼は夢から覚めたように辺りを見て凍り付いてしまった。 全身に戦慄が走る、其処は帆柱のような円柱が遠く近く幾本も突き立ち天井も壁も無いその床一面に犇(ひし)めく人間の一群を見たからである……。 蠢(うごめ)く集団はびっしりと詰め込まれ、折り重なり、上になり下になりして波打っているのだった。 寝たきりの者はほとんど虫の息で、喘いでいる様は皆阿片中毒者のようである。 そして何よりも奇異なのは……しかし彼にはさして恐ろしくは思われなかったことも奇異であったが……、全ての者が虫のような姿であることだった。 腕が無い者、脚が無い者、そのどちらも無い者、それ等が血痕で干からびた包帯にぐるぐる巻きにされた怖ろしい姿でのたくりながら彼に絡み付いて来るのだから堪らない! 八方から蠅が顔を打つ、死人も息ある者も皆半ば腐って蛆に喰われていた。 蠅が囁きかける……オイ小僧! どうした? 恐いか? サア行け! どうした? おまえも此処に残るのか? サア行け行け! 彼もさすがに間近に迫る死人たちには怖気付いて前へ々へと進んでいった。 しがみついて来る者を振り払い横たわる骸(むくろ)を飛び越えて彼は出口に向かった。 やっと恐ろしい集団から抜け出した時背後で呻吟(うめき)とも笑いともつかぬ叫びが起こると同時にも物凄い死臭が吹いて来た。 頭は忽ち痺れて脚が萎える! くらくらする頭のなかで三度(みたび)聞こえる声が云った……。 出口は其処だ……。 音声は映像を伴い目前に広がった。 彼は出た。 出たというより放り出されたと言っていい。 同時に亡者共の怒号は『ボク』の口から一匹の銀蠅となって飛んで出たた! 彼は本殿の裏塀の外にいた……。 陽は西に傾いて影を斜めに投げていた。 裏塀は森に面していて一本のどぶ川がそれを隔てていた。 彼は狭いどぶ川に落ち込んでる土手を進んだ……たしか、此処は知っている、と思えて来る……この少し先右手に板を渡した所があり川を渡れる筈だ……。 其処を渡って木立を抜ければ公園があったっけ……。 鉄棒と砂場がある小さなオアシスのような公園。 彼処まで行かなきゃ……。 はたしてその通りであった。 木立は西日を受けて輝いていた。 彼は放心したようにブランコに座ったまま微動だにしない。 迫り来る夜の闇を背中に感じて動けなくしまった……。 陽だまりは最後の日射しに震えていた……。 「後ろを見たらダメだ。 振り返ったらおしまいだ!」 晩照はひとつ震えて日没となった。 真黒な夜が来た……。 十六 背後から何者かが羽交締めた! 彼はキャッと叫んで振り返える。 母だった……。 彼は反射的に笑った。 フミコはこの笑顔を愛していた。 何物にも代え難い此こそ100万ドルの笑顔だと思って、我ながら陳腐な比喩に彼女は大きく笑った。 玉は幅10ミリ長さ700ミリ程の襷(たすき)状の紐でそこに丸い小さな火薬が連なって付けてあるものだ。 それが100本で一束を成していて赤、黄、緑の三種類あった。 フミコは毎日平均1000個から5000個の玉を巻いた。 10個巻いて7円であった。 朝夕刊を配り終えた後、空いた時間に寝る間も惜しんで巻くのである。 玉を巻くにはちょっとした機械を使うのだ。 それは旧式のミシンを改造した物で、足踏み部分を取り除きベルトのついたハンドル部分にボルトを付け加えてその先端には溝が彫られてある。 その溝に百連発の襷の先を挟み込みハンドルを勢いよく回すと、クルクルと巻き上がるという寸法だ。 後はこうして丸く巻き上げた先をヤマトのりで留めて出来上がりとなる。 簡単な仕事であったが単純な作業の繰り返しであるがゆえ自然と余計な事も考えてしまう……。 言わずと知れた子供たちの事である。 特に下の『ボク』のこと……。 彼女は考えまいと決めた。 フミコは彼に対してうるさく言わなくなった。 あの夜の後悔もあり反省もあったからか。 いわゆる放任主義を採ったのである。 フミコ自身のやり方はこの子には無理と諦めたようでもあった。 もう本人に託すより他は無い……と。 あの夜、山上での心中未遂は彼女に大きな負い目となってしまっていた。 自責の念からくる謝罪のつもりなのか? 考えを変えたのはわかるがかなり甘くなっていた。 彼女の考えはこうだった……。 此の子は好きにすればいい。 好きに生きればそれでいい。 只人様に迷惑だけ掛けなければそれで善しとしよう。 万が一にもそんな事になったら私が始末すればいい事……。 彼女は相変わらず被害者であり、耐えに耐え忍びに忍びぬいた自分だからこそ権利があると考えているのだ。 それが腹の足しにもならない親のエゴのためだと良いとゆうのか? フミコはどうしてこんなになってしまったのか……? 彼女は自分でもよく自問自答してみることがある。 しかしどう考えても自分が悪いとは思えないのである。 たまさか非があったにせよそれ以上に周りの者の非は大きく思えるのだ。 フミコは問う……。 だからと言って他人に悪を為さず恨みもしなかった善良潔白な少女が……。 尋常小学校の四学年にして紡績工場に売られた少女が……。 給金三年分を母親は先払いで貰っていた……これを人身売買と言わないか……? 体が変化しても生理の綿一つ買えない生活……それでも泣かなかった少女が……。 職工長の助けで金沢へ逃れた少女が人の情けに涙しなかっただろうか……? 働きながら通信で勉学し大学まで行こうとした少女が……これを努力とは言えないか……? 辛酸を舐めた生活に在っても他人の物を盗っただろうか……? 寧ろ人に与えた少女が……。 初めて出逢った男に恋をしたとて……騙された馬鹿な女といえるだろうか……? 百歩譲ってもこんな少女の何処に非があったと言うのか……? 彼女のように努力しても不幸な境涯から抜け出せない者がいてかたやタダオのように喩え親兄弟であっても一考だにせず己の享楽のみ求める者もいる……。 まるでフミコはタダオの世話をするために生まれたと言うのか……? フミコは答えが判らない……。 時計の歯車はその体を噛まれ続けるが、針は悠然と努力も無しに回ってる……機械はこれで良いだろうが人はどうか……? このような時計の構図は人の世も変わらないし社会構造の崩し難い真実として替へやうとはしない。 のみならず複雑巧妙な組織を誇ってもいる……。 苦しむ者は何時までも苦しむ、人は我知らず悪に加担し自覚の無いまま生活している……。 それは生命を貶(おとし)めることでしかない事を理解しない。 その証拠に命の重さは地球の重さなどと平然と言う。 ……ようく聴くがいい、地球にとって人の命など何の意味もないのだ。 またこうも言う、命はそれだけで価値がある。 ……言わせてもらえば命とは何を成すかで生きるのだ。 只々生きてるだけなら犬や猫と同じだ。 いや、それより悪い! それ以下だ! 何故かと言えば彼らはそれだけで愛くるしいからである。 人は彼等程には可愛くも美しくも無いのだよ! ならば幼子や赤ん坊はどうだ? 彼の者たちはまだ何も成してはないぞ、と仰るだろう。 ……否、彼等こそ可能性の固まりであって為すべき全てを秘めて大人共にしめす生命……正に魂の顕化なのだ。 故に彼等は見る者全ての心に適う笑顔を持っているのだ。 話は大分反れてしまったが今一つ付け加えさせて頂いて話を本筋に戻したいと思う。 それは生きるべき魂が多く死に、死んでいるような魂とも呼べない命が生きている現実である。 我々人間はその生きるべき魂の死を減らし、如何にして死んだような命を生きた魂にするか……? それが我々人類に課せられた仕事なのであると言うことだ!• 十七 贖いの血は此の国に流れなかったのか……? 玄関先が猫の額ほどの庭でそこに外便所がある。 便所は瓦屋根で壁は漆喰で出来ていて下に付いた鍋蓋式の汲み出し口から肥を掻い出すようになっていた。 彼『ボク』は便所わきの畑側にある低く這った松の枝に馬乗りに座っている。 さっきの母親に抱きしめられた感触が生々しく背に残って不快だった……。 振り返り其処に見たのは確かに母の顔だ……しかし奇妙なことに初めて見る知らない顔のようでもあった。 初めて母の顔を見たような……母に似た人のような。 彼はその顔を醜いと感じた。 冬の夕暮れは早い。 今日は週末、土曜・日曜は夕刊が休みで今母は夕食の支度をしている。 彼は食べることには全く興味を示さなかった……あれが食べたいこれが食べたいと一度も言ったことが無い。 おねだりはもっぱらマンガ本とプラモデルに限られていた。 それも近頃では時折週末に自分で麓の駅まで下りて行き電車で買いに行くようになっていた。 お小遣いを貰った後の土曜日は特に楽しみとなっていた。 一挙に世界は広がり感覚も鋭くなったようだ。 しかし母はそんなことにかまわず赤ちゃんにするように撫でたり頬ずったりするのだ。 彼にはそれが堪らなく嫌だった。 肉体的言動、それが男性的であれ女性的であれ好きではなかった。 彼が性的に奥手なだけなのか? はたしてそれだけなのだろうか……? 未だ肉体の意味を解さない少年達にとって僅かな接触、手を握るだの息がかかるだの、であっても或る種の恐怖心を呼び起こすものである。 反面に憧れる気持ちがあったにしても……。 これには異性同性の区別は無い。 TVや映画で肉体的接触は目にしていてもそれは視覚体験であり知識上に止まって体にまでは及ばないが、実際の接触になるとリアル体験として頭を飛び越え直接体に訴えかけるからである。 頭と体がまだ繋がってない……この官能無きエロス、これを少年期という。 あらゆる体験や印象は脳髄の無意識層に蓄えられ必要に応じて精神を刺激するが、肉体は精神にくらべ対応が限られている。 それは器官の働きと成長にのみ限られていて精神の影響力が肉体に及んだ場合は往々にして障害や不調として表面化するのである。 肥満や拒食は分かりやすい障例と言えるだろう。 肉体において血管とは印象などといった抽象的なものは運ばないのは理の当然で、そんなものは成長の妨げにしかならず、肉体は返って精神の働きを抑圧し抹殺しようとする対立関係にある。 そして印象や感覚がその血を凍らせ血管を締め上げもする。 こうしてみると障害のある、或いは不具合を持った者は、健やかに成長或いは育っている者より複雑で豊かであると言え、更には美しいとさえ思えて来るのはおかしな事だろうか……? 彼は母親が哀れであった。 嫌いでは無いが憎くかった……。 年の瀬を迎える山の景色はみじめに思え彼が思い描くものとはかけ離れた世界だった……。 彼は建て増した玄関の引き戸を開けて家の中に入ろうとした……。 玄関脇に犬小屋が有り便所の横から石垣沿いにみすぼらしく汚い畑が三畝ばかり家の裏につづいている……。 彼は何かの気配を感じて振り返った。 と同時にピシャリと戸が閉まった。 便所わきの細くて狭い畑地は日当たりが悪く枯れ草や塵が肥を被って腐りはてていた。 家の裏となると全く日は当たらず。 石垣が迫り人一人歩くのがやっとの狭さで石は苔だらけでぬらぬらと湿っていて牢獄も斯やと思えてくる。 この腐ったモノ等に取り巻かれてどのような夢を結べと言うのか……。 忌まわしき寝床よ、糸繰り出してぶら下がる夜の蜘蛛。 さながらにフミコの玉を巻く音がカラカラと聞こえてくる……。 今月は年末に向かって稼ぎ時だ。 初詣や三賀日で出店は大賑わいになる。 子供騙しのオモチャの類は需要が多くなる。 フミコは指先を赤や緑に染めて玉を巻きつづけた……。 タダオはこの時期は帰って来たり帰らなかったり……、やれ会社の運動会だの旅行だのと言っては家を空ける事が度々であった……。 それに世はクリスマス週間でもある。 街は何処も彼処も浮かれ騒ぎ着飾った母親とプレゼントを抱えた子供たち。 父親はと言えば……あぁ何たること……尖り帽子にちょび髭付けた鼻メガネとは……、殆どの人達は誰が吹くのか笛の音に踊っていた。 姉は中学生になっていた。 そのユウコも眠っている……。 彼、『ボク』は布団の中のユートピアにいるのであろうか……? どんな理想郷がこれほど彼を捕らえて放さないのか……? 今夜も枕元に漫画本が置かれてある……しかし前のようには空想劇はしなくなった。 ただ執念く祈るだけ。 絵が上手くなりますように……。 世界で一番絵が上手くなりますように……。 そして何時もと同じように最後は……死んでもいい! 繰り返し繰り返し自分の得心がゆくまで祈るだけであった。 空想劇は彼の中から飛び出して彼の周りに生息しているようだった。 なにも頭をひねって考えなくとも空想は彼方から来るものとなっていた。 それも彼の想像を超えたモノがやって来るのだ……。 玉を巻く音が遠退いて行く…… ほんとうか……? ほんとに死んでも……。 ほんとーにいいのか……? 彼はその声に驚き眼をあけた……。 見ると目の前に一匹の蜘蛛が天井の暗闇からぶら下がっていた……。 声は此の蜘蛛が喋っていたのだった……!• 十八 其奴(そいつ)は八つの目で『ボク』を睨んでいた……。 黒く光る玉(ぎょく)のような単眼が四つづつ二列、下に小さく上に大きく並んでいる。 其奴が一段と迫って来たとき『ボク』は反射的に身を反らした。 その瞬間だ……ふっと体が宙に浮いた。 外は巨大な月が皓々と照り輝いている……。 『ボク』と蜘蛛は荒屋の裏にいた。 そこは枯れた井戸のあるポンプがありゴミ焼き場でもある。 目の前には棚田が広がっていた。 其処からは麓まで見下ろすことが出来小さくマッチ箱のような電車が走るのも見ることが出来た……そんな場所だった。 枯れ井戸のポンプにぶら下がるように身を凭(も)たせている……其奴は蜘蛛の爺様だった。 作務衣(さむえ)姿で股引(パッチ)まで履き込みそれも袖に二本づつ前脚を通して後ろ脚も同じく二本づつ通すと言う出立(いでた)ちで。 しかし顔は蜘蛛のまま八つの目玉を光らせているのだから恐ろしいと言うより珍妙さが先にたち滑稽であり且つ可愛くもあった。 蜘蛛爺は思いもかけず『ボク』の失笑をかったのを口惜しく思ったものか 「小童!」 と憎々しげに吐き捨ててから…… 「良いんじゃな?」 蜘蛛爺は念を押すように云った。 「ワシは知っとる……ようく知っとるぞ。 」 蜘蛛爺はつづける……。 「おまえは良い子じゃ。 じゃから聞くんじゃぞ……。 毎夜毎夜、おまえは云っとるのう……ありゃなんじゃ? 本当に何も要らんのか? 本当に死んでもいいんか?」 更につづけて…… 「ワシャもう耳にタコが出来るおるぞ……。 おまえは知らんじゃろうがな? 此処のもんは皆知っとるぞ。 ワシ等はずっと此処に棲んでおる。 月光に照り映える世界は異次元の別世界……。 『ボク』は蜘蛛爺がこっちへ来いと手招きするままに爺の側に引き寄せられた……。 蜘蛛爺の言わんとするのはこうであった。 [爺は此の地に棲む沢山のいわゆる妖精の一人であるらしい。 そんな爺が『ボク』の祈りに呼び寄せられて出て来たとゆうのだ……。 地霊とゆうのは一度そんな声を聞いてしまったらその声に応えずにはいられない性分なのだそうで、そもそもその声が地霊を生むとも言えるのだと。 しかし人は愚かで霊たちの働きかけを理解出来ないのだ……]と云うのだ。 蜘蛛爺の側で改めて辺りを見てみると家の裏は広々として井戸のポンプも牧場のサイロのように大きく見える。 周りの物は皆巨大になり石垣は岩山となり狭い土手は草原のようだ。 家の裏は岩石と朽ち木が折り重なる山道になっているではないか……! 『ボク』は自分が小さく縮んだことに気付き震え上がった。 蜘蛛爺は『ボク』の驚きを見て取って満足そうに顎を動かした……。 「ワシは知っておる。 なーんもかも知っておる。 おまえの事はみな見て知っておる。 ワシの眼に見えぬモノは何にも無いじゃてな! おまえが忘れようともワシ等は覚えとるぞ。 ほーれ、この眼を覗いてみい……」 黒い月が爺の頭に輝いていた……。 ……ゼウスの水鏡は運命を映し出しす……オリンポスの神託。 天鵞絨(びろうど)なるイシスの膝に微睡(まどろ)む瑪瑙(メノオ)の夜に……。 少年、黒き月覗(のぞ)きたれば八人の我が姿其処に見たり。 其は蜘蛛の眼八つが為也。 其は少年の運命也……。

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明日 を 描こ うと もがき ながら ドラマ

ユニ 「学費もあるし、お金が必要なの。 黙ってて」 ポンギュン 「変わったな」 ユニ 「前の私は、父親と一緒に死んだの。 あんなボロ屋とはおさらばして、母さんに掃除の仕事をさせない」 ポンギュン 「止めても聞かないし、殴ることも出来ない。 どうすりゃいい」 ポンギュンは、ユニを心配する。 ポンギュン 「車なんて要るか? 社長の金は借金だぞ。 いつの間にか利子が膨れて、借金地獄になる。 んでもって、ポンギュンは、ユニの言うとおりにお金を渡すんだけど、グァヌは速攻あやしがるなんて鋭い! さすが長男!? チェウォン 「例の社長だけど、自殺した人…。 ウチは悪くないよね? 家族をおいて自殺するなんて、死をもって何かを訴えたかったんじゃ? うちは本当に悪くないのね?」 ウンソク 「悪くないよ。 心配するな。 工場の買収は何度もしてきたから」 チェウォンは、今のグァヌの境遇にかなり心を痛めてるんだと思う…。 ユニは、会社の実際の権力者がミンソクだと知り、訪ねていく。 ユニ 「用件だけお話します。 働かせてください、インターンとして。 母は、父を殺したのは社長と理事だと思ってます。 死んでも復讐すると言ってます。 同情は要りません。 ジーンズには自信があります、誰にも負けない自信が」 ウンソク 「なぜハンガンに?」 ユニ 「勝ちたいからです。 会社を乗っ取りたいからです」 ユニも、グァヌとベクトルが違うけども、がむしゃらに突っ走る人なのね。 元の生活に戻るためなら、どんなことでもするって気合が怖い~。 グァヌがチャンビに殴られたことを知らないチェウォンは、グァヌのケガが気になり心配するチェウォン。 東大門で深夜バイトを始めたことをソヨンから聞いたチェウォンは、様子を見に行く。 グァヌはきつい力仕事にもめげずに働く姿を見るチェウォンだったが、携帯にチャンビが捕まった連絡が入る。 チェウォンは「一緒に来て」と、グァヌを連れ警察に向う。 チェウォン 「まだ高校生です。 どうかご配慮を」 警察官 「窃盗に器物破損、タクシーを襲った件も和解は難しそうです。 窃盗も手配されてましたし、少年院でしょう」 力を落とし、うなだれるグァヌ。 「おい、何てザマだよ。 どうしてだ? どうしてだよ」 グァヌ 「こんな時間だし、帰っていいですよ。 僕は大丈夫です」 チェウォン 「大丈夫じゃないよ。 送るよ。 家に帰るのを見ないと安心して眠れないよ」 グァヌ 「帰りません。 こんな顔、見せられないし、普段みたいに笑えない。 母さん、僕がケガした事だって知らないんですよ」 チェウォン 「消毒、まだよね? 膿んだら大変よ。 顔を見せて」 グァヌ 「いつ、こんな…」 チェウォン 「いいから顔を見せて。 誰にやられたの?しみるでしょ」 グァヌ 「愛してます。 最近、辛い事が多くて、人も嫌で世の中も嫌でした。 ソウルも嫌で…。 先生に再会できなかったら、僕もどうなっていたか…。 先生のおかげで、また人が好きになれました。 辛くてもがんばろうと思います。 鎮海くらい、ソウルが好きになれそうです。 ベンチで夜を明かした、グァヌとチェウォンだったが、偶然通りかかった学級委員とその母に見かけられてしまう。 「最近の子ったら、恥ずかしげもなく…。 迷える子羊たちをお許しください。 見るんじゃないの。 行くわよ。 あんたは、あんな事しないでよ。 それを嬉しそうに食べるグァヌ。 心はグァヌを向いていても、頭(常識…ってか、世の中の社会通念ってゆーか)で歯止めをかけようとするところが切ない…。 チェウォン 「車ほしいな。 1時間走らせば、こんな景色が見られる」 ウンソク 「俺が買ってやるよ」 チェウォン 「すぐ、そんなことを言う。 何でウンソクさんが?」 ウンソク 「俺の女だから。 お前の指輪、いつ取りにくる? まだなのか? 思ったより強敵だな。 チェウォン、来ちゃえよ。 心の整理がついてなくてもいい。 俺は平気だ。 いや、俺のところに来れば、きれいに忘れさせてやる。 きれいにな」 げっ。 チェウォン、辛いからってウンソクに逃げないでよ~。 「もう恥ずかしいわ」 そして、グァヌも保健室にやってくる。 保険医 「どこが痛むの?」 グァヌ 「胸です。 心臓がドキドキして息が吸えない時も。 眠れず、食欲もないです。 本を開いても、ある人の顔が浮かぶんです。 不治の病ですよね。 保険医 「サボりたいんでしょ? 5分で帰りなよ」 グァヌ 「会いたかったです。 1ヶ月間、ずっと考えてました。 制服を着ても、気持ちは変わりません。 グァヌ 「眠れなくて、顔を見にきたんです。 さっきは知らなくて…」 チェウォンさん、先生のせいで頭が割れそうです。 心臓が、今にでも破裂しそうなんです。 僕の事、好きでしょう?」 チェウォン 「違う」 グァヌ 「好きだった」 チェウォン 「違う」 グァヌ 「僕が好きなんです。 本当に大好きなんです。 分かりますよね。 歳は関係ないですよ。 20歳はよくて、19歳はダメなんて変だ」 チェウォン 「歳じゃないの。 先生と生徒だからよ。 あってはならない事なの」 グァヌ 「どうしてですか。 僕が結婚を迫りました? 好きだという気持ちを持つ事さえもダメなんですか。 バカみたいに怖がらないで。 鼻につばつけて猫の鳴き声をすると、しびれが治る!?って、おまじないがあるの!? 欠席しているチャンビの住所を調べたチェウォンは、グァヌの一家が借金取りに追われ、風呂敷ひとつで逃げてきたことを知る。 グァヌの家を家庭訪問したチェウォンは、暮らしぶりに愕然とし、心を痛める。 一方、グァヌは番長から、サシで勝負を挑まれるが、そこに現れたチャンビに驚く。 グァヌ 「お前、コイツらとつるんでるのか? お前、こんな事するために家出したのか。 いつからなんだ。 言えよ、言って見ろ。 哀れな父さんの事、考えろよ。 まともになれ」 ガンジュに、グァヌをボコボコにしたらバイクをやると言われたチャンビは、グァヌの口から父親のことが出たのが引き金になり、グァヌを殴るはじめる。 チャンビ 「家には帰らねえ。 もう探すな。 ナゼ? ユニは大学で、掃除婦として働いている母を見てしまい、飛び出していってしまう。 そして、ミンソクにばったり出会う。 ウンソクは、 「チェさん、お父さんの事は」と話しかけるが、ユニは、 「すみません、失礼します」と走り去る。 グァヌ 「男らしく、とにかく男らしく。 ここで負けたら、本当に先生と生徒だ。 俺の男らしさを見せてやる。 ああ、びっくり。 グァヌが番長のタバコを没収したところを、教師にみつかる。 教師に聞かれて、自分のタバコだと頷いたグァヌは廊下に立たされる。 そこにチェウォンが通りかかる。 チェウォン 「転校初日から罰? 一応恥ずかしいんだ。 まっすぐ立ちなさい。 あんた、タバコまで吸うの? だって、チェ・グァヌさんだもんね。 悪い事ばかりして。 グァヌ 「いつまで僕を避けるんですか」 チェウォン 「避けてないわよ。 ついでに言っとくけど、お願いであり命令よ。 明日から私に話しかけないで。 正直、気まずいじゃない。 私、あんたが嫌いなの。 すごく不快な気分よ。 勘違いしないで。 私達は先生と生徒なの。 学生らしくしなさい」 キツイことを言ったことを、後悔するチェウォン。 チェウォン 「やっぱり、私、ひどすぎたみたい」 ミンジュ 「また、あのサギ師の話? もう忘れなよ。 心の整理ついたんでしょ」 チェウォン 「あの子、自殺した社長の息子よ」 ミンジュ 「あの社長? 本当なの?」 チェウォン 「心配してたけど、明るく振舞ってる」 ミンジュ 「運命のイタズラね。 お堅いあんたを、1日でオマヌケにした男が、生徒として現れ、その上、あの社長の息子…イタズラじゃなくて、運命の陰謀ね」 チェウォン 「縁がなかったのよ。 でも、生徒として現れるなんて…妙な気分よ」 グァヌの母は、夫の隠し子コンミョンを、置き去りにしてくる。 「捨ててきたわ。 あの子、嫌いなの。 一緒には住めないわ。 一緒にいたら、どちらかが狂うわ。 だから捨てたの。 せいせいした。 楽になった」 探しにいくグァヌ。 警察に迷子が出ており、迎えに行くのだが、保護されていたところは、グァヌのクラスの学級委員の家だった。 クラスで一線をひいている?寡黙な?観察力がありそな?、この美少女系学級委員がナゾな存在のような気がするんですけども~。 タバコのときも、迷子のときも、グァヌを見たことがない人種をみるよな?不思議そな目で見ているカンジ? グァヌ 「チャンビ、学校から消えた。 姉さんもか?」 ユニ 「落ち着いたら戻ってくる。 ごめんね」 グァヌ 「一緒に暮らして、一緒に打ち勝とうよ。 家族だろ。 父さんもいないし。 見知らぬソウルだぜ、肩を寄せ合おうよ。 バラバラじゃダメだよ」 ユニ 「このまま一緒にいると、憎しみに変わりそうで怖いのよ。 息が詰まりそうなの。 母さんも、あんたにチャンビにこの子まで許せないのよ。 この子を見るたびに、父さんを憎悪してる。 このままだと、私、ひどい人間になりそうなの。 この子も私も傷つくだろうし。 学校辞めるって話は撤回だよね? 私ががんばるから、勉強続けて」 ユニ、なんかお水な世界に走りそうなカンジだよ~。 大学で、お金になること、耳にしてたから。 グァヌに、"私ががんばるから勉強続けて"っていうあたりはホロリとくるけども…。 ユニは、ポンギュンを尋ねていく。 ポンギュン 「そのかばんは?」 ユニ 「一緒に暮らすわ。 私の事、好きでしょ。 いいじゃない」 ウンソク 「なぜ、あんな事を。 入社してから、5時間以上寝てません。 IMF不況の時も西洋に服を売り、新ブランドは、最高に売れています」 ウンソク父 「誇りに思うよ」 ウンソク 「ハンガンに人生をかけています」 ウンソク父 「社長の話ならやめろ。 創業者の遺言だったんだ」 ウンソク 「死人の言葉が、息子の将来より大切ですか」 ウンソク父 「未来は譲られるのでなく、創り出すんだ」 そーゆコトだったんだ。 やっぱり、ミンソクは、社長の座に就きたいんですねぇ。 野心家ってカンジだもんねぇ。 チェウォンの授業のはじめの恒例の"今日の一言"に、 「僕も言います」というグァヌ。 チェウォン 「今日の一言は、毎日ひとりずつなの。 次にして」 グァヌ 「今日、やりたいんです」 チェウォン 「じゃあ、いいよ」 グァヌ 「愛に国境はない。 そして、グァヌの母宛に手紙を持たされていた。 ユニ 「信じられない。 隠し子だなんて。 こんな事、許されないわよ」 はい? 会社の乗っ取り、社長の自殺…で終わらなくて、隠し子の存在まで!? ゜o゜ いや、びっくりした。 ホント!?とも思ったんだけど、その男の子の名前はコンミョン(孔明)というらしく、グァヌは関羽、グァヌの弟チャンビは張飛とくれば、やっぱり兄弟だよねぇ。 ポンギュンに、ソウルに夜逃げするためにトラックの手配を頼んでいた。 グァヌ母 「予定通りに引っ越すわ。 こんな家にはいたくないの。 出て行くわ、こんな家。 嫌なのよ、この家も鎮海(シネ)もすべて」 グァヌの母は、福祉施設に預けようとする。 グァヌ 「まだ小さいんだ。 こいつだって捨てられたんだ。 可哀想だろ。 ユニ 「こんな生活、狂いそうよ。 こんなドブみたいな家、まるで難民収容所よ」 グァヌ 「近所のボロ家には、4人も5人も暮らしてる。 俺たちもできる」 「眠れない?」と母を気遣うグァヌ。 声も好きだわ~。 続きが楽しみだわあ~。 ユビン 「何なの? 降りて。 私が先よ」 ゴニ 「ケンカするヒマはない。 早く出発してくれ、ゴー」 新得についたゴニとユビン。 ゴニは財布を忘れたコトに気づく。 ゴニ 「俺は1銭もないんだ。 なのに道端に捨てる気か?」 刺身を食べに行こうというゴニを、ユビンはラーメン屋に連れて行く。 ゴニ 「こんな低俗なもの、食えるか」 ユビン 「自分が低俗のくせに、よく言うわ」 はい? ゴニ様は、ラーメンはお召し上がりにならない ゜o゜ ? ラーメン屋さんはロッキーというみたい。 すんごくおいしそう~っ。 みそラーメンが食べたくなっちゃったよ。 ゴニは 「写真を撮るのが旅行じゃない」と、ユビンを連れて、犬ぞりの説明を受ける。 ゴニ 「日本語できない? なのに、日本人のフリしたのか? あきれた。 じゃあ何も知らずに、俺を部屋に入れたのか?」 ユビン 「友達は何て言ってた?」 ゴニ 「もういい、早く乗れよ」 犬ぞり、チョビ(by動物のお医者さん)がいっぱい! 日本語の説明がわからないなかったゴニとユビンは、途中で、ブレーキをかけられず犬ぞりから転げ落ちてしまう。 ゴニの友人のジノが迎えに来るのを待つゴニとユビン。 ゴニ 「おい、正直に言ってくれ。 俺、イマイチだった? 言えよ。 そんなこと、初めて言われたんだ」 ユビン 「あなたは完全に酔ってて、部屋に入るなりダウンしたわ」 ゴニ 「本当なのか? なんでウソついたんだ?」 ユビン 「懲らしめたくて」 ゴニ 「ひどい奴だな、クソ」 温泉で温まっていたユビンに、となりの男湯からゴニとジノの会話が聞こえてくる。 ジノ 「アサコに気をつけろ」 ゴニ 「なんで?」 ジノ 「意図的に近づいたんだと思う」 ゴニ 「俺が相乗りしたんだ」 ジノ 「待ち伏せしてたのかも」 ゴニ 「お前、調子に乗るな」 ジノ 「日本人だとウソをついてたくらいだからな。 金を投げつけたのも芝居だろう」 ゴニ 「俺が女に踊らされると思うか?」 ジノ 「甘くみたら後悔するぞ。 早く手を引け。 あの子はきっとお前に付きまとうさ。 ミヌもあんな子に引っかかって、貢がされて…」 男湯に乗り込んできたユビンは、ジノの頭を湯桶で殴る。 ゴニは、この後、おもしろそうに、ジノが叩かれるの見てるし~。 ユビン 「父親の仕事は? 何が忙しくて息子を、こんなバカに育てたの? 温泉に入ったってムダよ。 腐った性格は直せないわ。 クソみたいなヤツ」 韓国に戻ったユビン。 そして、ゴニは父親にアメリカに帰るとウソをつき、バリ島に恋人と遊びに行く。 ユビンが憧れていた、サンドイッチの配達先の室長の秘書が辞め、新しい秘書を募集するが頭数がそろわなかったため、急遽ユビンも受けることになる。 だが、面接で実務経験がないのがバレてしまう。 「履歴書はダマせても、実力はだませない。 見合いのしなおしをすることになったユビンは、待ち合わせたホテルで、見合いの相手がスンヒョンだとわかる。 ディナーの誘いも断られ、そうそうにホテルを出ることになるユビン。 だがスンヒョンは、取引したい相手から、彼女同伴でとディナーの誘いの電話を受け、その場にいたユビンを連れて行く。 スンヒョン 「窮屈な席だけど気楽に」 ユビン 「心配いりません。 こう見えてもムードメーカーなので、友達も多いんです」 スンヒョン 「余計なこと言わずに、笑っててください」 ユジンは、ディナーの席で、会話を盛り上げ、スンヒョンの会社の携帯電話のアピールをするのだった。 スンヒョン 「お疲れ様。 キム・ユビンさん、水曜日会社で会いましょう」 おおっ? ユビンはスンヒョンの秘書になるのねぇ~。 次回の予告では、ゴニに再会する模様だし、おもしろくなりそ~。 あんなに心の狭い幼稚な男と暮らすの? 貯えもないくせに秋に結婚ですって? そのくせ、嫁入り道具の話? プロポーズは、とたん現実問題…キビシイ。 シニョンは、クールな男前の紹介を断り、ジュノも。 病院1軒もらっての結婚話をまとめる超有名人の仲介の話を断る。 ジュノ 「目は向いても、心が他を向くので」 ジュノは、ついに野望?も捨て、シニョン一筋に目覚めのね!? 「最近、圧力ジャーの破裂事故が多いけど、うちで破裂するとは」 シニョンは、自分の家を取材することになる。 スンリは、コーディネート講座が好評で、講義を増やして欲しいと要請され、やる気まんまんでスネに報告する。 「この調子だと、全国を講演行脚よ。 ホント、人生ってわからないわ。 あの時、飛び降りてたら、あの時、部屋の窓が開いてたら、性格上、引っ込みがつかなくて、きっと何かやらかしてたわ。 …にしても、スンリのセリフはときどき哲学っぽくて、そーゆとこも魅力的! メールをやりとりするジュノとシニョン。 ジュノ 「口ゲンカくらいで電話の1本もないとは、俺の手には負えない重症患者だよ、お嬢様」 シニョン 「どういうこと?」 ジュノ 「出ベソと曲がったヘソは、専門外だからね」 シニョン 「親父ギャグ、つまんない」 そして、一緒に住む準備を始めようというジュノだったが、シニョンはスンリに相談しに行く。 シニョン 「彼、今年の秋に結婚しようって」 スンリ 「よかったじゃん。 望みが叶って」 シニョン 「でも、家を借り切る資金もないみたい。 彼のマンションで暮らすことになりそう」 スンリ 「困ったね。 記者だもの、小さくても勉強部屋が要るでしょ。 ワンルームじゃ不便だよ」 シニョン 「やっと復帰できて、キャスターに挑戦する機会も来そうなのに、結婚してすぐ子供を作るなんて」 スンリ 「家を口実に、結婚は延期。 一定のポストに就くまで、結婚後も子供はお預け」 シニョン 「男が出来たら、人生万事解決だと思ってたのに」 スンリ 「甘いわよ。 次は、結婚に向けての現実的な問題が、試練なのかな。 ジフンは、シニョンの兄と、シニョンの母の店で出すキムチ作りを手伝う。 「上手く、和えましたよ」 シニョン母、ジフンsiがシニョンを捜し出して助けたコトもあって、印象をあらためたようで、ずいぶんアタリが柔らかくなったわあ~。 「シニョンさん、明日の朝、キムチを食べて」と、ジフンから電話をもらうシニョン。 傍で聞いていたジュノはおもしろくない。 ジュノ 「2人でいると電話が」 シニョン 「とにかく最後まで話そう。 私は二部屋ある家で生活を始めたいし、やっと復帰したから、ある程度、足場を固めて子供を産みたいの。 ジュノ、すねないで。 今、大事な結婚の話をしているのよ」 ジュノ 「ああ、室長もこれを知ったら、慎むだろうよ」 結婚後の家の問題がのしかかるジュノ。 シニョンめ、現実にぶつかるたび、俺と金持ちを比べるだろうな。 イ・シニョン、早く俺の女にせねば 突然、"内部事情で"と講義の打ち切りを通告されたスンリは、打って変わった態度にいぶかしむ。 もと旦那の…誰の圧力か察しがついたわ。 ジュノの母の還暦祝いを、ソウルでやることになったと聞くシニョン。 嬉しいはずなのに、喜べないわ。 おまけに怖い。 だが、シニョンは、部長から、キャスターテストの切符がかかってるぞとはっぱをかけられ、大事な取材を任される。 "何で今日なのかしら。 人生のそこかしこに埋まってる地雷、すれ違い、空回り、運命のイタズラとは皮肉です。 何で、今日この取材が夢への正念場なの? この地雷原を通り抜け、還暦祝いに参加したいイ・シニョンでした。 " 取材を済ませ、急いでジュノの母の還暦祝いの席に向うシニョンだったが、間に合わなかった。 「ジュノ、お母様、中にいらっしゃる?」 何も言わず立ち去るジュノ。 ジュノとはそういうご縁だったというコトで、ジフンsiにしましょう! ジフンsiとなら、家の問題も、仕事の問題もノー・プロブレムだし~。 ウナンも付き添う。 ミンソク 「泊まって行けよ。 帰れないと言ったんだろ」 ウナン 「ダメよ。 結婚前の女が泊まれないわ」 ミンソク 「そうしろ、襲わないから。 ベッドを使って。 彼はソファー、僕は床で寝るから」 ミンソクのお部屋、シンプルなだけに、ウナンとのツーショット写真やら、グッズやらがそこかしこに置かれているのって、スゴくみえる… ゜o゜。 朝、目が覚め、ベッドで寝ているウナンを見たサンドゥは、トイレに入りドアを閉めようとしたところへ自分も入り込む。 そして、 「クソくらいさせろ」と追い出そうとするミンソクに、サンドゥは 「何でウナンがいるんだ? よく泊まるのか?」と、執拗に答えを求める。 サンドゥ 「彼女とどこまでいった? 寝たのか? なあ、寝たの? どうなんだ」 ミンソク 「聞ける立場か」 サンドゥ 「寝たのかよ」 ミンソク 「お前とは違う」 サンドゥ 「そうだよ、違うよな。 さすがご立派です」 ミンソクからキスされるウナン。 夜は一緒に寝て、朝は一緒に起きる生活がしたい 約束したんだから、結婚しなくちゃ。 彼は私を信じてる。 約束は…守らないとね。 ウナンは犬のチャンガに話しかけながら、サンドゥとの思い出を回想する。 サンドゥ 「お前に似た娘が欲しい」 ウナン 「娘ならあんたの奥さんに似るでしょ」 サンドゥ 「そうか? なら、お前が産んで。 お前に似てる娘を」 約束を守らないで、先に破ったのは、そっちだよ ポリの病室に寄ったウナンの母は、財布を忘れていく。 その財布に入っている写真を見たセラは、「ママ、ママ…」と心叫びながら、ウナンの母を追いかけが、見つけることはできなかった。 母親に支度させられ、綺麗な格好で学校に出勤するウナン。 サンドゥは 「何の日…ですか? 先生のくせにきれいな格好して…ますね。 男がみんな振り返る…でしょ」と、理由を知りたがる。 そして、ミンソクの母に会って、結婚式の日取りを決めると知ったサンドゥは仮病を使い、ウナンを行かせまいとする。 ウナン 「ガマンしないで病院に行こうよ」 サンドゥ 「いいえ。 病院にいって、治る病気じゃありません。 ミンソクに電話を入れた後、保健室をそっとのぞいたウナンは、サンドゥの仮病に気づく。 出て行くウナンを追いかけるサンドゥ。 「ウナン。 俺だってヤだよ、こんな事しかできない自分が。 行かせたくなかった。 すべてが終わってしまうと思ったから。 誰にも渡したくない。 取られるくらいなら、戻ってこなかったよ。 ウソをつくのはやめよう。 時間のムダだ。 ウソをつくのは ミンソク 「こら、先生に対して無礼で生意気じゃないか。 先生に片想いすることはあるだろうが、師弟には越えられない一線がある」 そう言って、サンドゥの腹を殴るミンソク。 ミンソク、顔に似合わず?、なかなか過激~。 ミンソク 「立て! この野郎」 ウナンはミンソクを止めようとする。 ウナン 「ミンソクさん。 やめてミンソクさん、お願い。 私がウソをついてたの。 サンドゥは私の初恋の人なの。 ごめんなさい、ずっと黙ってて」 ミンソク 「それで? どうしたいんだ? 二人とも」 ウナン 「どうもしないわ。 それだけよ。 昔の…子供のころの恋だったの。 もう終わったこと、それだけよ」 ミンソク 「それだけ…なのか?」 ウナン 「そうよ」 二人の前から去っていくサンドゥ。 学校を休んだサンドゥの住所を調べて、家に行くウナン。 皆が帰った後、スンリはスネを気遣う。 ジュノは、さすがにシリアス・モードから一転、嬉しさを堪えきれず。。。 患者の家族の娘を紹介されるジュノ。 「困りましたね、彼女がいまして。 彼女と結婚したい」 おおっ、ジュノってばすっかりシニョン一筋になったのねぇ~~。 シニョンは、UBNの記者に復帰する。 ジュノのマンションで、一緒に食事をするシニョン。 ジュノ 「これで以前に戻れるよな?」 シニョン 「でしょうね」 話の途中で、シニョンの携帯がなる。 ジフンが取材のネタを提供してくれたのだ。 おもしろくない顔のジュノ。 ジュノ 「お前の態度が問題だ」 シニョン 「友達以上にはなれないと彼に言ったわ」 ジュノ 「友達ってのもやめろ」 スネの一件の空白を消して、公園でキスした日からはじめることを約束するジュノとシニョン。 ジュノ 「でも、何か不安なんだ」 シニョン 「バカ」 そして、ジュノはシニョンにプロポーズする。 ジュノ 「シニョン、秋に結婚しよう」 シニョン 「はい? 秋に?」 ジュノ 「前、オーケーしたろ?」 シニョン 「もう少し後でって、結論出したんじゃ?」 ジュノ 「母の具合が悪くて、もっと悪くなる前に結婚して孫も抱かせてやりたい。 この際、還暦祝いの席で、日取りも決めよう」 ジュノのマンションを後にしたシニョンは、自分の気持ちを量りかねていた。 "本当に変よね。 彼も出来て、職場にも復帰した。 全て望みどおりなのに、ちっとも嬉しくない。 " そして、 「男は、いてもいなくても頭痛のタネだわ」と思うシニョンだった。 ジフンsiとタイミングが合う日も来るかも!?>ジフンsiファィティン~グ! シニョンは、倉庫から助けてもらったお礼に、ジフンの申し込んだ料理教室に一緒に参加する。 ジフン 「シニョンさん、40まで独りだったら僕と結婚しませんか? どう? いい提案じゃ?」 シニョン 「40までは結婚してると思うわ」 ジフン 「もしもの話。 先はわからないから」 シニョン 「35歳くらいにすると思います」 ジフン 「じゃあ、35まで独りだったら、36になる春に結婚しましょう」 スンリのことを 「勇敢で明るい。 僕もああなりたい」というジフンに、シニョンは、 「私も彼女はステキだと思う。 離婚しても堂々と前向きで」と相槌を打つ。 ジフン 「じゃあ、何で僕にはつれないの? スンリさんは擁護して、何で僕ははねつけるの?」 シニョン 「そうですね」 ジフン 「矛盾でしょ?」 シニョン 「ええ」 ジフン 「これは脈ありだな。 36まで待たなくても?」 シニョン 「ジュノと恋人関係に発展したんですけど。 スネは、フランスで料理と外食産業を勉強してきたという新しいマネージャーが入るからと、解雇を言い渡される。 だが、実戦で競って負けたら辞めると食い下がり、新マネージャーとアイデアを競い、売上の競争することになる。 アイデアを出し合ってスネを助けるスンリとシニョン。 飲み明かそうと盛り上がった3人は、酒を買いにでかけた先で、酒を買おうとした未成年の男の子たちと店内で乱闘騒ぎを起こす。 そこで、秋に結婚したいと思っているジュノと、もう少し先にしたいと思っているシニョンは、互いの思惑の違いから、言い合いになってしまう。 ジュノ 「お前がわからないよ」 シニョン 「何で、勝手に日取りを?」 ジュノ 「じゃあヤメだ」 シニョン 「上等じゃない、いいわ、やめよう」 韓国では、家具とか家電とか嫁入り支度は女性側、新居は男性側の負担らしいですねぇ。 嫁入り支度を値踏みされたり、新居は坪数…、なかなか大変そ? そういえば、韓国の場合、結婚後は独身のときに使っていたものを持ち寄ることはなく、家電もぜんぶ新品にするらしくて、廃棄された家電が多くて社会問題になってるとか、新聞で読んだ気がするよ~ ゜o゜。 ジョンヨン 「タバコも吸わないし、お酒も飲まない。 家政婦なんか雇えないし、一人でがんばってきたの。 贅沢とも無縁で、流行のコートも持ってない。 お金がもったいなくて、携帯ももたないくらいよ。 私がガンなんておかしいのよ。 無農薬野菜には目がない普通の主婦なの。 家族には雑穀のご飯を、無農薬の野菜を食べさせたわ。 私のどこが悪い?」 ジソプ 「君は悪くない」 ジョンヨン 「じゃあ、なぜガンなんかに?」 ジソプ 「すまない。 僕のためだと思って手術しよう」 ジョンヨン 「もう少しだけ時間をくれない? こう見えても、私、この家には必要な存在なの。 私がいないと、夫と子供達がこまるの。 メチャクチャになるわ。 時間が欲しいの。 私の存在って大きいんだから」 会社で泊り込みをしていたヨンドは、久しぶりに家にもどる。 ヨンド 「会いたかった。 誰でも、明日、ジョンヨンになる可能性があるわけなのよねぇ。 普段、いつもの日常が明日も続くもの…という前提に暮らしているけど、逆に考えると、そう思わなければ、怖くて生きていけないかも…。 会社に泊まりこんでいるギョンスから頼まれた着替えを取りに、ギョンスの家に行くジュノは、家の外で酒乱のギョンスの父が暴れている所に遭遇する。 ジュノは、集まった人たちに謝り、家に連れ戻し寝かしつける。 「おじさん、全部おじさんのせいだぞ。 ギョンスは、おじさんみたいな男に会うかと怯えてるんだ。 分かるか? 俺はそれが悔しいし、腹立たしいんだよ」 昔から、ギョンスは母と酒乱の父に怯えて暮らしていたのだった。 ギョンスは、心に傷を持っていたのねぇ。 ギョンスのオンマはどうしたんだろ? ジョンヨンは、義母と義姉に会いに行き、入院のことを話す。 義母は、ジョンヨンがヨンドに入院のことを話していないことを知り、ヨンドに電話する。 「「情けないったら。 一家の大黒柱ともあろう者が何も気づいてないなんて。 お前に言い出せないわけよ。 頭があるなら考えなさい、手術だそうよ」 会社を飛び出して、ジソプに会いに行く。 ジョンヨンのガンの事を知り、家に戻るヨンド。 ジョンヨン 「私じゃなく、お義母様に言われてすねてるのね?」 ヨンド 「騒ぎたてられると困るから黙ってたのか? ガン手術が、簡単か?」 ジョンヨン 「先輩から聞いたの?」 ヨンド 「奴の話はするな。 ぶっ殺したいのを、我慢したんだ。 君の担当医だからな」 ジョンヨン 「私が頼んだのよ。 私から話すと」 ヨンド 「最後まで簡単な手術だとだますつもりだったんだな? 君にとって 俺は何なんだ?」 ジョンヨン 「あなた」 ヨンド 「こんなものだったのか、俺は」 家を出て行くヨンド。 会社にも戻っておらず、ジョンヨンは、カッとなって酒を飲んで運転なんかしたら…と心配する。 ヨンドは、あてもなく車を走らせていた。 ジョンヨン 「もしもし? あなたなのね? もしもし?」 ヨンド 「俺だ」 ジョンヨン 「今、どこにいるの? どこで何をしてるのよ」 ヨンド 「道に迷ったようだ。 どこか分からない。 ガスけつで参っちゃったよ。 いくら探しても、スタンドが見当たらない。 ないんだよ。 道にも迷っちゃったし、スタンドもない。 まったく」 ジョンヨン 「話を聞いて欲しかった。 私が悪かったわ。 あなた聞いてる? 謝るから帰ってきて。 待ってるから」 ヨンド 「ああ、帰るよ。 他に行くところもないし」 ジョンヨン 「すぐ帰ってくる?」 ヨンド 「ああ、これから帰る。 ユビンはG. Oになりたいと思っているが、母親からは、三流大学卒で見合いの話も来ないとグチられている。 Oってなに? どんな職業? ユビンは、アクセサリーの店で働く知り合いを助けようとして指輪を買い、その購入キャンペーンで、2泊3日の日本のサホロ旅行に当選する。 サホロには、友達のイェソが、G. Oとして働いていた。 大喜びするユビンだったが、母親が、ソウル大卒、若いのに携帯電話会社の室長というエリートが相手という見合いの話を持ち込む。 「黙ってお見合いしなさい」 見合いの日と、日本行きが重なってしまったユビンは、父に協力してもらい見合いにいくふりをして、日本に出発してしまう。 ユビンは見合いをすっぽかしてしまうんだけど、その見合いの相手、ユビンが配達にいく会社の憧れの人みたいなんだけど…? 千歳空港に到着し、電車の中で、ユビンがお弁当を買って、割り箸を割ったあと、両手でゴシゴシするんだけど、そういえば昔は私もよくやったよ、そういえば! でも、今頃、やんなくなっちゃったし、最近、あんまりそーやってる人、見かけないかも。 ミヒ 「ありがとう。 お花は恋人にプレゼントするものよ。 いつまで私に?」 スンヒョン 「母さんは僕の恋人だ」 スンヒョンの母親ミヒは、息子に見合いのお膳立てをする。 ミヒ 「勉強には感心なさそうだけど、性格がとてもいいの」 スンヒョン 「母さんみたいに賢い女性がいいな」 ミヒ 「賢いからって、幸せな人生とは限らない。 私も息子の世話から、そろそろ開放されたいわ」 スンヒョン 「本気なの?」 ミヒ 「あなたも、もう30よ。 近くで助けてくれる人が必要だわ。 あなたにふさわしいのは、優しくて明るい女性よ」 ユビンが働く店に友達がいるミヒは、ユビンを見て気に入っていたのだった。 はい? スンヒョンの母親を見つめる目! 義理の親子でなくて、ほ、ほんとの親子ですかい!? スンヒョンはマザコン!? この絵になるような母と息子、ナゾな存在 ゜o゜。 たしかに、スンヒョンのオモニン、お美しいです~。 サホロでは、友達のイェソが迎えにきてくれていた。 リゾートの皇太子なる人物ゴニも、留学先のアメリカから誕生日パーティのために来ていた。 ゲレンデで、皇太子の友達から、ユビンは日本人と間違えてしまったことがきっかけで、イェソはユビンを"アサコ"と紹介してしまう。 そしてユジンとイェソは、ゴニの友達から誘われたゴニの誕生日パーティに、着物で出かけ日本人のふりをしてしまう。 ユビン 「日本語ができなくてバレたら、大恥かいちゃうわ」 イェソ 「何か聞かれたら、"はい"って笑ってればいいわ」 ユビン 「そうすれば大丈夫?」 ゴニも、ユビンをアサコを思っている。 かわいい子だと思ったゴニは、ユビンをゲレンデに連れて行き、ゴンドラに一緒に乗り込む。 ゴニ (正直に韓国人だって言おうかな) ユビン (何て言ったらいいのかな。 "かわいい"って言えたらいいのに。 日本語でなんだっけ? 話が通じなくて困ったな) ゴニは、 「サプライズ」と言って、ユビンに打ち上げ花火をゴンドラの窓から見せる。 ゴニの友達は、ゴニがユビンのことを気に入ったことを知ると、ユビンに、ゴニが部屋に行くからよろしくと日本語で話す。 ユビンは何を言われたのかわからないまま、「はい」と答えるのだった。 ユビンの部屋を訪ねたゴニは、ユビンをベッドに押し倒しキスするのだが、酔っ払っているゴニはそのまま倒れこんで寝てしまう。 朝、ゴニが起きると、机にもたれて寝ていたユビンもゴニの気配で起きる。 ゴニは 「目が覚めた? 何も覚えてない」と言うと、財布からお札を抜くとユビンの前に置いて出て行く。 ゴニが無造作に抜いたお札は、諭吉様が10人でした。 ゴニは、友達と朝食のテーブルにつく。 ゴニ 「頭が痛い。 昨日は飲みすぎたみたいだ」 ゴニの友達 「アサコをがっかりさせてないだろうな?」 ゴニ 「おい、このチェ・ゴニが女をがっかりさせたことはない」 そこにアサコが、お札を握り締めて現れる。 ユビン 「チェさん。 あんた、イマイチだったわ」 ゴニ 「韓国人だったのか?」 ユビン 「ええ。 メイド・イン・コリアよ。 気づかなかったの? バカ皇太子!」 いや、笑えた~。 five minutes to tomorrow 著者名 :本多 孝好/〔著〕 出版者 :新潮社 出版年 :2004.10 ページ数等:171p 大きさ :20cm 価格 : ¥1,575 (税込) ISBN :4-10-471602-2 内容紹介 :Side-Aのラストシーンから二年。 ある日、本当に久しぶりに尾崎さんから電話が入った。 もう二度と会うまいと決めていたのに-。 再会した尾崎さんは、「頼みがあるんだ」と、信じられない話を切り出した。 著者紹介 :1971年東京生まれ。 慶応義塾大学卒業。 94年「眠りの海」で小説推理新人賞を受賞。 短編集「MISSING」が99年の「このミステリーがすごい!」で10位にランクインした。 僕はただ、そう、僕はただ水穂が今ここにいないことが悲しかった。 --- 僕はその衝動に負けた。 一度許してしまえば、涙は止まることなく溢れ続けた。 --- そのすべての水穂が、その水穂と過ごした時間が、ただ愛しかった。 "僕"の予測どおり、水穂が生きていたら、僕と水穂の恋は長続きせず、あっけなくピリオドが打たれていたかもしれない。 水穂が突然この世からいなくなってしまったということは、そういう可能性も含めて失うというコトなんですよねぇ。 人の死って、そういうコトなのね…。 僕は今でも一日の最後の五分間だけ、かすみのことを思う。 水穂のことを思う。 そのとき、そこにいた僕のことを思う。 その時間は、僕の胸に静けさと穏やかさを運んできてくれる。 --- そして残りの二百八十七は、今の僕のために使い、今の僕が愛する人のために使っている。 ギョンスは、たかがキャラクター公募展で銅賞を取っただけなのに、大きな会社の開発室長が2度もスカウトに来るなんて…と、いぶかしむ。 ギョンス 「ひょっとして、私に惚れたの?」 ヨンド 「おい、いくつだ?」 ギョンス 「失礼ね」 ヨンド 「君と俺は世代が違うって…ことだ。 世代の違う宇宙人には興味がない」 ヨンドは、ギョンスの発想に呆れたのだが、70年代のアニメ主題歌や、アニメ・ゲームへの考え方に二人は意気投合する。 そして、ギョンスはヨンドの会社で働くことにする。 ヨンド 「それから"ガッチャマン"は?」 ギョンス 「それ、日本のだよ」 ヨンド 「まさか」 ギョンス 「本当よ。 人気があるのかな。 ヨンドの妻ジョンヨンは、先輩のジソプの働く病院で再検査を受ける。 ジョンヨンは、夫の寝顔をみながら、 「今日、再検査だったの。 先輩の連絡を待ってるんだけど来ないの。 私からしたほうがよかったかな。 でも、なんか連絡するのが怖くて。 あなた、私、怖いの」と話しかけるのだった。 ジョンヨンは、ジソプからヨンドと一緒に病院へ来るように言われるが、プレゼンの準備で忙しくしているヨンドに言い出せず、1人で検査結果を聞きに行く。 ジソプ 「胃から…腫瘍が見つかった。 けっこう大きい」 ジョンヨン 「ガン…なの?」 ジソプ 「ああ」 ジョンヨン 「ふざけないでよ。 面白くもない」 ジソプ 「僕も面白くないんだ」 (挿入歌) このまま永遠に続くと思っていた 覚めない夢のように そっと わたしと過ごした時間 あなたにとって 幸せだったでしょうか 第2話のタイトル「よかった…」というのは、胃がんがヨンドではなく自分で"よかった…"というコトだったんですねぇ…。 毎日が永遠に続くと思ってしまうけど、ある日突然、足元を救われる…そう思うと、怖いし悲しい……。 そして酔いつぶさせホテルに連れ込むが、スジンが医学部生とわかると、"美しい君をみたら、ヘンな思いをしそうで帰ります。 また連絡します。 キム・ジェヒョン"と、メモを残す。 「恋人が医者なら…いや、奥さんが医者なら一生が安泰だな」と夢想に浸るジェヒョン。 一方スジンは、 "格好いい、女を守れるなんて"と、ジェヒョンに好意を持つ。 スジン 「私の兄貴に手を出すなんて、どこのどいつよ。 ソクミン、"栄光の傷"って言った時に、唇に手をあてたりして、かわい~っ。 ヘリンに会いたくてしょうがないソクミンだが、ヘリンに避けられなかなか会えない。 そんな時、ジェヒョンのヘマで腕にケガをしてしまったソクミンは、救急患者としてヘリンに診察してもらうことを思いつく。 ソクミン 「なぜ避けるんですか。 嫌いなら言って下さい」 ヘリン 「すごく嫌い」 ソクミン 「何でですか。 スジンの時と、妊婦の時と、落ち着いて話せる状態じゃなかったから」 ヘリン 「じゃあ、さっきは? 緊急事態でもないのに。 軽率な人は嫌いなの。 あなたは言葉も行動も…」 ソクミン 「俺の場合は、軽率とは違います。 気持ちをそのまま伝えたい。 だからすぐに行動するんです。 こう話せばこう言うだろうとか、人はみんな本当の気持ちを隠します。 でも、俺は違う。 ありのままの自分を見せたいんです。 特にヘリンさんには。 俺の気持ち分かりました?」 ヘリン 「分かりますけど、相手を間違えたわ。 私、結婚してたの」 ソクミン 「結婚していた?」 ヘリン 「ええ。 だから違う人をさがして」 ソクミン 「今の言い方、過去形ですね。 過去など関係ありません。 今、1人ならそれでいいです。 私はヘリンさんに一生を捧げます」 ヘリン 「やたらと捧げないで、しっかり考えてください。 努力して出来るものとダメなものがあるんです。 私は、一生かけたってダメなんです」 ソクミン 「俺は、あなたを大切にします。 それにくらべて、スンハだよ、ありのままの自分をみせるヤツからは程遠い。 そこに、交通事故の救急患者が搬送されてくる。 患者と、事故で亡くした恋人ウジンを重ねるヘリンは、 「死なせちゃダメです」と必死に電気ショックを続ける。 「ヘリン、やめるんだ。 見えないのか? もう死んだんだ。 どうして認めない?」と、スンハはヘリンの頬を叩く。 ソクミンも、一年前の事故が頭によぎらせながら、家に戻る。 「忘れなよ。 罪悪感ばかり感じないで。 その人は助かったはずよ」 やっぱり、事故を起こしたウジンを車から出したのは、ソクミンだったのねぇ。 だけど、ただ助け出しただけじゃなさそうな…。 「また喧嘩? 女の子が喧嘩ばっかりして」と母親から責められるミンスは、 「性転換する」と言い出す。 喧嘩ばかりするミンスが家族の悩みの種で、ミンスの兄ミンチョルは、後輩の精神科の医師ジョンチャンに相談を持ちかける。 外で診察と気づかれないように、ミンスと会う約束をするジョンチャン。 そして、ミンチョルは見合いと偽り、ミンスをジョンチャンに会わせる。 5年前のドラマになるわけでしょ。 やっぱし、ヨンハsi、昔の方が老けてる! 父の紹介での見合いの時と同じように、相手が気に入らなかったらたたきのめそうと思ったミンスだったが、ジョンチャンに一目惚れしてしまう。 早く落ち着かないと、外まで聞こえそう。 そーゆ展開になるワケねぇ。 こうしてミンスの恋患いが始まる。 「変なところは全然ないよ。 とても大人しいし」とミンチョルに報告するジョンチャンだったが、もう1度ミンスに会うように頼まれる。 ジョンチャンから、誘いを受けたミンスは大喜びで出かけようとする。 ミンスの妹 「スカートにお化粧、大した変身ぶりね。 恋愛のプロがアドバイスするわ。 男なんてみな同じ。 恋愛するなら元気な明るい子、結婚は上品な人って決まってるの。 兄さんもでしょ? 姉さんのように、タフで男勝りの女は論外」 妹からのアドバイスどおり、ミンスは、ジョンチャンと会うときは、本来の自分の姿を隠す。 ジョンチャンは、ミンチョルの話とぜんぜん違うミンスを不思議に思いながら、遊園地に誘う。 ミンチョルから、絶叫マシーンが好きだと聞いていたからだ。 遊園地で乗り物に弱いふりをするミンスだったが、スリを捕まえ叩きのめす。 そしてその現場を、飲み物を買って戻ってきたジョンチャンが目撃する。 スリを捕まえた人物と人違いだと必死に言い張るミンスに、興味をおぼえるジョンチャン。 ミンチョル 「まだ本性、見せないか?」 ジョンチャン 「本性? 妹さん、とても魅力的だ」 ミンスは、道場通いもやめ、パックをしたり、詩を朗読したりと、すっかり女の子らしくなり、ミンスの母は 「なくした娘が生き返ったみたい」と喜ぶ。 同じ道場に通っていたミンスの幼なじみに、公園に連れ出されるミンス。 「ここに来ると思い出す。 ガキ大将の座をお前に奪われて、人生に絶望して大泣きした。 あの時みたいな気分。 あの医者が好き? いつまでも本性を隠せると? 服を着替えたって性格は変わらない。 本性を知っても会ってくれる? 以前の君は魅力的だった、偽るな」 ミンス 「偽りじゃなくて、今が本当」 ミンスの幼なじみ 「そんなのウソ。 ありのままでいられない恋愛は、下手くそな芝居にすぎない」 ミンス 「知った様な口、利かないで! これ以上言ったら、許さない」 ミンスの幼なじみ 「殴れば? お前を忘れられるかも」 ミンスの幼なじみくんは、ミンスがひそかに好きだったのねぇ ゜o゜。 昔の恋愛の傷をひきずっていたジョンチャンも、ミンスにだんだん惹かれていくのだが、突然、別れた恋人タヘが現れる。 「実は離婚したの。 一度も忘れたことがなかった。 今でも愛してる。 私が間違ってた、許して」 花束を抱え、病院を訪ねていったミンスは、偶然その現場を目撃してしまうのだった。 だが、妹からアドバイスされ、バレンタインデーに告白することにしたミンス。 「告白したいことがあるの。 明日、あそこで待っています」 軍隊に行くことを決めたミンスの幼なじみ。 ミンスの幼なじみ 「チョン・ミンス。 名前を偽れないように、ありのままをあいつに見せて。 それでもお前が好きなら、俺は身を引く。 一度だけ抱かせてくれ」 ミンス 「やめて」 手をあげようとするミンスの手をとめる。 ミンス 「…今まで、負けたフリを?」 ミンスの幼なじみ 「そう、わざとだ。 君をなぐれなかった、傷つくから…。 好きだから。 あいつがお前を本当に愛しているなら、俺は諦める」 男らしいわ~、健気だわ~、ほだされるわあ~。 幼なじみくんから見ると、とんびに油揚げをさらわれそうな図に? タイミングが幼なじみくんに味方してくれなかったとゆーか。 また、ジョンチャンとは見合いではなく診察だったと知ったミンス。 ミンスの妹 「ごめんね、姉さん。 本当のこと、言うつもりだったの…」 ミンス 「謝ることないわ。 楽しませてもらったから。 告白もするつもりだから」 女らしさとはかけはなれた以前の格好で、ジョンチャンとの待ち合わせ場所に行くミンス。 だがジョンチャンは、ミンスとから言われた時間を気にしながらも、飛行機で発ち二度ともどらないという昔の恋人タヘの見送りに行くのだった。 ジョンチャンと会えず家に戻るミンスだったが、家の前でジョンチャンが待っていた。 ジョンチャン 「待った? その服の方が似合うよ」 ミンス 「言いたかったの…。 本当の自分の事」 ジョンチャン 「知ってた。 んでもって、この表情で、わりと唐突に終わるよな印象なのよねぇ。 ロシア語を話せるということで紹介されたのは、ホン・ジョンヒョンだった。 顔見知りだった二人は、再会したことによって、急速に親しくなる。 ギョンビンは中尉に昇格し、あたらしく輸入する戦闘機"ワイルドキャット"のテスト飛行の副操縦士に選ばれる。 推してくれたのは、ギョンビンを指導してくれた主操縦士のチェ少佐の推薦だった。 ギョンビンはジョンヒョンと一緒に、チェ少佐の家に招待される。 「軍人の資格を持つ者は、家族を愛し、国民を愛すること、それが最高の軍人だ」と教えられる。 チェ少佐の家族を愛する姿、そして軍人としての姿に触れるギョンビンだった。 テスト飛行が終了し、その帰還する途中、エンジンが停止してしまうという事故が起きる。 「事故だ。 脱出しろ。 命令だ、脱出しろ!」 脱出するギョンビンだったが、戦闘機"ワイルドキャットは"はチェ少佐を乗せたまま墜落してしまう。 チェ少佐は、なぜ脱出しなかったんだろ? 戦闘機を立て直そう(守ろう)としたから? 俺はつらかった。 少佐の娘さんが哀れで、見てられなかった…。 父が死んだ時も、俺はそばにいた。 何も覚えていない。 少しも思い出せないんだ。 生きていたら何と言うか。 俺は、逃げたんだ。 生き残ったことは、うしろめたい。 "ワイルドキャット"墜落事故の原因を問う審理が始まる。 上層部がチェ少佐の操縦ミスとして処理しようとすることに憤りを感じるギョンビンは、機体に欠陥があったための事故と証言したことから、審理は2次審理に持ち越され、ギョンビンの証言に圧力をかける上層部。 ギョンビンも、ワイルドキャットについて調べる。 大きすぎる相手と向かい合う決心をするギョンビン。 ギョンビン 「すまない、俺、今回のことで退役させられるかも。 そうなれば…、一からやり直しだ」 ジョンヒョン 「これだけは信じて。 この先どうなろうと、私はあなたの味方よ。 人に何と言われてもね。 あなたのそばにいるわ」 2次審理が始まる。 チェ少佐への思い入れもほどほどにしないと後悔するぞと言われるが、ギョンビンの心は固かった。 「後悔しません。 チェ少佐という尊敬できる人に出会えて幸せです。 それで充分です」 ギョンビンは資料を用意し、ワイルドキャット製造元の会社の人間に機体の欠陥を指摘する。 そして、発言を続ける。 なぜ経験豊かなかたが、わが国に不向きな機種を導入するのかわかりません。 おっしゃるとおり、軍隊は国民を守ります。 神聖な任務の目的を、政治的介入によって取り違えてはいけない。 士官学校では、こう学びました。 軍人1人の名誉は全軍の名誉。 軍人1人の生命は全軍の生命。 1人の犠牲を見逃せば、より大きな代償を払うでしょう。 国と国民のためなら、いつでも命を捧げます。 しかし、利益を重視する権力者のためなら辞退します。 ゆがんだ愛国心で、軍人を犠牲にしないでください。 そして、大切な父親を子供から奪わないでください 審理の場にいた人の心を揺さぶったと思ったギョンビンの言葉だったけど、結局、退役せざるをえなっちゃったみたい…。 軍をさったギョンビンを迎えにきていたジョンヒョン。 ということで、第2話はギョンビンのストーリーでした。 両者を分けるのは、恐怖に打ち勝つことができるか否かだ。 お前が強者になることを望んでいる。 そうなれば、世の中がお前を恐れる。 ギョンビン父… 警官になったとき約束したんだ。 大統領じゃなく国民にね。 一般庶民の味方になるって。 北朝鮮に住むテッヒョンと韓国に住むギョンビン、二人の少年は襲撃事件で父を亡くす。 テッヒョンの父の名はウォン・キゥッといい、共和国の名門、革命一家の子孫だった。 母は無理強いされた結婚に愛はないと、テッヒョンを置いて出て行こうとしたところを、テッヒョンの父の弟に密かに殺される。 その現場を見てしまうテッヒョン。 おおっ、 ヘギョちゃんではないですか~ ゜o゜。 ホン・チョンヒョンという役名で、ギョンビンと一緒に、警察で事情を聞かれるとき、ちょっとだけのほんの数分の出演だったけど。 16歳くらいのヘギョちゃんですねぇ~。 ギョンビン(成年期はイ・ビョンホン)はまだ青年期だったので、イ・ビョンホンと一緒に出演したわけではないけど。 青年になったテッヒョンとギョンビン。 ギョンビンは、空を戦闘機が舞うのを見上げる。 「必ず、あれに乗ってみせる」 テッヒョンは学校を休み、ソ連で核兵器を開発した革命家の父を持つアナスターシャと過ごす。 テッヒョン 「アナスターシャの意味は?」 アナスターシャ 「復活。 生まれ変わるという意味。 両親のソ連留学中に生まれて、この名前をつけたのよ」 アナスターシャの父が行方を絶ち、裏切り者の娘だと追われる身になり、テッヒョンは、自分がおとりになりアナスターシャをアナスターシャの父のいるソ連へ逃がす。 どっぷり重たいです…。 第1話は、まだ接点のないギョンビンとテッヒョン、それぞれ父を亡くした二人の子供時代から青年期まででした。 ギョンビンは、温かい父と母のもとで育ったけど、テッヒョンは、そういうとこは不幸な生い立ちですねぇ。 俺を信じるだろ?」 シニョン 「もう、あなたをあきらめたわ」 ジュノ 「俺はどうなる」 シニョン 「そんなこと私に聞かないで」 ジュノ 「お前に、人生の半分を預けたんだ」 シニョン 「お返しするわ」 ジュノ 「イヤだ」 シニョン 「イヤでも」 13話に引き続き、ジュノ、ほんとにシリアス・モードだわ~。 主婦賭博団潜入取材、幽霊芸能企画社現場での告発、良家の子弟、賭け玉突き(ビリヤード)に熱中。 シニョンが企画・取材して記事にしたものを、UBNの元仲間達が部長に見せる。 「カメの奴、UBNに呼び戻すべきじゃ?」 おおっ。 名前、なんてったっけ? ハ?なんとか?って、シニョンと夜のキャスターの座を巡って勝負して、んでもって、なにかとゆーと絡んでたヤツ、シニョンの復帰を働きかけてるなんてっ ゜o゜。 急に、いいヤツに見えてきたよ~。 努力(…シニョンにとって、記者魂は本能みたいなカンジだけど)は、報われるのねぇ~っ。 ファイティ~ング、シニョン! 気分転換に気の向くまま足のむくまま旅に出ようと出かけたものの、途中、泣きくれている女性に声をかけてしまう。 事情を知ったシニョンは、潜入取材を開始する。 "1人にいくつ仕事をさせるのよ。 これで、ただ働きなんて。 成敗する" ジフンは、 「よかったらワインでもどう?」とシニョンを誘うのだが、仕事中だと聞き、シニョンの仕事先に行く。 ジフン 「本当に、とっぴな女(ひと)だ。 何でこんなことを?」 シニョン 「ここの主人は悪人よ。 悪人どころか極悪人」 ジフン 「不法滞在者に、温かく接してる人もいるよ。 偏った記事は書かないように」 シニョン 「ジフンさん、お似合いよ。 ! 勤め先の閉店後の店で、スネは、父が亡くなったときジュノからもらった本、『生を満たす美しい話』を読む。 "生に愛着を感じなくなった時、自分がちっぽけに思えるとき、遺書をかいてみよう。 身の回りの大切な幸せに気づくだろう" 遺書を書きはじめるスネ。 スンリの家に戻ったスネは頭痛が眠れなかったせいだと、睡眠薬を多めに飲んでしまう。 そして、ぐっすり寝入った頃、帰ってきたスンリは、スネの遺書と睡眠薬の容器をみつけ、スネが自殺を図ったと思い救急車を呼ぶ。 ジュノは すごく会いたい。 シニョン、苦しいよ。 助けてくれ、納得できないんだ"と、シニョンに電話をするが、切られてしまう。 あまりのシリアスさに、ジフンびいきの私も、さすがにかわいそうと思ってしまうじゃないの~。 病院に駆けつけるシニョン。 そしてジュノも駆けつけるが、スンリから 「あなたのせいよ」と責められる。 スネの言葉を反芻し、苦悩するジュノ。 ベッドで眠っているスネに、 「スネさん、僕が悪かった。 少しだけ僕に時間を」と語りかける。 そしてシニョンに、 「シニョン。 スネさんと結婚しなくては」と伝えるのだった。 シニョンからジュノとスネが結婚することを聞いた家族は、シニョンを気遣い気晴らしに外出させようと、骨董品屋に連れ出す。 母と弟チャニョンを車に乗せてでかけたシニョンだったが、やはり途中で事件の匂いをかぎつけ、1人、取材に走ってしまう。 「イ・シニョン、あんたには参るわ。 産気づいても取材に出るタイプ。 "赤ちゃん、今出ちゃダメ。 事件なのよ" 尾行して着いた忠州の学校横の農家の倉庫に、博物館からの盗品も隠されていることに驚くシニョン。 そして倉庫に潜入したシニョンは、人の気配で隠れたものの、おかげで倉庫に閉じ込められてしまう。 スンリの携帯に電話をするがスンリは出ず、バッテリー不足でSOSのメールをかろうじて送れただけだった。 2日間もシニョンから何の連絡もなく、シニョンの母は寝込む。 ジュノは、手術から外してくれるように科長に頼む。 そして3日が過ぎ、ジフンはスンリを連れて、シニョンを捜しに行く。 ジフンから連絡をもらったUBNでは、親しい刑事に声をかける。 ジフンとスンリは、何校か回った末、ついにシニョンのいる倉庫をみつける。 弱った身体で、シニョンはUBNの部長に電話をする。 シニョン 「文化財盗掘密売団、他に知られる前に…」 スンリは、 「あんたって子は。 貸して」と、シニョンから携帯を奪い取る。 スンリ 「よくも、この子をクビにしたわね。 この件は、MBSに知らせるからね」 救急車で搬送されるシニョン。 ジフン 「僕が救急車に。 車を頼む」 スンリ 「ガソリンが底を…」 ジフン 「知ってる」 もっと早く捜しに行ってもよさげなモンだけど~? …っていうのは置いといて、ジフンとスンリの会話…とういうか、やっぱし間が絶妙なのよねぇ…酸いも辛いも知り尽くした同士?の独特の雰囲気があるってゆーか。 案外、ジフンはスンリとの方が幸せになれるのかも…? ジュノ 「心配したよ。 このバカ、死ぬかと思った。 心配したんだぞ」 シニョン 「ジュノ、あなたの結婚、心から喜んであげられるわ。 本当よ。 もう、何もかもが幸せだし、本当に理解してる」 ジュノ 「冷たい奴だな。 俺のことは考えた?お前1人、悟るなよ。 俺はまだ…こんなに辛いのに」 UBNの仲間は、特ダネを取材したシニョンは、UBN特別取材班に復帰できる知らせを持ってくる。 大喜びするシニョン。 スネは、寝ているシニョンにこっそり会いに来る。 「シニョン、無事に戻ってくれてありがとう。 私、やっとわかったの。 本当に大事なものが何か、あなたが教えてくれた。 もう誰にも頼らない。 私が高く飛べるよう、風になってくれる友達がいる。 1人で高く飛んでみる。 ところで、この楽しい病室(爆笑!)、誰のセンスで、誰が用意したもの!? スンリの家で、シニョンが無事だった祝いに集まる5人は明るく盛り上る。 スネが、おもむろに口を開く。 「あの…私、告白することがあるんだけど。 私、妊娠はウソなの」 目を丸くする一同。 こ、これは一体… ゜o゜。 スンリ 「夏は食べ物に気をつけなくちゃね」 ジフン 「驚きましたよ、妊娠かと思って」 スンリ 「お嫁にも行ってない女性に失礼ね。 スネは純情な子よ」 ジフン 「だから、スンリさんが」 ジフンsiとスンリの会話の間って、いつも絶妙。 ジフンsi、スンリ相手だとセリフが違うよ~な。 やはり同じ人種?同士の何かを感じるのかしら~ ジュノの診察室。 ジュノ 「そうだ。 お兄さん、ここで働くの? 室長が呼んだそうだけど、なんで?」 シニョン 「知らない。 兄とあの人の問題よ。 とにかく、私はあなたの田舎へ行く。 お母様の還暦に」 ジュノ 「今年中に結婚しろって言われたら?」 シニョン 「私の仕事が忙しいから、もう少し後でと言って」 ジュノ 「本気で35まで結婚しない気? 子供はいつ生むんだ?」 シニョン 「最近子供を持たない夫婦も多いわよ」 ジュノ 「全て子供優先の人生は反対だ。 でも、1人くらいいなきゃ味気ないだろ?俺達、1人は作ろう」 シニョン 「ジュノ。 今、私にプロポーズしてるの?」 ジュノ 「みたいだな」 プロポーズして、されて、笑いあってるシニョンとジフンのバカっプルぶり…。 ジフンsi、シニョン兄を就職させたんですねぇ ゜o゜。 シニョン母へのアプローチは失敗に終わったけど、なにげに外堀埋めようとしてる?ジフンsi、ファイティ~ング! スンリのHPを見たというロックス百貨店文化センターから、コーディネート講座の講師を勤めて欲しいと打診を受ける。 チャン・スンリ、不幸な結婚に終止符を打った。 無節操な夫に対抗し、たった1度浮気した罪で、婚家からも実家からも追い払われた女。 ミンソク 「彼女は知らないだろ? ツバメで娘までいると知ったら気絶するな。 ビビるなよ。 俺は告げ口が得意だが、今回は黙ってる。 ここまではな。 だから、彼女の前から」 サンドゥ 「言いたきゃ言え。 せこいヤツ。 それが男のすることかよ。 好きにしてくれ、新聞でもTVでも全国ネットで隅々まで教えてやれ。 スズメみたいにチュンチュン言ってろ」 「 ツバメ野郎」とミンソクはサンドゥに殴りかかり、サンドゥも 「うるせえ、 スズメ野郎」と応酬し、殴り合いになる。 だけど、ウナンの初恋の相手が、サンドゥのよなツバメだったとは、確かに予想外だったろねぇ。 サンドゥ 「その格好は? 昨日の事故のせい? だから言ったでしょ。 事故は後遺症が怖いって。 脳や内臓は大丈夫?」 サンドゥ 「"肋骨"もひびが入って、"アバラ"にもひびが…。 腹減った。 両手をケガしてスプーンが持てなくて、昨晩から食べていないっけ? めまいが…」 ウナンはサンドゥのケガがヒスを追いかけたときのケガと誤解し、サンドゥにご飯を食べさせに行く。 忘れていった携帯を学校に届けたミンソクは、サンドゥと一緒にいるウナンを見る。 携帯を渡したミンソク は、「ウナン、君にとことんホレちゃってる…」と言うのだった。 ギブスが取れるサンドゥとミンソク。 サンドゥ 「おい、スズメ。 あいつ、とぼけてるけど、俺にホレてるんだぞ。 愛してるのさ。 勝負は決まったな。 かわいそうだが」 ミンソク 「ツバメ、愛が何かわかってるか? 言いたくなかったが、お前は負ける」 ウナンの母は、セラがトイレに行くのを見てポリに近づく。 戻ってきたセラは、ウナンの母を追いやるが、たった1枚しかない写真の母親と似ていることに気がつく。 だが、まさか…と首をふるのだった。 ウナン母、ポリには強く気になるモノがあるのに、ポリの母親のセラには無反応?なのはナゼなんだろ~? ジファン達の企みで、ヤクザが常連の店で焼酎10本飲んで酔っ払ったサンドゥは、ヤクザにケンカを売ってしまう。 殴られるサンドゥに加勢してしまうウナン。 ジファンの様子がおかしいと気になったウナンは、サンドゥの後をつけて来ていたのだった。 警察に通報され、一同は取調べを受けるのだが、酔いつぶれて取り調べを受ける状態でないサンドゥは、やはりジファン達の陰謀でサンドゥだけが残ることになる。 ウナンは、警察官に 「生徒が警察にいるのに帰れますか」と一緒に残る。 ジファン。 サンドゥおにいちゃんだよ。 あんたがすごくなついてた。 誰よりも好きだったでしょ。 この人がそうなの。 酔いつぶれたサンドゥを背負い、車に乗せるミンソク。 車の中で酔いが回っているサンドゥは突然起きし、 「ウナンはサンドゥがすきなのに、わざと嫌いなフリしてとぼけてるんです」と言うのだった。 サンドゥに膝枕してあげてるウナンを見たら、そりゃあ、ミンソクの心中は穏やかじゃないハズ。 このまま黙ってるわけないだろし、サンドゥVSミンソクの図が加速していきそう~。 「お願いだ、助けてくれ。 ハンガンがうちを吸収するため、裏で何をしてたかわかってる。 それもすべて私が悪い。 しかし、助けてくれないか? 助けてくれ。 一生の頼みだ。 長男がまだ高3なんだよ。 まだまだ子供で安心できないんだ。 だから、このままじゃ逝けないよ。 あいつを一人前にしてから死にたいんだよ。 私が無責任に残す重荷をすべて押し付けて、死ぬことはできない」 だが、ウンソクは耳をかさずに追い出す。 ウンソクは、そーゆ冷徹なヤな奴なのね。 グァヌは父親の工場にハンガンに吸収されそうになっていることも知らず、チェウォンに鎮海を案内し、島へ渡る船に乗る。 そして、戻る最終便の船に乗り遅れてしまい、二人は島から出られなくなってしまう。 グァヌは、父と釣りにきたときに泊まっていた小屋で、一夜を明かすことにする。 「親子で釣りなんてうらやましい。 私は何もしたことがないわ」 「最近はケンカばかりです」 「お父さんに謝って。 親に逆らうのは間違ってるもの」 「はい。 そう思っても逆の行動をとっちゃう。 帰ったら誤ります。 昨日も無視したんです。 話があると言ったのに。 一日中、気になってました」 "親に逆らうのは間違っている"、ほんとに儒教の教えが徹底されてるんですねぇ。 その頃、ウンソク理事に聞き入れてもらえなかったグァヌの父は、暗い夜の海に入って行くのだった。 チェウォンは、事故の時のケガで右手を使えないグァヌに、ラーメンを食べさせてあげる。 チャウォンを見つめるグァヌは、思わずキスしてしまう。 その拍子で、チェウォンは持っていたラーメンを膝にこぼしてしまい、グァヌを突き放す。 グァヌ 「ごめんなさい。 不快でした?」 チェウォン 「違うんです。 熱かったから。 すごく熱くて」 グァヌ 「はい?」 チェウォン 「火傷するところでした。 熱くて、死ぬかと思った」 グァヌ 「じゃあそれなら、我慢してれば、僕ならもっと熱くできるのに」 チェウォン 「これ以上はムリよ」 グァヌ 「自信ありますよ。 もう1度」 チェウォン 「ふざけてるんですか。 足を火傷しろとでも? グァヌさんの事を思って我慢したたのに」 グァヌは、やっとチェウォンの上にかかってしまったラーメンに気がつく。 いや、なかなか行動早いです!>グァヌ。 勘違い会話も楽しいし。 キスしといて不快だったか聞くのもおもしろいって思ったら、違うと答えるチェウオンもおもしろいよーな。 結局、チェウォン、キスはイヤじゃなかったってコトなのよね。 時間を気にしながら、島に行く船にエイッと乗っちゃうくらいだし、チェウォンもグァヌにどっぷり惹かれたってコトですねぇ。 …となると、この先、ウンソクの邪魔の手が入るコトに? 火をたき、小屋をあたためるグァヌ。 「チェウォンさんが寝て下さい。 僕が守ります。 火もあなたも。 来週末も、その次もずっと会いに行きます。 始発でソウルに行って、終電で戻ってくる。 今日がスタートなんです。 チェウォンさんの事、自分以上に大切にします。 僕が守りますから、安心して寝てください」 チェウォンにプロポーズをするつもりでいたウンソク。 グァヌ一緒にと島に足止めをくらったチェウォンは予定の飛行機に乗れない。 お金に糸目をつけずプロポーズの指輪を選ぶあたり、人を踏みつけて手に入れたお金なんかい(怒)!と思うと、イヤラシイ。 翌朝、島から鎮海に戻るグァヌとチェウォン グァヌの弟チャンビが泣きながら、「ソンチョン海岸に早くきてくれ」と携帯にかけてくる。 戻らなくてはいけなくなったグァヌは、チェウォンと12時半にもう一度会う約束する。 チェウォンの母は、宿泊先のTVニュースで、不渡りを出したブルージン社長(グァヌの父)が自殺したことを知る。 ウンソクは、買収したグァヌの父の工場長に、遺書を誰より先に必ずみつけるように言いつける。 そして、チェウォンから、社長(チェウオンの母)が弔問に行ったと聞き、弔問を止めるようにチェウォンと後を追う。 二人が駆けつけたときには、チェウォンの母と自殺したブルージン社長の妻(グァヌの母)がもみ合いになっていた。 そしてグァヌが亡くなったブルージン社長の息子だったと知るチェウォン。 葬儀にグァヌの姉ユンヒがソウルから駆けつけるんだけど、ウンソクがしているセミナー?の講義が終わったとこにやってきて、出席にしてとごねた女と同一人物? ユンヒの乗った飛行機にウンソクも乗り合わせていて、ウンソクの表情から、今後、何かが起こりそうな?気配…。 仲間とバンドの定期公演を控えていた。 アパレルの工場の経営に行き詰っていたグァヌの父は、グァヌに負け犬にならないように大学に進学させたくて、楽器を壊してしまう。 「一度しかない俺の人生だ。 親だからとこんな干渉するな」と反発するグァヌ。 チェウォンは、ソウルの高校の国語教師をしている。 チェウォンは、母から忘れた契約書を鎮海まで持ってきて欲しいと頼まれる。 アパレルの社長をしているチェウォンの母は、工場の引渡しのサインをするために鎮海に行っていた。 チェウォンは契約書を届ける途中、車から書類を撒き散らしてしまい事故を起こしてしまう。 事故に巻き込んだ車には、グァヌとバンドの仲間たちが乗っていた。 グァヌたちは、 「身体的精神的な補償に、公演キャンセル料と俺らの努力代もしぼり取る」と息巻くが、チェウォンに一目ぼれしてしまったグァヌは、補償の要求を取り消す。 鎮海で開かれている軍港祭で再び出会うグァヌとチェウォン。 「一目惚れです。 これからもっと好きになりそうです」 グァヌは、チェウォンに鎮海を案内する。 グァヌは、チェウォンから 「お仕事は?」と聞かれて、来年卒業の大学生だと、そっさにウソをついてしまう。 そしてグァヌは、チェウォンに 「おいくつですか?」と尋ねる。 チェウォン 「25です」 グァヌ 「25? 見えないな」(20、21、22…6歳も年上かよ。 メシ食わないで、年ばっか食ったのか?) チェウォン (大学生? すごく若いのね) グァヌ 「お仕事は?」 チェウォン 「何してるように見えますか?」 チェウォンは、グァヌの 「先生じゃなければいいですよ」という言葉に慌てるのだった。 結果的にお互い、ウソを付き合いっこしてしまう二人が楽しい。 6歳の年齢差と、ソウルで高校の教師をやっているチェウォン(天真爛漫、天然ボケ系?)と、鎮海の高校3年のグァヌの一目惚れの恋の行方、どうなる? ところで、歴史の爪あとを感じられる会話が…。 グァヌ 「日本軍が鎮海に軍港を作り、桜を植えたんです。 戦後に抜いたんですよ。 日本の国家だから」 チェウォン 「でも今は桜の街ですよね」 グァヌ 「鎮海に一番多い桜は、原産地が済州島(チェジュド)だと分かったんです。 単刀直入に、良くしてくれる理由を「孫だからじゃないですか?」と問うヨヌ。 ヨヌの存在をチェ会長以外は知らなかった。 また、これからも知らせるつもりがないのがわかったヨヌは、 「会長さんが下さると言ったもの、すべてお断りします。 会社で認められて成功して見せます。 秘密にします。 心配しないで下さい」と席を立つ。 ヨヌは、先輩のショーホストから、 「高卒のくせに」とバカにされ同じショーホストとして認めてもらえない。 ジュニが 「実力で勝負することね。 勝ったほうに従うってことで」と言ったことから、商品の選定にはじまり、販売した売上で勝負することになる。 ヨヌが勝ったらショーホストとして認められ、負けたらオペレーターに格下げか会社を辞めるという約束で、勝負は開始される。 ハンスは、きちんとした映画ではなかったことを知ると、 「こんな映画やらねぇ!」と契約金を叩き返し、違約金が払えない分、殴られる。 ハンスに呼び出されたヨヌは、ハンスを励ますのだった。 ハンス 「ヨヌ、俺、本当に怖いんだ。 自分に才能がないことを認めるのが、すごく怖い。 死ぬより、怖くて嫌だ」 ヨヌ 「あんた才能があるわ」 ハンス 「家で刺身作ってりゃいいのに、そしたらみんなが楽なのに、なんでだめなんだ? カメラの前で体が壊れるまでやってみたいんだ。 人気俳優になって金稼いで、かっこよく生きてみてえよ」 ヨヌ 「本で読んだんだけど、夢のある人は苦しむんだって。 でも夢を捨てない限り、どんなにツラくても必ず夢は叶うんだって」 ヨヌが借りたお金をぶんどって、しょうがないヤツと思ってたけど、映画にかける情熱だけはホンモノなのねぇ。 それにしても、こうもだまされやすいのは、ぼんぼんだから? ヨヌは、ドンソクに励まされる。 「ヨヌさん、ず勝つんだよ、いいね? 毎日、顔を見れるようにしてよ。 側で助けてあげられるように。 いいね?」 ビデオを見に行くヨヌ。 「心配できたのよ」とハンスに言う。 ハンス 「ほんとに心配できたのか?」 ヨヌ 「そうだってば」 ハンス 「ヨヌ。 好きだよ」 ヨヌ 「ラーメンのびるよ」 ハンス 「ここがじんと来るのを見ると、お前のこと好きみたいだ」 ヨヌ 「薪でぶたれたいの? ラーメン食べな」 ハンスが騙されて出演した、あやしげな映画のタイトルが「燃える薪」で、ヨヌはそれを持ち出したんですねぇ。 ハンスも手伝いにかけつける。 ミンクのコートは売り切れたのに比べ、ヨヌも出足こそ好調だったが後半伸び悩み敗色が強まるが、最終的にはヨヌの誠実さが商品の購買につながり、ヨヌの売上高の方が上回った。 喜びの涙を流すヨヌ。 「買ったわ。 辞めなくてもいいって」 チェ会長が倒れ、病院に運ばれる。 チェ会長と主治医の話を偶然聞いたジュニの母は、夫が愛したヨンスクに娘がいたこと、それがヨヌだと知ってしまう。 ジュニの母は、ジュニに、ドンソクとの結婚をますます反対するのだった。 「カン・ドンソクは絶対ダメ。 彼はお前を愛してないわ。 ヒョヌにしなさい。 お前を一途に愛してくれるわ。 言う通りにして。 お前を愛してない男と結婚するの? 不意打ちを食らってみる? どんな気持ちだか、お前にはわかる?」 (私を傷つけた分、あの子、ただじゃおかないわ)ジュニの母は、そう夫の寝顔に誓う。 ジュニ母、怖い~。 だけども。 ジュニ母、ジュニを自分と同じ道を歩ませたくなくて必死なところは、母親なのねぇ? ジュニは、ドンソクに愛されているかどうかとか相手の気持ちはどでもよくて、自分が愛しているかどうかが重要なんですかねぇ。 ジュニ母 「ドンソクは、ジュニをちっとも愛してませんわ。 それなのに結婚しようとしてるのよ。 それが金目当てでしょう。 そんなところも嫌いです」 ドンソク父 「何もない家ではあるが、立派に育った自慢の息子だ。 そんな風にしかみないのなら、息子はそちらにはやれません」 ジュニ母 「それは結構ですわ。 二度と会わないことを願います」 ヨヌ 「大人の話に入るのは失礼ですが、弁護士さんは立派な方です」 ジュニ母は、 「生意気な」と、ヨヌの頬をひっぱたくのだった。 チョン・ヘリン 恋人を交通事故で亡くす。 恋人の着ていた服、礼服だったので、もしかして結婚式当日の事故だったとか!? カン・ソクミン 海軍の大尉。 両親を亡くし、妹スジンだけが肉親のせいか、妹を度を過ぎるほど大事にしている。 結局助からなかったけど、ヘリンの恋人を事故を起こした車から助けだしていたのは、ソクミンだった? ヘリンに惹かれる。 イ・スンハ 医師。 ヘリンの先輩。 カン・スジン ソクミンの妹。 医学部の学生。 ソクミンの妹スジンが盲腸で救急車で病院に運ばれ、手術を受ける。 手術を担当したのはスンハで、休みだったヘリンも手伝う。 スンハは、ヘリンから「美人だからか、きれいに縫ってあげたのは不公平」だと言われる。 スンハ 「違うよ。 傷が残って嫁にいけなかったら責任とれって」 ヘリン 「チャンスだったのに」 スンハ 「もったいないけど、お前を見て思った。 他の女に心は奪われない。 だからきれいに縫った」 ソクミンは、スジンが手術後に腹痛と熱を出し、近くにいた医師ヘリンをスジンのところへ連れて行く。 その後もちょっと様子がおかしいだけで呼びつけてしまい、ヘインに閉口される。 スジン 「あの医者、きれいだけど冷たいね」 ソクミン 「それだけじゃない。 おっかないよ」 スジン 「まあ、バラにはトゲがあるもんね。 兄さんには、ピッタリだと思うけど」 ヘリンは、亡くなった恋人の妹にソクミンへの怒りをぶつける。 スジン 「もう信じられない。 あんな奴、初めてよ。 何てバカなのかしら」 亡くなった恋人の妹 「でも、純粋さが感じられる」 スジン 「純粋?ふざけないで。 純粋なのはウジンさんの事よ」 亡くなった恋人の妹 「だから、バカなのも純粋そうなのも兄さんにそっくり」 スジン 「純粋なんて言葉、軽く使わないで」 ソクミンは、"トッチョク島で緊急事態。 妊婦を病院へ運べ"という指令を、船の上で受信する。 妊婦を船に乗せ病院に向うが、医師もいない中、苦しむ妊婦に船の中はパニック状態になり、ソクミンはヘリンに電話をして状態を言う。 そして、妊婦は迎えにきた救急車で搬送される。 ヘリンに親子を助けて欲しいと頼むソクミン。 「今日、初めて知りました。 父と母が、こういう気持ちで僕を待っていたんだと。 だから、生きているならお礼を言いたいです。 少し不吉ですが、子供だけが残ったらどうしよう、こんな厳しい世の中を1人どう生きるのか、そう思うと祈らずにいられないんです。 俺は、俺が経験したような辛い人生は送ってほしくない。 だから、あの親子を助けてください」 難産の末だったが子供が生まれ、母親も無事だった。 ソクミンは、喜びヘリンに抱きつく。 そしてヘリンは、新生児室の中から、ソクミンに生まれた赤ちゃんを見せる。 ソクミンは、どうやら赤ちゃんを抱くヘリンに心を奪われたカンジ。 「死を生命に替えたこの手、本当に感謝します。 僕がいくら命をかけても、この手がなければ生まれなかった。 だから、あの子は俺たちの作品だ」 ヘリンに強引にキスしてしまうソクミン。 ヘインは、ソクミンに足蹴りをくらわす。 こ、行動早いです!>ソクミン。 ジファンを保健室送りにしてしまったサンドゥは、教師から校庭10周を言い渡される。 そして、10周走ったサンドゥにウナンは、さらに10周いいつけるのだった。 「もう10周走れと言ったの。 人を殴るために学校に入ったの? 早く10周する」 走り続けるサンドゥの姿を、ずっと見ているウナン。 サンドゥは10周終わっても、やめようとせずひたすら走り続ける。 日が落ち、ついに走りつかれて、校庭に寝転ぶサンドゥ。 「気は確か? 反抗しているつもり? 誰が30周もしろと言ったの。 数もかぞえられないの? 死にたいわけ? このバカ」と、ウナンは駆け寄る。 サンドゥはウナンに向って手を伸ばす。 そして差し伸べたウナンの手を掴むと、ひっぱって地面に転がす。 「星を見てください、先生。 ソウルでもあんなに星が見えるんだ。 故郷と同じだ。 あの輝いている星の名前、わかります?」 それは、高校の時、ウナンがサンドゥに教えた琴座の織姫星だった。 "天の川を挟んで、牽牛星と向かい合ってるの。 今日は牽牛星が見えないな。 牽牛と織姫ってかわいそう。 愛し合ってるのに、一緒に暮らせないの" サンドゥはウナンにキスしようとするが、出来ずに走り出してしまう。 愛し合ってる…んですよね、やっぱし。 だけど、2人は、アルタイルとベガ…なワケなのねぇ。 ユン・ヒソの父が借金を踏み倒して逃げ、ヒソのクラスに債権者たちがやってくる。 ヒソは絶対渡さないと、追い出すウナン。 ウナン 「親がしでかしたことは、子供に関係ないでしょ。 学ぶ権利を奪う気? 今度来たら、私が黙ってないわよ」とサンダルを投げつける。 サンドゥ 「すげえ。 先生、ずいぶん気が強くなったね」と、サンダルをウナンに投げるサンドゥ。 それから、叔父から 「ポリの入院費が底をついた」と電話があったサンドゥは、学校を抜け出す。 ミンソクは、サンドゥの叔父が男の子のアイスを取り上げたことがきっかけで、サンドゥがツバメをしていることに気がつく。 ミンソクは、ポリにちょうちょの替え歌を教える。 パパツバメ、おじさんツバメ、踊りながらおいで。 ミンソクを訪ねてきたウナンの母は、ミンソクに手を引かれたポリを見る。 「どこかで会ったみたい。 見覚えがあるわ。 チャ・ポリ? かわいいわね」 そして、自分と同じところにほくろがあるのに気がつく。 「お母さんのお名前は? もしかして、コン・パルランじゃない?」とポリに尋ねるウナンの母に、ミンソクはポリには母親がいないことを教えるのだった。 ポリに謝るウナンの母。 その後のミンソクのセリフに、 「彼女もおかあさんを、本当の母親だと思ってます」ってゆーのがあって、とゆーコトは、ウナンは本当の娘じゃないってコトで、じゃあ、セラとは血の繋がった姉妹ではないってコトなのね。 そーなのかあ。 登校中、ヒスが債権者たちに連れ去られる。 ウナンは車を止めようとするが振り切られてしまい、サンドゥは教師の車のキーを取りあげ、その後を追う。 頭を突っ込んではいけない思うのだが、追跡を止めることが出来なかった。 「しっかりしろ。 大事な家族がいるんだ。 質素にしぶとく生きようぜ。 ちくしょうダメだ」 ヒスを乗せた債権者たちの車と、サンドウの車が接触してしまう。 そこにウナンが追いつく。 「しっかりして、サンドゥ。 何て事に。 サンドゥ、大丈夫? ドアを開けて」 病院の前で悔やむウナン。 ごめんね、サンドゥ。 私が悪かったのよ。 巻き込んでしまって。 神様、どうか無事でありますように。 サンドゥに何かあったら…。 サンドゥじゃなくて、私を連れて行って。 ひどいことを言いました。 彼の自尊心をズタズタに傷つけて、生徒たちの前で年くってる彼を、イヤがってるのに30周もさせて。 どうすればいいんですか。 サンドゥ、ダメよ、死なないで。 どうすればいいの? そこに小指に包帯を巻いたサンドゥが出てくる。 気がつかないで取り乱しているウナンに、 「すばらしい。 感動的だったよ。 もらい泣きしそうだった」、と茶化すサンドゥ。 ちょうちょの替え歌、面白かったし(でも、ミンソクsi、悪趣味ですよぉ~)、だけど、お笑いを取り除くと、重たいストーリーのよう気がして、コメディっぽいところが逆に切ないキモチにさせられるカンジする…。 合宿当日、ジョンウンと一緒に姿をあらわしたユジンに、ジョンナムは不機嫌になる。 丸太小屋につくとヨンミンを呼び出し、ユジンがセミナーに入ることには反対だと言うジョンナムだったが、胃ケイレンをおこし倒れてしまう。 民家に住んでいる漢方医のところに、ヨンミンが背負い、ユジンも付き添い連れて行く。 ヨンミンはおじさんが戻っている頃だと車を取りに戻るのだが、状態が落ち着くジョンウンは、途中でヨンミンに会えるから、ユジンに戻ろうという。 だが、ヨンミンは出会えず、ジョンナムとユジンは道に迷う。 ヨンミンたちも二人を探しに出る。 「あんたが道を忘れるからいけないのよ」と、ユジンを責めるジョンナム。 ユジンは、北斗七星を頼りにジョンナムを連れて丸太小屋に無事に戻る。 ヨンミン 「よく戻って来れたな。 ジョンナムが感謝してた。 本当に無事でいれくれてよかった。 結構、迷ったんだろ?」 ユジン 「ママが教えてくれたの。 道に迷ったら、北斗七星を探すようにって」 おおっ、ポラリス! ヨン様、自分が言うんじゃなくて、聞く役もやってたのねぇ~。 部屋で枕を並べたジョンナムは、ユジンに謝る。 ジョンナム 「あなたについて、よく知らなかったの。 帰国してよかった?」 ユジン 「思い出すわ。 高校3年の時だった。 何もかもがつらかったある日、大都会の真ん中で道に迷ったの。 笑えるでしょ? 急に道が分からなくなったの。 ポケットには1セントもなく、街には知らない人ばかり。 地球に放り出されて、迷子になった気分だった。 この世界で、一人ぼっちになったような。 寂しかったわ。 そのとき、自分の国に戻ろうって決めたの」 ジョンナム 「ねえ、よく帰ってきたわね、おかえり。 これからは上手くいくわ」 ユジン 「ありがとう」 1995年ってゆーと、ちょうど10年前だけど、日本に置き換えて考えると、それくらいの時代で(…ってゆー感覚なので)、偏見とゆーか保守的とゆーのか、社会的に認知?されていなかったんですねぇ。 ビックリした。 なぜかジョンナムは好きになれないのよねぇ。 ユジンは、なかなかカンジのいい女の子みたい。

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